第16話 壊れたテレビ1

 テレビが壊れた。今時、古いブラウン管のテレビがよくここまでもっていたよねと思うんだけども、ついに今日、そのテレビが壊れた。電源をつけようにもまずボタンが反応しない。10回ほど連打してみて、それでも全く身動きすらしないのだからもう寿命なのかな。

 休日にテレビを見るのはささやかな楽しみだ。とりわけ、平日に撮り貯めたドラマがいくつか残っているのでそれを消化していく一日がまたのんびりとした感じでいい。そんなささやかな幸せを享受できないのだから、私にとってテレビがないというのはとても由々しき問題になっている。本当にこのテレビは壊れているのだろうか?少し、頑張れば動くんじゃない?

 ちょっとテレビを叩いてみる。お母さんがこんなことをやっていたような、やっていなかったような、そんな気がする。

 鈍く重い音が響くだけで、やっぱりうんともすんとも動かない。

「なにテレビに当たっているんだ」

 ぶんたがしれっと後ろからやじを飛ばしてくる。別に当たっているわけじゃない。

ただ私はテレビにやる気を出してほしいだけだ。いつも通り私に素晴らしいドラマ達を見せてほしいだけなのだ。それでもテレビはやる気を出さない。暗い画面のまま、ただ静かにたたずんでいる。あふれ出るテレビ欲に思わず地団駄を踏んでしまう。

「ぶんた、私テレビ見たい」

「テレビならそこにあるじゃないか」

「あるけどないの」

「意味がわからない」

 何を言っているか分からないとぶんたはそっぽを向く。大きなあくびをして、体を伸ばし、毛繕いまでし始めた。薄情な猫だ。飼い主がこんなに困っているというのに。

 とはいえ、ぶんたに文句を言っても仕方ない。座り込んでゆっくり考え込んでみることにした。最短でテレビを見るには、テレビを持ち帰れる必要がある。となると電気屋さんに行って買う一択だ。でも、近所に電気屋さんなんてあったかな。

 それに仮にあっても家まで持ち運ぶ手段がない。最近のテレビは薄型になったとは言っても、私一人で運ぶにはなかなか骨が折れる。こういう時に猫の手でも借りたいけど、肝心の猫の手が毛繕いに使われているので助けにはならない。というか、元から助けにならない。せめて車があればいいのにな。ちょっとした絶望のため息が口から漏れ出す。私の休日はこうやって無意味に消費されていくのだろう。

「ぶんた、テレビ買ってきて」

 ダメ元なのはわかっている。でも、なんだかやるせない気持ちで、ぶんたにすがりついた。セクシーに足を上げておなか付近をなめているぶんたは上目遣いで言う。

「テレビなんて俺はいらないぞ。そんなに欲しければ自分で買ってくればいいじゃないか」

「テレビ重くて持ち運べないの。ただでさえ非力なのに、あんな重い物運ぶなんて無理なの」

「じゃあ、だれかに手伝ってもらえばいいじゃないか。適当な男捕まえてきて、運んでもらえばいいじゃないか」

「そんな適当な男なんて、私には」

 いない。そう言いかけて気付く。適当かつ適任な男いるじゃない。たまにはぶんたも良い事を言う。


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