第4話 愛のSDGsは環境に優しい……だけじゃないっ!
「早紀、次の休みに新婚旅行に行こう!」
「前に話したじゃん。私旅行はちょっと難しいって。飛行機も船も、他の交通手段も振動とか揺れがすごいから
「大丈夫。僕にいい考えがあるんだ。たしかに完全に症状を抑えるのは無理だけど、普段とそう変わらずに長距離を移動出来る手段があるから」
「へーどんな?」
「それは内緒」
「いいじゃん教えてくれても」
「当日のお楽しみ。残念ながら海外は無理だけど。あと国内でも沖縄とか離島は無理だな。飛行機と船は無理でしょ」
「うん。飛行機は席どうしが近いから匂いが心配だし、船は振動はそれほどでもないけど私船酔いがすごくて」
「そういう心配はいらない方法だよ」
そして旅行の日が来た。
早紀より早起きして一人で出かけていた翔は、見慣れない車に乗って戻ってきた。
「なにその車?」
「日産のリーフって言うんだ。100%
「そんなのあるんだ」
「
「大丈夫かな」
「試してみよう」
「君のためにこの車を買おうと思ってた。いい機会だからこれで旅行に行こう。今日はお試しでレンタルだけど、いい感じだったら買おうと思う。そうすればこれからも国内ならいつでも好きな所に行けるようになるよ」
「ありがとう翔。いつも私の事をそこまで考えてくれるなんて」
「君のためだけじゃないんだ。この車はゼロエミッションって言って、排気ガスが全く出ない。
「なに似合わない事いってるの。バーカ」
照れ隠しに小難しい事を言いながら顔を赤らめている翔に、早紀は思わず抱きついた。
SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の事。世界中にある環境問題・差別・貧困・人権問題等の課題を、世界のみんなで解決しようという計画・目標の事だ。
例えば、EVが直接関係する「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「気候変動に具体的な対策を」や、間接的に影響する「すべての人に健康と福祉を」「産業と技術革新の基盤をつくろう」等、17の大きな目標からなり立っている。
日本政府は温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにする目標を掲げる方針への調整を発表した。これから本格的にSDGsに向けて国が動いていく。
少し前までは、EVは航続可能距離が短くて、実用的には普通のガソリン車には遠く及ばなかった。が、今やリーフはJC08モードで航続距離は570km、実質的にも300km超と充分実用的な距離となった。この距離なら東京から名古屋あたりまで充電無しで行ける。
「まだこの車での移動が、君の身体に合うかどうか分からないから、いきなり長距離はやめよう。今日はひとまず近場の絶景スポットに行ってみよう。どこか行きたい所ある?」
「アクアラインに乗ってみない? 一度行ってみたかったんだ」
「いいね。じゃあ行こうか」
アクアラインは、神奈川県川崎市から東京湾を横断して千葉県木更津市へ至る高速道路である。
全体は15.1kmで、川崎側が海底トンネル、木更津側が海に掛かる橋で構成されている。
早紀は、翔と新婚旅行に行けるとは思っていなかったから喜びもひとしおだ。心ゆくまで楽しみたい。
行きたい所もたくさんあるし、時間が足りないけれど、それでも幸せを感じていた。
「少し遠回りして、東京ゲートブリッジとレインボーブリッジを経由して行こう。すごくいい景色が観られるし、アクアラインの『風の塔』も見られるから」
「何それ?」
「海底トンネルのための通気口だよ。すごく面白い形してるんだ」
東京ゲートブリッジは、中央防波堤外側埋立地と江東区若洲を結ぶ橋である。恐竜が向かい合っているような形をしており、別名「恐竜橋」と呼ばれている。
「それにしてもキレイ……だね。東京にこんな景色のいい橋があるなんて」
(こんなにも美しい景色を見れるなんて、幸せ。とても美しい)
「でしょ。夜はもっと綺麗だよ。ライトアップされるから」
東京ゲートブリッジを通る時に翔が早紀に伝えた。
「左側の海をよく見て。青のストライプのある、三角形を二つ合わせたような変な建造物があるでしょ」
「なんか見える……」
「あれが『風の塔』だよ」
「へー初めて見た。面白い形してるね」
「早紀、次はレインボーブリッジだよ。行った事ある?」
「ない。初めてだよ」
レインボーブリッジは、東京都の港区芝浦とお台場を結ぶ橋である。正式名称は「東京港連絡橋」だ。映画「踊る大捜査線」等、多くの映画やドラマの舞台にもなったから、関東以外に住んでいる方もご存じだと思う。
「ここもキレイだね。東京も捨てたもんじゃないね」
「だろ。みんな外国とか沖縄とかありがたがるけど、近場にだってこんな景色のいい場所はいくらでもあるんだ」
そしていよいよ主目的のアクアラインへ。川崎側の約9.5 kmが海底トンネルになっている。
「トンネル内はあまり普通のトンネルと変わらないね」
「そうだね。でも地上に出たらきっとびっくりするよ」
「へー」
トンネルと橋をつなぐ場所には、人工島である海ほたるパーキングエリアが設けられている。巨大な船のような幻想的な形で、訪れる人達の心を捉えて離さない場所だ。
海ほたるは周り一面が海・海・海だ。南側に広がる太平洋がまぶしい。
「本当にキレイだね」
「早紀、やっぱりあまり遠出した事ないのか」
「ドライブ自体かなり久しぶりだよ。子供の頃にお父さんに旅行に連れて行ってもらって以来かな。普通のエンジン車にはとても乗れなくなってたから」
「そうなんだ。これから色んな所に連れて行ってあげるよ」
「うわー楽しみ」
西側には風の塔が見える。東京ゲートブリッジやレインボーブリッジと違ったアングルで、同じ建造物とは思えない。ちょうどストライプ部分が死角となって見えなくなっているのだ。
更に……
「あれって、もしかして富士山?」
「そう。今日は天気が良いからね」
北側は東京湾。東京タワーやスカイツリー、ディズニーランドも観る事が出来る。
「さっき通ったゲートブリッジも見えるでしょ」
「本当だ。こういうルートいいね。やるじゃん翔」
そして東側、木更津側の約4.4 kmが東京湾アクアブリッジと呼ばれる橋だ。海ほたる共々、とても日本とは思えない絶景である。
「本当に夢みたいだよ。ありがとう翔」
「今日はアクアラインから降りてすぐの所にある、袖ケ浦のアウトレットパークで食事と一休みしてから戻ろう。そこにはラーメンランキング日本一の有名ラーメン店の支店があるんだ」
「翔って本当ラーメン好きだよね。私もだけど」
「いいじゃん」
どうやらリーフの振動は、早紀の身体にとってなんとか許容範囲だったようだ。早紀の症状をさほど悪化させる事は無かった。翔の思いが通じたのだろうか。
「早紀と一緒にいると、本当に幸せだ」
「私も……」
二人は、三井アウトレットパークの駐車場の車内で唇を合わせた。
翔と早紀は、すれ違うこともあったし、ケンカもしたりした。
それでもこうして夫婦として一緒にいられるのは、お互いをちゃんと想い合っているからだ。
「今度は泊りで少し遠出しよう。もっと楽しい旅行にしたいね」
「そうだね」
翔と一緒ならきっと楽しい旅行になる。早紀はそんな予感がしていた。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第5話は、翔と早紀がかなり遠出して泊まりの旅行します。エロの予感が……お楽しみに!
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