第2章 最愛の人との出会い

第1話 セックスよりもオナニーが好き

 翔はセックス出来ない身体となり、オナニーの見せっこでしか達する事が出来なくなってしまっていた。


 でも、まさか好きになった女性にいきなり「君が一人でしてる所を見せて欲しい」なんて言えるはずもない。だから翔は好きな娘が出来ても、結局何もする事が出来ないのだ。たとえ自分の部屋で女性と二人きりになったとしても。


 そんな中で出会った神谷江梨香という女性がいた。

 江梨香との出会いはいわゆる「逆ナンパ」つまり江梨香が翔をナンパした事で始まった。場所は高崎線の上り電車の中だ。


 比較的空いているにもかかわらず、なぜか翔の隣の席に座ってきた女性がいた。  どこかで見た事がある制服姿で、割と翔の好みの顔だ。髪の毛は肩くらいまである。


「ねぇ、あなたどこまで行くの?」

「は、はあ。新宿へ行きます。友達と会う約束してて」


 翔は江梨香がかなり年上に見えたので敬語で話していた。しかし……

「そんな敬語なんか使わないでよ。私は社会人1年目だから。良く実年齢よりも上に見られるんだ。あなたは?」


「はあ、1コ下です。やっぱり敬語使います。」

 当時の翔は大学4年生で就職活動真っ最中であった。

「いいって。やめてよ」


「まあ、そう言うなら」

 こんな感じで知り合い、その後はとりとめもない世間話を色々とした。まあこのときはあまり深く付き合おうとかは考えていなかった。


 江梨香は埼玉県熊谷市のデパート勤務だそうだ。どこかで見た事のある制服というのは気のせいではなかった。話も面白く、いつもなら退屈なはずの電車が楽しいものになった。


 あっという間に新宿駅についてしまった。これでお別れはしたくないな……電話番号聞こうかな……すると江梨香がこう言ってきた。

「せっかくこうして知り合ったんだから連絡先交換しない?」

「ぜひ。今度どこかへ行こう」


 こうして、江梨香と知り合った日には、たわいもない話と連絡先交換だけで別れた。

 その後2回2人で会い、3回目のデートでキス。


 4回目のデートで親と姉のいない時を見計らって大宮の自宅に誘うという、典型的なマニュアル的お付き合いを進めていった。まさに教科書的なステップを踏んだわけだ。


 美紅との恋で順序を覚え、キスもかなり上達した。

 でも、ここから先はちょっと教科書とは違う。まずは教科書通りにこう言って誘う。


「何もしないから僕の家で遊ばない?」

 問題はその後だ。翔は言葉通り本当に何もしないのである。なぜなら普通のセックスが全く出来ないからだ。


 原因は元カノだった美紅とのプレイ内容にあった。2人はほとんどセックスはしていない。大部分がオナニーの見せっこである。そこで膣内ではイクことが出来なくなってしまった。


 さて、翔がセックスしないとなるとたいていの女の子はどうするか。他にも何人かの女の子とベッドインのチャンスがあったが、いずれも何もしなかった。

 いきなりオナニーの見せっこをしようとは言えないから、俗に「男の恥」とさえ言われている「据え膳を食わない」事になる訳だ。


 そうすると、当然愛想をつかされて別れる事になる。江梨香ともそうなる可能性が高かったのだ。


「ねぇ翔クン、本当に何もしないんだね。私ってそんなに魅力ないかなあ?」

「そんな事ないよ。正直に言うね。諸事情でセックス出来ないんだ。だからもし嫌ならそう言って欲しい。」


「そうなんだ。なぜ? 無理にとは言わないけど」

 翔は包み隠さず言う事にした。今まで下手に誤魔化すといい事がなかったからだ。


「以前付き合ってた娘がセックスがあまり好きじゃなくて、オナニーの見せっこばっかりしてたんだ。それで僕もそれが気に入ってしまって。いつのまにかセックスではイク事が出来なくなったんだ。」


 江梨香は翔を逆ナンパするぐらいだから、少なくとも見た目はタイプだったのだろう。当初は翔の性癖にも理解を示し、プラトニックな交際が続けられた。


 でも、少し経つと江梨香もやはりなんとかしてセックス出来るように働きかけてくる。そんな事はとっくにやり尽くしているというのに。


「今日は調子良さそうじゃない。ちょっと試してみない?」

「そうしようか」

 しかし、いったん普通のセックスが出来ない程の超遅漏になってしまうと、そう簡単には元のように出来るようにはならない。


 結局、江梨香との交際は半年間で終わりを迎えた。


 交際が比較的長く続いた上での破局は、2人の心の傷を大きくした。すぐに別れた方がお互いに心の傷も少なくて済んだかもしれなかった。



 江梨香との破局の傷がまだ癒えないまま、翔は大学を卒業して就職。社会人となった。 


 翔は、一時はもう二度と女性と上手く付き合う事は出来ないのではないか、と考え始めていた。


 そんな中で、翔はインターネットを使って、自分の性癖に会う人との出会いを考えるようになった。


 やはりあれだけ好きだった美紅をそう簡単には忘れる事は出来ない。でもこのまま貴重な人生を浪費するのももったいない。そろそろ先へ進まなければと考えたのだ。


 そして、自分にピッタリの人をピンポイントで見つけるには、もうインターネットを使うしかないと悟った。


 ただ、ネットを使う事には抵抗もあった。相手の顔が見えないし、直接会って話すのとは違い、ある程度変な人ではないだろうという確証がつかみにくいからだ。


 実際に、変な人と知り合って凶悪事件に巻き込まれたという話も聞く。


 また、女性らしきHNハンドルネームを使っているからと言って、必ずしも女性とは限らない。


 インターネット上には、ネカマと呼ばれる女性のHNを使う男が跋扈ばっこしていると聞く。


 そんな人に当たった日には、とんでもないトラブルに巻き込まれる事必至である。


 幸運だったのは、翔がとてもポジティブシンキングの持ち主だった事である。


 普通ならば、セックス出来なくなれば男女交際を諦めて、日陰で生きる事を考えても不思議ではない。でも翔は違っていた。これだけ気持ちいい事なんだから、自分の他にもオナニーの見せっこが好きな女性はどこかにきっといるはずだ。そう考えたのだ。


 最初はエッチな出会い系サイトを利用していた。そこでオナニーフレンド、いわばオナフレとでも言うべき友達が出来た。ひとまず身体の欲求は満たす事が出来るようになった。


 でも、翔は次第にむなしさを感じるようになった。なぜなら翔が欲しかったのはオナフレではないからだ。美紅の事を忘れさせてくれるような、燃えるような恋をしたかった。出来れば将来結婚を考えられるような恋人が欲しかったのだ。


 その目的を達成するためには、出会い系サイトでは難しかった。かといって、真面目な婚活サイトや、結婚相談所では、翔の性癖を伝えるような活動は難しい。規約違反になるし、こういう真面目な出会いを求める場に来る女性には、この手の話はタブーである。


 そこで次に翔が考えた事は、自分の性癖をカミングアウトするサイトを立ち上げて、そこで深く自分の事を理解してくれそうな女性からの連絡メールを待つという方法だ。


 サイトの内容は、自分がセックス嫌いである事、なぜそうなってしまったか、そしてセックスの代わりにオナニーの見せっこが好きな事を語ったページが中心コンテンツである。


 これは素晴らしいアイデアだった。ほどなくして翔と同じセックス嫌いでオナニーの見せっこが大好き、かつ真面目なお付き合いを望んでいる女性からのメールが翔の元に届くようになったのである。


 > こんにちはsyoさん。私もセックスよりもひとりエッチの見せっこが好きです。


 こうして翔は、セックス嫌いでオナニー好きという自分の性癖に合い、しかも真面目なお付き合いを望む女性と知り合う手段を手に入れたのである。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第2話は、いよいよこの物語のヒロイン、深山早紀が登場します。翔と早紀が運命的な出会いを。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る