第3話 女が最もキレイになる時
美波が翔に言った「出産はね、女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時なんだよ」という発言。
翔は、この時点では冗談半分だろうと思ってあまり気にもとめずにいた。
翔と早紀は、カクヨムに登録して小説の投稿を始めてみたものの、全く反応がない状態がけっこう長く続いた。コメントもレビューもゼロ。
「う~ん。このままじゃ鳴かず飛ばずだな。どうしようか」
「ツイッター始めてみよっか」早紀が提案した。
「そうだね」
やはり、ただ投稿しただけではなかなか読んでもらえないようだ。
そんな中、美波の粋な計らいでマタニティビクスが問題なく出来るようになった翔は、出産に向けて順調なプレパパ(?)生活をおくっていた。
美波と会った時に、いつも出産について熱く語る彼女を見て、翔はこう思った。
(そうか。今まで自分はなぜこれ程まで出産したかったのか良く分かってなかったのかもしれない。言葉に出来なかった事を、カトミナはとてもうまく言葉でズバッと言い表してくれたんだな)
「カトミナ、前に言ってた『出産でキレイになる』っていう話、もっと詳しく聞かせて欲しいんだけど」
「ちょっと違うんだな。『出産は女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時』だよ」
そして、美波はニコッと笑って今度はこう言った。
「私があれこれ言うよりも、百聞は一見にしかず。実際に見た方が早いよ。これから私の家に出産のDVDを観に来ない?」
「ぜひ観たい」
美波の家は鷺沼医院のすぐ近くにあった。
「出産DVDは後で母親学級でも見るけれど、もっとずっとあなたに見せたいのがあるんだ」
「へーどんなの?」
「アクティブバース。自宅出産だよ」
美波が翔に見せた出産のDVDは、家族全員の前で産んでいた。
「今は修行のために病院勤務だけど、いずれは助産院に転職してアクティブバースを極めようと思ってるんだ。将来的には自分で助産院を開きたい」
「カトミナすごいね。その夢叶うといいね」
「絶対叶えるよ」
産婦は、まだあまり痛そうには見えない。
「もう始まってるの?」
「今は10分間隔くらいかな」
少し経つと、かなり痛そうな表情に変わってきた。間隔もだんだん短くなっていった。
「今の時期が一番辛い時期なの。いきみ逃ししなきゃだから。ちょっと汚い例えだけど、ひどい下痢でトイレに行きたいのを我慢しなきゃいけない所を想像してみて。それも普通の下痢の100倍痛いのを我慢するんだよ」
この時期にいきんでもまだ赤ちゃんが子宮内にいるから出産が進まない。それで疲れてしまい肝心な時に力が入らなくなって難産になる。子宮口が開くまでは我慢しないといけないのだ。
「アクティブバースはね、自分が一番産みやすい姿勢をとるの。病院出産であお向けだと『産み落とす』じゃなくて『産み上げる』みたいな状態になって産みにくいから」
産婦は四つん這いでやや横を向いた姿勢をとっていた。病院での出産のイメージを持っていた翔はこれにもびっくりした。
翔は美波の解説を聞きながら、初めて見る無修正の出産動画に見入っていた。
「このDVDだと見えにくいけど、だいたいこのぐらいの時期に破水するの。そうなるとすぐ赤ちゃんの頭が見え始めるよ」
もちろん下着は付けていない。無修正だからアソコも動くたびチラチラ見える。
「う~ん」
さらに、苦痛の表情で一生懸命いきむ産婦。
美波は全く顔色を変える事なく、いつもどおり出産への熱い思いを語っていた。
良く見ると赤ちゃんの髪の毛らしいものが見えていた。もうすぐ出てくるのだろう。
産婦がいきむ声を上げるたびに、少しづつ赤ちゃんの頭が見えて、だんだん大きくなる。
「ここ、ここに力を入れて。なるべく長ーくいきんで。はい上手よ、その調子」
助産師は産婦に声掛けしている。そして陣痛の合間になると今度はいきむのをやめるように指示した。
「今痛くないでしょ……痛くない時は深呼吸を繰り返して。いきまないでハーハーして」
陣痛の合間にはまた元の頭が見えない状態に引っ込む。少しずつ出てくる感じだ。
「なんか出そうでなかなか出てこないね。かなり頭が見えてきても陣痛の合間には元に戻ってる」翔もなるべく平静を装い、美波の話に合わせる。
「この時期が排臨。でもこの後頭が引っ込まなくなる。発露って言うの。それから少し経つと頭が完全に出てくる。頭が出た後は早いよ」
美波は続けた。
「この時期が一番陣痛が強くて間隔も短いけど、いきめるからつらさは前半よりましかな」
体外にわずかに見えていたくらいの赤ちゃんの頭が、いつのまにかかなり伸ばされて出てきている。さすがにこれは苦しそうだ。
そして、ついに陣痛の合間にも頭が引っ込まなくなった。
「これが発露だよ」
「この時期に会陰切開するんじゃなかったっけ?」
翔は、早紀から聞いていた事を美波に聞いてみた。
「アクティブバースでは会陰切開はしないで、私達がしっかり会陰保護をするの」
ついに、あかちゃんの頭が完全に外に出ると共に、すごい量の羊水が飛び出てきた。
翔は美波の言葉が身に染みていた。出産は病気ではなく生理現象なのだ。陣痛はいわば大宇宙が子宮に与えた巨大パワー。その果てしないエネルギーに突き動かされ、体内の赤ちゃんを必死で産みだそうとするその姿は本当に美しい。こんなに女が魅力的な姿をさらす事は他にはないと思った。
「本当にすごい。感動するねー」
「でしょ。ここからがすごいから」
頭が出たら後はすごく早かった。あっという間に肩、胴体、足とスムーズに全身が出てきた。頭が見え始めてから完全に出るまで、かなり時間がかかっていたのが嘘みたいである。
「この、赤ちゃんが出る瞬間はすごくスッキリするの」
「カトミナ?」
「そう。一人目産んだ時にね、ものすごくスッキリしたよ」
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第4話は、翔に貞操の危機が訪れます。いったいどういう事でしょうか? お楽しみに!
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