第6話 ディナー1
手元の腕時計は6時58分を指していた。相変わらずギリギリだけども、遅刻していないので問題ない。それに可愛く「待った?」というのもまた面白いかもしれない。私のキャラじゃないけれど彼なら笑って突っ込んでくれるはずだ。
改札口を出ると相も変わらず人がごった返していた。商業施設の中にある駅なので、そこら中に買い物をするお客さんがたくさんいる。ケーキ屋さんの前にいる女の子と次々にショーケースの中のケーキを指さして、隣にいるお父さんを困らせている。そんなお父さんも微笑みながら答えているから楽しそうだった。ガラス越しに見えるカフェでは若い男女が楽しそうにおしゃべりをしてた。カップルだろうか。でも男の子の方の笑いが何となくぎこちなさを感じるし、女の子もちょっとオーバリアクションな感じが見て取れるから、きっとまだそこまでの関係なのだろう。
色んな日常が垣間見える場所を後に、約束の場所へと急ぐ。
建物を出ると小さな広場が広がっていた。相変わらず人通りは多い。駅から歓楽街へと通り抜ける導線なだけあって、立ち止まる人は少なく、皆一直線にそちらへ向かっていく。信号待ちをしている人が広場に溜まったかと思えば一気に吐き出して、街に吸い込まれていった。
広場の端には腰かける程度の手すりのようなベンチがいくつか置いてあり、ちらほらと待ち合わせをしている人がいる。少しあたりを見回してみるけども、まだ彼は来ていない。おかしいなと思い携帯を確認すると一件、メッセージが届いていた。
『ごめん、道が混んでいるので少し遅れます』
ふむ。とちょっと心が落ち込む。とは言え彼の責任ではないことも分かっているので、こればかりは仕方ない。
手ごろな空いている所を見つけて手すりに寄り掛かった。ひんやりとした冷たさが手元から伝わってくる。思わずため息をついてしまい、いけないと空を見上げてみた。
太陽が沈んで暗くなっていた空だけれども、雲一つかかっていない快晴で星も見えた。空を突き刺すようにビルが何本も伸びていて、窓から暖色の光が漏れている。
今回は全部彼任せなので、どこのお店に行くのかは聞かされていない。でも、いいお店に行くから楽しみにしていてねとは聞かされている。ドレスコードがあるというくらいだ、きっとあんな風に高い所にあって都会の景色が一望できるようなそんなお店なのだろう。
だからこそいつもより少しおしゃれな格好をしてきた。
コートの下をちらっと覗く。アッシュブルーのスモーキーカラードレス。シースルーの七分袖が印象的で首元の宝石のような装飾がまたいい。シンプルだけど、大人っぽくて着飾りすぎない。派手さもないけれど、どこか優雅な感じがとても気に入っていた。
彼は気に入るだろうか。いや、別に気に入らなくてもいい。ただ綺麗だねって言ってくれるだけでそれだけで心が跳ね上がる。そんなたった一言で良いのだ。コツコツと、携帯の画面をたたきながら期待に胸を躍らせていた。
そんな私の心を知ったのか、ちょうどよく電話が手元で震える。さっと出ると、そこには聞き覚えのある声があった。ちょっと低めの優しさにあふれたそんな声が。
「明美、ごめん待たせた。今、広場近くの道路脇に居るんだ。どこにいる」
彼の声は少し焦りを帯びていた。申し訳なさそうな感じで少しいつもより低い。
あたりを見回すと見覚えのある車が止まっているのが見えた。ちょっとごつごつした白い大きめの4人乗りの車。その向こう側、胸から上が見える状態できょろきょろとしている男性が見えた。前髪を掻き上げた七三分けの黒髪。耳にちょっとかかるくらいの長さのあの感じは間違いない。
「今行くね、
電話をつなぎながら歩み始めた。ちょっとだけ小走りで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます