第2話 結婚の挨拶と、「お父さんすみません」

 翔は早紀と共に、千葉県船橋市に住む彼女の両親の元へ挨拶に行った。


 翔と早紀の両親は既に面識があった。もっと言えば既に家族同然のお付き合いをしていたのだ。


 というのも、早紀が和也に刺されて大けがをした時に、何度もお見舞いに通っていたからである。その時に同棲している事も報告済みだった。


 早紀の両親に結婚の報告をした時は物凄く喜んでいて、特上のお寿司を注文したり、お酒を出したりと盛り上がった。


「僕は嬉しいよ、早紀の両親にこんなに歓迎してもらえるなんて」


 早紀は、改めて翔と一緒になる決心をして良かったと思った。



 この日、早紀は久しぶりに実家に泊まる事に。そして翔は翌日仕事のためマンションに一人で戻ろうとしていた。帰ろうとして早紀の実家を後にしてすぐの事だった。

「翔さん、少しお話があります」


 早紀の父親だった。

 翔と早紀の父親は、早紀の実家近くの喫茶店に入った。


「翔さん、今から私と話す事は、絶対に早紀には言わないと約束していただけますか?」

「分かりました。早紀には言わない事をお約束します」


 一体何の話だろうと思いながら、翔は早紀の父親の話に耳を傾けた。

「まず、早紀がうつ病だという事はご存じですよね?」

「はい。聞いています。それも承知の上で早紀と一緒になる事を決めましたから」


「それから……ちょとお話ししにくいのですが、早紀はもう一つ何か深刻な病気にかかっていると思うのですが、それもご存じですか?」


(やはり両親はPSASイクイク病の事に気付いていたのか。でもどうしようか。早紀は両親には知られたくないと言っていたし。これは困ったぞ)

「知っています」

 翔は変に誤魔化すよりも、正直に言った方がいいと思った。


「やはりそうでしたか。さしつかえなければどんな病気か教えていただけないでしょうか」

「お父さんにその内容を伝える事は出来ません。早紀から口止めされています。すみません」


「私は早紀の父親ですから、もうずいぶん前から早紀の様子がおかしいとは思っていました。一時は別人のように元気もなくなってしまって、良く見ていないと危険なのではないかと心配していたのです」

「お父さんが早紀の身体の事を知りたい気持ちは良く分かります。婚約者には言えても、両親には言えない病気です。それで察してください」


「分かりました。早紀はあなたと一緒に住むようになってから、またとても元気になったんです。だから私も妻も、あなたの事を信用しています。早紀の病気がどのような病気なのか、親としては知りたい所ですが、どうしても早紀が言いたくないのであれば仕方がありません。あなたがそれでも早紀と一緒になってくれるのであれば、もう何も言いません」


 それ以上、何も追及して来ない早紀の父に感謝しつつ、翔は改めて早紀と一緒になる事が、いかに責任重大であるかを再認識した。

「ありがとうございます。僕は必ず早紀を幸せにします」



 次は翔の両親への挨拶だ。

 翔は実家の両親に電話をかけた。


「翔かい。久しぶりだね。どうしたの」

 電話に出たのは翔の母親だった。


「結婚を考えている人がいるんだ。彼女が挨拶をしたいと言っているから会って欲しい」

「本当かい。お前もついに奥さんになる人を連れてくるようになったんだねぇ」


「まあそうだね」

「一時は心配したよ。美紅ちゃんがいなくなってから、全然女の子を家に連れて来たりしなくなったから」


 やはり両親は心配していたようだ。

「今度の日曜日はどうかな」

「大丈夫だよ」


「そしたら14:00に婚約者を連れて行くよ。深山早紀さんて言うんだ」

「早紀さんか。いい名前だね」

「ありがとう」


 翔は電話を切り、早紀に伝えた。

「次の日曜日の14:00に僕の実家に行こう。そこで君の事を紹介するから」

「すごい楽しみ。翔のご両親ってどんな方なの?」


「言った事なかったっけ。父さんはとても厳しい人。でも母さんの尻に敷かれててちょっと情けない所もあるんだ。母さんはとても社交的で明るい人。きっと早紀と合うと思うよ」


「へーそうなんだ。そういえばお母さまの事は前に少し聞いた事あったかな」

「そんな事あったっけ」

「ほら……トイレに行った時の話……」

「あの話かい!」



 ついに挨拶に行く日になった。

 翔は早紀と一緒に玄関に入り、ドアを閉めるとまず両親を早紀に紹介した。

「早紀、僕の父の隆と母の今日子」


 翔は次いで早紀を両親に紹介した。

「父さん、母さん、この人が電話で話した深山早紀さんだよ」


 早紀は、翔の両親に挨拶した。

「はじめまして。深山早紀です。改めまして結婚のご挨拶に伺いました。今日は私達のためにお時間をいただきありがとうございます。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。ここじゃ何ですからおあがり下さい」

「失礼します」


 案内された居間につくと、早紀は手土産を袋から出し、渡した。

「こちらは船橋の名物のお菓子です。甘い物がお好きだと伺いましたので、お口に合うといいのですが」


 早紀が持って来た「髙木チーズ」は、フランス産チーズ、船橋でとれた卵と牛乳を使ったスフレタイプのチーズケーキだ。船橋市の「ふなばし産品ブランド」にも認定されている。


 翔は早紀の言葉を受けて言った。

「早紀は船橋で生まれ育ったんだよ」


 翔の母は囲碁やダンスを趣味としていて、かなり社交的である。初対面の早紀ともかなり打ち解けている。


 場の雰囲気が和んで落ち着いて来た。そこで翔は結婚報告を切り出す事にした。

「父さん、母さん、僕は早紀と結婚したいと思ってる。早紀の事を誰よりも愛してるんだ。それに早紀は僕の命の恩人だ。早紀がいなかったら暴漢に刺されて死んでた。だから結婚を認めて欲しい」


「私も翔さんを心から愛しています。翔さんと一緒になりたいです」


 早紀は更に、自分の実家で結婚の挨拶をして、許しをもらった時の事を話した。


「翔さんとは、以前から真剣にお付き合いをさせていただいておりまして、先日、私の父と母に結婚の挨拶をしてくださいました。二人共結婚に賛成してくれています。お父さん、お母さんにも祝福してもらえるとうれしいです」


「翔、お前は本当にいい人を見つけたね」

 どうやら翔の両親は早紀をかなり気に入ったみたいだ。


「私にとって翔さんはかけがえのない大切な人です。至らない私ですが、これから翔さんと一緒に温かい家庭を築いていきたいと思っています。

 翔さんのお父さま、お母さまとも、末永くお付き合いさせていただけると有難いです。どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ。そこまで翔に肩入れしてくれるなんて。翔の事よろしくお願いします」


 その後、翔達は趣味や仕事の事など自己紹介も兼ねた内容や、子どもの頃の話等を話題に会話を続けた。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第3話は、翔と早紀の結婚式です。お楽しみに!

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