第4話 大ピンチ! 男(?)の操

 翔と美波は、美波の家で一緒にアクティブバースのDVDを観ていた。


 そして……

 出産直後の産婦の表情は、苦痛の限界から解放された事による至福の表情であった。さらに安堵のため息。


「ものすごくスッキリするからね。なにせ10か月に渡る便秘が一気に解消されたようなものだから。かなりの爽快感かも。でも子供が生まれた感動でそんな事考えてないと思うよ」

「すごい例えね。でも的を射てる」


 お母さんと赤ちゃんをつないでいたへその緒が切られた。

「本当見て良かった」

「まだ続きがあるよ。へその緒が出てるでしょ。このあと胎盤が出てくる」


「そうだよね」

 少し経つと胎盤が出てきた。

「ちょっとグロいかな。でも場所によってはこれ食べる風習がある所があるの。レバーみたいで結構美味しいよ」


「それにしてもすごい量の血だね。生理どころじゃない」翔はなんとかして平静を保とうとなるべく冷めそうな話を振ってみた。


「かわいいのね、早紀……好きよ……」美波は翔の耳元でささやいた。

(えーっ! 今好きって言ったよね? 聞き間違いじゃないのか?)


 そして、素早く翔の肩に手を回し、唇を重ねてきた。

 美波は翔とキスしたのである。しかもかなり上手だ。


 翔は不覚にもうっとりしてしまった。なんという情熱的なキスなのだろう。まずは軽く唇を重ねただけだったが、すぐに舌を絡めてきた。すごいテクだ。

(そんな事されたらPSASの症状が……)



「早紀、あなたってとてもかわいいわ」

「い、嫌……私さすがに女の子とするなんて……ダメ……」翔はもともと女の心を持っていたのか、それとも早紀への深い愛からなのか、ごく自然にこのセリフが出て来た。

(ダメだ、気が遠くなる。体が動かない……)


 レズには役割がある。タチとネコ、更に両方できるリバ(リバーシブル)である。タチは男役。リードする側だ。そしてネコが女役。リードされる側である。美波はタチ寄りのリバだった。


 翔は、入れ替わる前も小柄でケンカ一つした事もない男であった。今は早紀という女の身体で、しかもPSASでヘロヘロになっているのだ。


 こんな状態で、果たして翔は美波の誘惑を跳ねのける事が出来るのか!?



◇◇◇◇◇◇



 翔が貞操の危機に陥る少し前。カクヨムに登録して小説の投稿を始めた翔と早紀は、全く反応がない状態がけっこう長く続き、心が折れそうになっていた。


 そこで早紀の提案にしたがってツイッターを始めてみたものの、初めのうちはフォロワーも少なく、状況は変わらなかった。


 あいかわらずコメントもレビューもゼロ。ほんのわずかPVページビューが増えた程度であった。


 そんなある日、ついに初レビューが入った。とても温かいレビューだ。


 これを読んだ翔と早紀は、飛び上がって喜んだ。


 それだけではなかった。レビューがされるとカクヨムのトップページにリンクされるのだ。


 その結果、レビューがされた日の一日で今までのPVをすべて足したよりもはるかに多くのPVが得られ、更にハートやコメントをもらえるようになった。他の執筆者の方達とも繋がるきっかけとなったのである。


 こうなってくると執筆活動に大きな変化が生じた。今までは悶々としながら孤独な執筆作業を続けるのみであったが、温かい交流が生じて精神的に癒されると共に、今までのやり方でまずかった点、改善すべき点が明確になってきた。


 まずは、既に書いた原稿を、一刻も早く誰かに読んで欲しいと思い、あせって一気にアップしてしまっていた。これは大変もったいない事なのだ。


 なぜなら、新着記事というトップページにリンクされるチャンスが減ってしまうからだ。


 次に、良く考えずにタイトルを決めていた。特にウェブ小説としてはいただけないタイトルだった。また、当初はサブタイトルなしであった。


 タイトルから物語の内容が分かりにくかったのだ。


「クマノミの出産」これではどんな話なのかさっぱりわからず、人間のサガとして分からないものはスルーするという事になってしまう。


 これからどの小説を読もうかと物色している状態から、一歩進んで読んでもらう必要がある。そのためには、ぱっと見てどんな話か分かるタイトル(さらにキャッチコピー)でなければいけない。


 だから長いタイトルが多いのだ。単に一時的に流行っているだけではない。そこでサブタイトルを加えた。「クマノミの出産~男だって赤ちゃん産みたい!」これで男性の出産の物語である事を明確化した。



 更に、各話ごとの題をつけていなかった。当初、章にのみ題を付け、各話については数字で示していた。これは、一般の小説をまねたのである。


 一般書籍ならばそれでも特に問題はないのであるが、ウェブ小説では困る。なにしろ貴重な時間を費やして読んでもらう訳だから、各話ごとにどんな話なのか分かった方が良いのだ。


 もし仮に、途中で多少つまらない話があったとする。でも、その後とか2~3話先に興味深い題の話があれば、「読んでみよう」という気になってもらえる可能性がある。


 ところが、数字しか並んでいなければ、もうその人は脱落して戻って来てはくれないのだ。


 当初はプロフィールにもほとんど情報がなかった。これでは自分に合った読者が獲得出来ないというミスマッチの原因になってしまう。


 一話あたりの文字数が多すぎた事も、改善すべき事項だ。文字数が多すぎるとなぜまずいのか。なにかの事情で、どうしても途中で読むのを中断しなければならない時がある。


 そんな時、文字数が少なければその話を最後まで読み、続きは次の話とすれば良い訳だ。


 ところが、話の途中だと、自分がどこまで読んだのかが分からなくなってしまう。


 だから、目安として1話あたり3000字以下ならば、この問題をクリア出来る。


 当初、多い話だと1話1万字とかになっていた。これだと明らかに多すぎる。



 ここまでの事項は、翔と早紀が他の人の作品を読んでいる時に、「これはまずい」と気が付いたものだ。


 他には、ランキング上位や面白い作品を執筆している人達がどんな事をしているかという事がとても参考になった。

 

 例えば、☆や♡をもらうための記載がなかった。ランキングをあげるためには☆や♡をたくさんもらう事が重要である。とはいえ、ひと手間要するこのアクションを取ってもらう事はなかなか大変なのだ。


 何もなければそのままスルーされてしまい、あまりしつこくても嫌われる。


 そこで、章が終わった時等、区切りのいい所でお願いの記載をする事にした。また、なぜ☆や♡をくれるのかの理由を提示した。


 パソコンの画面ではあまり感じなかった事が、出先等でスマートフォンやタブレットで読むと大変読みづらい文章だった事に気付いた。行間がギッチリと隙間なく、読みづらい状態だったからだ。


 このような改善が功を奏し、またツイッターのフォロワーが増加して徐々にバズり始めた。


 バズるというのは、インターネット上でSNSSocial Networking Service等を通じて爆発的に話題になる事をいう。英語の「buzz」を語源として作られた造語である。


 英語の「buzz」は、元々「ブーン」といった音を表した語であるが、転じて人の噂話や口コミによる評判等を意味するようになった。



 かくして、翔と早紀の作品はだんだんランキングの上位に食い込む事が出来るようになったのである。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第5話は、貞操の危機に陥った翔。一見抵抗不能な状態に見えます。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

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