第15話 デート3

 河川敷といっても、そんなに特色があるような場所ではない。せいぜいサッカーグラウンドがあったり、ちょっとした丸太のアスレチックがあったり、そんなものだ。春がだいぶ近づいてきているとはいえ、何か遊びに来るような場所でもないから人もまばらだ。

 川縁に沿ってぶんたは歩いていく。時々、階段上になっているところを見つけると少し早歩きで向かい、下を覗いてはため息をつく。ちらっと後ろから覗いてみると、確かに釣りをするにはやり易そうなスペースがポツリとある。釣れるかどうかは分からないけど、人目にあまりつかずにぼんやりと過ごせる憩いの場ではありそうだった。

「おっさんはいないか」

 尻尾を落としてぶんたがとぼとぼと歩く。お腹が空いていただけに、なおがっかりしているようだ。

「残念だったね、ぶんた」

「あぁ、全くだ。こんなことなら明美に飯買ってきてもらっていた方がずっとよかった」

「どうする、帰る」

「そうだなぁ」

 ぶんたが空を見上げている。真似して空を見上げてみる。雲一つない青い空がどこまでも広がっていた。電柱なんて一つもない塞がれていない空。一羽の鳥がゆったりと羽ばたいている。すがすがしい空だ。

「俺はもう少し、ゆっくりしていく。少し眠いから、寝てから帰る」

 ぶんたは手ごろなベンチを見つけるとベンチの上に乗って毛繕いを始めた。暗い木目調で二人が座れるくらいのの入ったベンチだ。ところどころ木がかけていたりするけども、座るのをためらうような感じではない。

 折角のデートだ。もう少し付き合ってみようかな。隣の空いているスペースにゆっくり腰かけた。

「明美は帰らないのか」

「折角だし、ぶんたとまったりしていこうかなって」

 不思議そうにこちらを見てくるぶんたにそう答えると、小さく伸びた。

 そうか。興味なく言って、ぶんたは丸まった。


 水の名上がれる音が聞こえる。風の流れる音が聞こえる。喧騒からは程遠い場所。静かにゆったりと流れるこの空間はとてもいい。

「ここは良いね。静かで、あったかかくて、風が気持ちよくて。水の流れる音も嫌な感じじゃない、心がほっとする」

「そうだな。ガキどももあまりやってこないような場所だから、昼寝をしていても邪魔をされることもない。何より」

 そういってまたぶんたは空を見上げる。

「この空が良い。何にも邪魔されず、いつまでも飛んでいく鳥を眺めて旨そうだなと物思いにふけられる。人間には分からないだろうが、何の心配もせずにただゆったりと過ごせる一日がまた凄くいいんだ」

「ぶんたも物思いにふけるんだ」

「あぁ、いいぞ。時折風に乗っていいにおいがしてくるんだ。今日は魚が食いたくなったから明美に言ってみるかとか、何だったら匂いの元に行ってみるかとか、色んな事を考えて、でも眠くなって。結局瞼を閉じるといつの間にか日は傾いているからじゃあそろそろ帰るかって、一日が過ぎていく。そんな一日が俺はとても好きなんだ」

 得意げに、満足げに鼻をクンクンとさせてぶんたは目を細める。その穏やかな表情はどこか幸せさを感じさせた。

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