第17話 壊れたテレビ2
静かに揺れる車内で私は揺れていた。それはもうウキウキから来る自然で本能的な揺れで、前後に小刻みに揺れる。買い与えられたおもちゃを早く開けたい子供のように、体が動いてしまう。
後部座席には42V型の液晶テレビ。暗い映像もくっきりと鮮やかに見えるところがとてもいい。夜のワンシーンで全く何も見えなかったあの頃にさようなら。同時に3番組まで録画ができる所もポイントが高い。今まで泣く泣く何を録画するか吟味するか悩んでいた日々が懐かしい。そして何よりも、外付けの録画機が必要がないのに100時間近く録画ができる。家でほこりをかぶっているあの録画機のスペースすら必要なくなるのだから、もういたせり尽くせり。
けして安い買い物ではなかったけど、私を喜ばせるには十分すぎた。そういうわけで、私の中ではもうこれ以上ないくらい心が躍っていて、その反動で体も揺り動いていた。
「明美、楽しそうだな」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
弘人がちらっと私の方を見て、苦笑いをする。
「俺と出かける時よりウキウキしているんじゃないか。こんなに楽しそうにしている明美はなかなか見たことがない。明美が喜んでいるならそれでいいんだけど、俺としては嫉妬してしまうかな」
そういう弘人の姿勢は心なしかだらけていて、やれやれといった感じがありありと伝わってきた。
「まぁ、仕方ないよ。テレビは大事だし」
そう、仕方ない。私の唯一の楽しみだから、中々勝てるものはない。
そうこうしている間に、景色は近所の街並みへと変わってきた。奥の方に見えてきた公園はぶんたとお婆さんがよくいく公園だ。もう5分も経たずに家に着く。
「ぶんたはともかくテレビにまで負けてしまったのはちょっとへこむな。俺もいい加減良い所見せないとな」
苦笑いを噛み締めつつ、弘人はハンドルを切った。
「こうやって休日に買い物付き合ってくれるだけでもいい所だよ、ありがとう」
「どういたしまして」
気だるい返事。弘人が言い切るか言い切らないかしたところで、急に弘人の顔に驚きの表情が浮かんだ。
急停止する車に揺られ、体が前に大きく倒れそうになる。とっさに弘人が手で押さえてくれたおかげで、かすかに揺れるだけですんだ。ごめんごめん。弘人が指さす方向を見ると、脇の小道から子供たちが一斉に走って公園に入っていく姿が見えた。急ブレーキがかけられたことによる驚きで、心臓が少し早く高鳴っている。弘人も同じなのか、胸をなでおろしていた。
「こういう公園周りは子供が飛び出してくるから、結構気を使うんだよ」
左右から子供たちが来ないかを改めて確認するため、弘人はきょろきょろと頭を動かしてた。子供たちが過ぎ去り、安全が取れたことを確認すると、一つ深呼吸をして車を進めた。
「明美も運転できるようになったら、気を付けなよ」
「私は弘人に運転してもらうから大丈夫だよ。ずっと隣でこうやって座っているから」
またちらっと、でも先ほどより少し長くこちらを見てきた。弘人は視線を戻すと少しにやついて鼻をこすった。
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