10.誰
ギルドを出て歩きならレイとイーリはこの後について話していた。
「レイ、他に何かしたいことはあるか?」
「・・・特に何も思い浮かばないな。」
「なら早速だが私たちの拠点に来てみないか?
今なら何人かはいるはずだ。」
「ここから近いのか?」
「ああ、皆冒険者でギルドに顔を出すことは多いから。
だからギルドの近くに家を借りてるんだ。」
「それなら早速お邪魔させてもらってもいいか?」
「もちろん。」
俺とイーリはイーリのパーティであるハーモニーの拠点へ向かう。
「そういえばさっき迷宮で獲得した素材買収してもらったけど、報酬はどう分ける?」
「ん?普通に半々じゃダメなのか?」
「そうだな。仕事の割合的にそれだと私が多くもらってしまっていると思う。」
「そうなのか?でも何も決めてなかったし半々でいいぞ?
というかいくらで売れたんだ?」
「・・・そうか。あまり金に頓着しないのか?
でもそういうことはしっかり話し合っておかないとダメだぞ?
特に今日みたいな臨時の相手と迷宮に潜った場合は。
本来、こうしたお金のことは事前に話し合っていくものなんだ。
相手にうまいこと騙されないように気をつけろよ。」
レイは何の気にしに半々でいいと言ったがどこか納得してないイーリに諭されてしまった。
確かに言われたことは正論すぎて何も言い返せない。
「はい、わかりました。」
「わかってくれたらいい。
とりあえず今回の売却額は金貨5枚、銀貨9枚、大銅貨4枚だな。」
「・・・・まぁまぁなの・・・・か?」
全くお金の単位が全く分からなくて困惑するレイ。
「なんだその間は?
探索が主な内容だったから、魔物との戦闘は避けたし、素材回収も割と適当だったからな。このくらいが妥当って感じじゃないか?
まぁ高難度迷宮だから本気で稼ごうと思って一回潜れば1人金貨7〜8枚はかたいと思う。それに比べると今回は少ないけど、目的が違うから仕方ないな。」
その曖昧な返事におかしいとツッコミはするものの疑問には答えてくれるイーリにほんと助けられていると思うレイ。
そんなイーリはレイに分けた硬貨を渡してくれる。
金貨と銀貨と大銅貨の3種類をそれぞれをローブに入れるようにアイテムボックスにしまいながら、イーリのパーティについて聞いてみる。
「そういえばイーリのパーティってどのくらいメンバーがいるんだ?」
「そうだな・・・。結構入れ替わりが激しいから正確な人数はわからないけど、私が実力を信頼して、よく一緒に迷宮に潜るメンバーは3人だな。」
「入れ替わりって・・・結構な大所帯なのか?
パーティというよりもクランなのか?」
「クラン?」
「いや、なんでもない。
みんなイーリぐらい強いのか?」
言語も文字も通じるためどうしてもダイングフィールドにいる感覚で話してしまう。
クランとかダイイングフィールドでよく使っていた言葉をなんとなくで口に出してしまう癖を治さなければと思うレイだった。
「んーどうだろうな?実力はあるとは思うけど、実際に戦ったことあるやつは少ないからな。分からない。」
その後もレイはイーリから色々と教えてもらいながら街を進む。
まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、10分もしないうちに大きな館が見えてきた。
「まさかあれ?」
レイがそう尋ねるとイーリはどこか自慢気な様子。
「ああ、結構大きいだろ?
ミャスト迷宮に潜る期間が長くなりそうだったし、快適に暮らすために奮発したんだ」
庭付きの館は、当然冒険者ギルドなんかよりもすごい作りをしていたため、数十分前の感動が霞んでしまう。
家の前まで到着し、門を開け中に入るイーリについていく。
庭も綺麗に手入れされ、館の維持にも気を使っているのがわかる。
家の中は綺麗に掃除されており、簡素な作りで、とても居心地の良さそうな空間が広がっていた。そのままイーリについていくとリビングのような場所に通された。
リビングは30畳ほどはありそうなくらい広く、数人が各々好きなことをしている。
俺はとてつもなくひろいリビングに驚いたと共に、そこにいた人にも驚いた。
イーリがリビングに入ると皆の視線が集まる。
「みんな、ちょっといいか?」
そうイーリが呼びかけると、皆手を止めこちらに近寄ってくる。
「あーイーリだぁ!おかえりぃぃ!!」
イーリよりもやや背の低い、頭に2本のツノを生やした女の子がイーリに飛びついた。
「おい。レグ、私が帰ってくるたびにそうやって抱きついてくるのはやめろって何回言えばわかるんだ。」
そう小言を言いながら、レグと呼んだ女の子を引き剥がそうとしているイーリ。
その様子に何も触れることなくもう二人、こちらにやってきた。
「・・・・・・。」
「ヒャヒャヒャ、まーたやってんのか。で、イーリこいつは誰だよ?
お前、30階層までの下調べ行ってたんじゃないのか?」
耳の尖った女性と全身毛で覆われた男。
同室内に人種よりも他種族が多いこの空間。
自分が今改めて異世界にやって来ているのだと強く実感させられた。
今まで都市国家連合という人種の国内だったからか、他種族よりも人種を多く見た。
ダンジョン内はさまざまな種族がいたが、1人の時は通路でばったり遭遇した時に以外に誰かと会話することはなかったし、イーリと出会ってからはずっと2人で会話していたため特段印象はない。
とても新鮮だと感じながらも、自分の胸中に渦巻く黒い感情に驚く。
なぜか無性にこの獣人を殺したいと体が動いてしまいそうになる。
その気持ちをどうにかして抑える。
イーリがようやくレグと呼ばれる二本角の女の子をひっぺがしたのか、やや息を乱れさせながら話を始める。
「はぁ、、、ただいま。フィールにシィリー。
アクティオンはまた迷宮か?ノログとシェリーリがいないのは珍しいな。」
「・・・・。」
「ヒャヒャ、ノログとシェリーリは買い物だとよ。俺が起きた時にはもういなかったぞ。
てか質問してんのは俺の方だぞ、イーリ。」
「買い物か。
そうだな、悪い。彼はレイ。私がパーティに加わってもらいたいと思って勧誘してきた。」
レイがイーリの客ではなく、イーリが勧誘した冒険者だとわかった途端に3人はレイを値踏みするような視線を向ける。
「へぇ〜この人を・・・?」
「・・・・。」
「ヒャヒャ。それでこいつの冒険者ランクは?」
「冒険者ランクは、」
「ランクはF。レイだ。よろしく。」
イーリが話しているとこに割って入る。
抑えている殺意がこの空間にいればいるほど高まっていき、抑えることで一杯一杯になっていた。
時期に話す余裕すらなくなると思ったレイはイーリには悪いと思いながらも、先に割り込んで先に挨拶をさせてもらった。しかしレイがイーリの話を遮ったことが気に食わなかったのか3人の表情が険しくなる。
「ねぇ、イーリ。こんな最低ランクをわざわざイーリが声かけて誘ったの?」
「・・・・」
「ヒャヒャなんの冗談だ?全く面白くねぇぞ。
てかテメェもイーリから誘われたからって何調子乗ってんだ?
テメェには聞いてねぇよ。イーリに聞いてんだ、黙ってろ。」
「ねぇねぇイーリ。私はんたーい。こんなのいなくて良くない?」
「ヒャヒャ珍しく気が合うじゃねぇか。俺もこいついらねぇ。普通に邪魔だろ。」
「だよねー。」
「お、おい。お前ら」
イーリも仲間がここまでレイに罵声にを浴びせるなんて思っておらず、困惑していた。
イーリの言葉を遮ったことで、ものすごい反感を買ってしまったようでひたすら叩かれている。
ものすごい嫌われたと思いつつもそんなこと気にならないほどの殺意が身体中を駆け回っていた。
自分では制御できない殺意が表に出ないよう俯いて黙っていた。
その様子を俺が気分を害したと思ったのかイーリが俺を心配そうに見てくる。
「悪い、レイ。大丈夫か・・・?」
「ああ大丈夫。」
心配してくれるイーリにすらそっけない態度をとってしまう。
「おいイーリどうしてそいつのことそんなに押すんだよ。
あ?まさか惚れでもしたのか?そんな雑魚のどこがいいんだよ、まさか同じ仮面しているからなんて言わねぇよな?ヒャヒャヒャ」
「嘘?!イーリ?嘘でしょ?ダメだよ。イーリは私のなんだから。本当ならそんな男今すぐ、今すぐ殺さなキャ。」
レイが何も反応しないのを面白がってかいるのか、ただ気に食わないのかさらに捲し立てる2人。
「お前ら少し黙っていろ。」
仲間がレイを蔑ろにする様子に苛立ちが隠せないイーリが彼らを制す。
レイの殺気が漏れ出る前にイーリからわずかに殺気が溢れ出る。
普段そうしたことをしないのか、それともそれほどまでにイーリから仲間に向けられた殺気は強烈なものだったのか、3人は息を飲む 。
イーリの一言で場が凍りついた。
俺はこれ以上殺意を抑えることができないと思い部屋を後にしてしまう。
そのまま人目を憚らずに外まで走り、人気の無い路地裏で呼吸を整える。
申し訳ないことをしてしまったと罪悪感に苛まれていると後ろから声をかけられる。
「・・・レイ!」
「イーリ・・・・ごめん。急に飛び出て来ちゃって。」
「私の方こそすまなかった。
みんながあんなひどい態度とるなんて思わなかったんだ。
気分悪くなるのは当たり前だよな。本当にすまない。」
「違う、違うよ。確かに苛烈な挨拶だと思ったけど、飛び出して来ちゃったのはそれが理由じゃないんだ。」
「そうなの、、、か?」
「まぁ気分がいいかと聞かれても頷けないけど。
イーリのパーティは他種族混成なんだな。」
「そういえば仲間がいるとは言っていたけど、どんな奴らか、種族はどうかの話はしていなかったな。もしかして他の種族が苦手だったりしたのか?」
「イーリ、俺は・・・。」
自分の頭の中を整理する。
多種族が苦手。きっとそういう問題ではない。もっと根本的な問題。あの殺意は何なのか始めは分からなかった。しかしあの強烈な憎しみを孕んだ殺意、それはレイがこの世界に来た初日に感じたイクタノーラの殺意だった。でも、あの獣人はイクタノーラを殺した復讐対象ではなかった。つまりイクタノーラの殺意は自分を殺した者に、そして今まで自分を蔑ろにしてきた種族に対して向けられている。そういうことなのかもしれない。
イーリなら本当のことを話した上で上手に付き合っていけるのかもしれない。
でも、もしレイの復讐対象にイーリの仲間がいたり、その仲間と関係が深いものがいたらレイは殺意を抑える術がない。多少似ている要素があるだけで抑えきれない感情に体を支配されてしまいそうになるのだから。
そうなればきっとレイはイーリの仲間を手にかけることになる。イーリは流石にレイを見逃しはしない。敵対する可能性が高い。ここまで散々面倒を見てもらったのに、そんな恩知らずなことはできない。それだけは何としてでも避けたい。だから言えない。もし本当に知り合いや仲間がいたらレイは今のイクタノーラの殺意をどう耐えればいいのかわからない。そう結論つけたレイは「なんでもない。」と1人で勝手に、折り合いをつけて誤魔化す。
イーリはレイの長い沈黙が何を意味するのかが分からない。
大きな葛藤があったことは理解できた。しかしそこに踏み込んでもいいのか躊躇ってしまう。
「ここまで親切に色々してもらって悪いけどパーティ参加の話、・・・なかったことにしてくれないか?」
わずかな逡巡。それでもレイが言葉を続けるのには十分な時間だった。
イーリは躊躇い、困惑、そして悲嘆の思いから言葉が出ない。
「本当にごめん。」
それでもレイの心苦しそうな様子を見て、自分も何か言葉をかけなければと口を開く。
「・・・・・私の仲間たちはみんなレイがパーティに加わることにいい感情を持っていなかった。それはきっとレイの実力を見ていないからだと思う。でも私は実力がある、実力がないの話以前に初対面の相手に対してあんな対応をとった仲間を恥だと思う。
本当にすまなかった、レイ。
でもこれだけは言わせてくれ。
私はレイが欲しい。心から仲間になって欲しいと思っている。
だから・・・・本当に気が向いたらでいいから声をかけてくれると嬉しい。」
そう言ってイーリ足取り重く元来た道を戻っていった。
レイはその場に項垂れる。
別にイーリがあそこまで思い悩む必要はないと思う。
自分が感情をコントロールさえ出来ていればとイーリを凹ませることもなかったのにと。
どうして自分はあそこまでの殺意を抱いてしまったのか。
殺意くらいコントロールできなかったのか。
先ほどの行動、自分にも非はあったのではないか。
考えれば考えるほどイーリに対する後ろめたさが募っていく。
この世界に来て自分はイーリに助けられてばかりだった。
仮にレイがイーリのパーティに入る前提で印象をよくしておきたいという打算があったとしても、世話を焼いていてくれた事実は変わらない。そしてその恩に自分は何も報いることができていない。
自分に何が必要か、何をすればイーリのためになるのか考える。
やはりまずは復讐を行うことだと思う。
復讐を行うことでイクタノーラの殺意は清算出来ると思いたい。
でももしあの殺意が復讐を終えてなお治らず、対象になった種族に向けられた場合。
・・・とにかくその殺意を抑えられる精神力を身につけなければならない。
それはどちらにせよイーリの力になるためには自分の中の問題をどうにかしなければならないということだった。
ここまで考えを巡らせてレイは違和感を感じた。
俺には復讐よりもまずしなければならないことがあったのではないか?と
俺のしなければならないこと・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
そもそもどうしてイクタノーラという訳のわからない記憶を自分のものと考えるのか。
自分はレイだ。
そう、ダイイングフィールドでNPC配下たちと暮らしているだけのレイなのだ。
仲間・・・・そうだ。仲間。そのためにレイは元の世界に帰ろうとしていたのではないのか。
それなのにどうしてこれほど復讐心に身を焦がしているのか。
冷静になった途端先ほどの自分が自分でないように思え悪寒を感じた。
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