9. 冒険者の街ウキトス

迷宮を脱して1時間ほど馬車に揺られ、都市国家連合ウキトスに到着した。


都市国家連合は二つの大迷宮を抱える国であるため大小様々な都市や街、村があちこちに点在している。

ここウキトスはミャスト迷宮に近いため冒険者が多く暮らしており、一般市民よりも冒険者が優遇されるため冒険者の街というイメージが定着している。一方で、クラーヴ王国側にあるミャスト迷宮と反対、オセアニア評議国側にあるCランクのイヌギ迷宮を直線で繋ぎ、正三角形を描いたときに頂点に当たる部分に都市国家連合の中心都市オルロイは位置している。ウキトスと異なりオルロイは都市国家連合きっての商人の街である。

この都市国家連合は貴族の支配から脱却した歴史があり、現在は6人の豪商によって国家運営が行われている。

ミャスト迷宮があるためウキトスは冒険者の街と呼ばれているが、主にこの国は商人が中心になっている。


「都市国家連合の大雑把な説明はこんな感じだな。何か聞きたいことはあるか?」

ウキトスに到着し、冒険者ギルドに向かう道すがらイーリはこの国について大まかに説明してくれる。


「ありがとう。あとは気になった時にまた聞くから教えてくれ。」


「分かった。それじゃちょうどギルドにも着いたことだし中に入ろうか。」


ウキトスの街並みは中世の街並みを再現でもしたのかと思うくらいそっくりだった。

冒険者ギルドの外観もレンガのような石を基に作られており、大きな建物の存在感はすごい。


レイは柄にもなく少しソワソワしてしまっていたが、イーリに続いて中に入ると多くの人の視線がこちらに向けられる。ギルド内に入るだけで毎回これだけの視線が向けられるのかと思った途端に冷静さが戻ってくる。

ただ毎回今みたいに視線が集まる訳ではないようだ。

視線の多くは目の前にいるイーリに向けられている。

実力からして分かっていたことだが、イーリはこのギルド内でかなり注目される冒険者のようだ。

そしてそのイーリに続いて後ろを歩く俺に視線が集まるのは当然のことだった。


「何をしているんだ。受付はこっちだぞ?」


そんなことを考えているとイーリから声をかけられる。

レイはは返事をし、そのままついていく。

受付のカウンターは4つあり、右側3つは常に人がひっきりなしに並んでいる。

イーリは迷いなく空いている一つに近づいていった。

俺もただ黙って着いて行く。

受付にはミルキーブロンド色の髪をハーフアップにまとめた綺麗な女性が書類に目を通していた。

イーリがやってきたことに気がついたため書類から目を離し、掛けていたメガネを机においた。


「あれ、イーリさん?もう戻ってきたんですか?

早いですね。予定だとあと5〜7日は迷宮に潜っている予定では?」


イーリの迷宮からの帰還が早かったことに何かあったのではと訝しげな視線を向ける受付嬢。


「ただいま、メルラ。

いや、予定より早く調査が終わっただけだ。

何も問題は起きてないぞ。」


イーリの報告にあからさまに安堵する受付嬢。


「それならよかったです。

では素材売却ですか?それならグンバさんを呼んでくるので少し待っていてください。」


「いや違うんだ。今日はちょっと冒険者カードの作成をお願いしたくて。」


「え?イーリさんも冒険者カード無くされたんですか?

珍しいですね。いつもクレムさんのカード再発行に付き合っているのに。

まさかその癖が感染っちゃたんですか?」


「違う、違う。今回も私のじゃないんだ。

レイの冒険者カードを新規で発行して欲しいんだ。」

そう言ってイーリは後ろにいるレイを受付嬢の視線が向くように指を差す。


「レイさんですか?イーリさんと似た仮面を被っていらっしゃるんですね。

始めまして・・・ですよね?

私ここウキトスの冒険者ギルドで受付をしているメルラと申します。

レイさんの冒険者カードを新規発行とのことですがお間違えないでしょうか?」


レイと視線があった途端に、イーリと話していたようなやや砕けた口調は消える。


「初めまして、レイです。新規登録お願いします。」


レイは淡々とした口調でメルラに登録を願い出る。

その話ぶりに何かを感じたのか、レイに向いていた視線は再度イーリに向き、訝しげな視線を送り、メルラは尋ねる。


「イーリさん、レイさんは本当に新規登録でいいんですか?

再発行ではなく・・・?」


「知っているのか?レイのことを」


「いえ、今日初めてお会いしました。

でもその話し方からしてやっぱり、既に冒険者カード持っているんですよね?」


「うわ、カマかけたのか。

性格悪いな」

イーリはやや後ろに仰け反りながら、メルラを非難する。


「私は仕事をしただけです。

隠し通そうとするならもう少ししっかりしてくださいよ。

イーリさんが連れて来た時点で、普通じゃない方だってことは誰でもわかりますよ。

それなのにギルド職員の前で堂々と不正しようとしてないでください。」

メルラはイーリの非難に動じることなく、逆にイーリに文句を述べる。


「不正?」

聞き逃せない言葉があり、2人の会話に割り込んでしまう。

レイが尋ねると受付嬢は居住まいをただして、説明をしてくれた。


「はい。一般的に冒険者カードを別で作成するのは二重登録と言って冒険者ギルドの規約違反になるんです。

冒険者カードはギルド内でのランクを表すだけでなく、世界的に見ても信頼度が高い身分証になるので、簡単に作り替えることはできません。

何かしらの特例がある場合は別ですが。

以前のカードが他の人に利用されたり、犯罪に手を染めた元冒険者の所在を把握することもできます。管理の面でも作り直しは難しいです。」


「そうなんですね。

あの冒険者になりたいんですけど、冒険者カードを作ってもらうことってできますか?」


今の説明をガン無視した言葉を伝えると受付嬢は一瞬間抜けな表情をするが、レイの言った言葉の意味を理解した途端険しい表情を浮かべる。


「ですから冒険者の二重登録はできないと・・・・。」


「レイ、冗談はその辺にな。

メルラ、実はレイはクラーヴ王国で活動していた冒険者で、私が無理言って勧誘したんだ。

レイの冒険者カードはミャスト迷宮にいくつかの装備品と一緒に捨てて、死を偽装して来た。クラーヴ王国は冒険者が他国に流れることを嫌うし、ここで再発行してレイが生きていることがバレると面倒になる。だから二重登録になってしまうけど、頼めないか?」


流石に初対面でふざけていい場面ではなかったようだ。

ここでもレイの対人関係能力の低さ、というよりも人として何か抜けている所がしっかり露呈してしまい、メルラを怒らせてしまう。

イーリは体を小刻みに振るわせて笑いを堪えてたが、メルラが結構本気で怒っていたため間に入ってくれた。

イーリの話した内容はレイの悪ふざけを搔き消すほど驚くものだったため怒りもひとまず収まったようだった。


「冗談が過ぎました、すみません。

イーリの言ったように俺は死んだことになる予定なので。

だから改めて、新しく冒険者を始めるためにギルドカードを発行してもらいたいんです。」


レイはこのタイミングに謝罪をし、メルラに頼み込む。

しばらくの間メルラは難しい表情を浮かべるが最後には渋々納得してくれた。


「・・・・はぁ・・・。わかりました。

私はあなたのことは何も聞いていません。

新しく冒険者登録にいらっしゃった方です。

これでいいですか。」


「意外と柔軟な人なんだな。」


「ああ、私もいつも頼りにしてる。」


メルラの対応力の高さに感心してイーリに話すと、イーリもメルラを褒める。

そんな2人に調子を崩されていたメルラはやや顔を赤くしながらも話を先に進める。


「コホン。そう煽てられても何も出ませんからね。

ではこちらの書類に必要事項を記入してください。

代筆が必要でしたらお申し付けください。」


そういって一枚の紙が手渡される。

俺はこの世界の言語も文字を何一つ知らない。

しかし言語は通じている。

それにこの紙に書いてある文字も読むことができる。

クロックポジションの説明の時も数字などの文字もしっかり通じた。

だから試しに、元居た世界の文字で記入してみることにした。

途中読めるかイーリとメルラに確認したが何も問題はなかった。

記入し終わり、受付嬢に申込用紙を渡す。


「それでは確認させていただきます。

名前 レイ

性別 男

年齢 19

職業 魔術師

ランク F

お間違えないでしょうか?」


「問題ありません。」


「そうしましたらここから冒険者ギルドについてご説明させていただきます。」


「よろしくお願いします。」


「はい。まず冒険者にはランクというものがございます。

ランクはS、A、B、C、D、E、F、Gの8段階。

Gランクは成人してない子供が危険なく働くために設けられたランクのため、レイさんはFランクからスタートになります。

基本的に冒険者の方は街周辺の魔物を狩ったり、迷宮に潜りその時獲得したアイテムや素材をもとに生計を立てていらっしゃいます。冒険者の方が潜る迷宮にもランクがあり、冒険者ランク同様にS〜Gまでございますが、冒険者ランクと異なる迷宮に挑戦されても何も問題はありません。

ただし冒険者ギルドは一切の責任を負いかねます。

冒険者ランクを上げるにはギルド依頼を一定数こなしてもらう必要があります。

ランクに見合った依頼をギルドが出しているので後ほどご確認ください。

また、相応の実力を示した方は一気に冒険者ランクを飛ばして昇級することも可能です。

レベルは個人のステタースなので、公表している人は少ないです。ですから一概にレベル=冒険者ランクとは言えません。しかし、パーティ募集の際などにレベルは一つの指針となりますので他者に自分のレベルを教えるかどうかは各々の判断にお任せ致します。

ご説明は以上になりますが何かご不明な点はございますか?」


「ランクごとの目安レベルなんかはありますか?」


「はい、一般的にG=1~10、F=11~20、E=21~30、D=31~40、C=50~ほどと言われております。」


「S、A、Bランクは?」


「この三つのランクはまたさまざまな国からの情報統制もあり詳しくお伝えすることができません。Bランクからは相当な実力者だとしか。

気になるようでしたらイーリさんに聞いてみては?」


「イーリに?」


「あれ?イーリさん言ってないんですか?

イーリさんが今この国に滞在している唯一のAランク冒険者パーティってことを。」


「あれ、そうなのか?」

てっきりイーリはSランクだと思っていたため驚くレイ。


「まぁな。伝えるタイミングなかったしな。それを言うならレイの冒険者ランクも聞いてないな。」


「俺か?俺は確かCランクだったかな。」


イクタノーラの記憶にはその辺のことも何もなかった。

特にランクに思い入れがあったわけではないのだろう。

実際のランクなど分からないが、イーリと共闘して実力も認めてもらっているはず。

それならあまり低いランクを伝えるのは怪しまれると思い、イーリより二つ下のランクを伝える。

イーリとメルラの反応はそれぞれ違った。


「Cランクか。あの補助魔法と索敵。普通に考えてA、低くてもBくらいかと思っていた。

依頼達成数が足りなかったのか?」


「え、そんな若くてもうCランクだったんですか?

仮面外したらすごい渋い顔とか出てきませんか?

勿体無い。絶対作り直さない方が良かったですよ。

というか、その話を私の前であまりしないで欲しいんですけど・・・。」


イーリはランクが低いと驚き、逆にメルラはその歳でそのランクは高いと驚いていた。


「まぁクラーヴ王国はランクが高いと目をつけられる・・・・目を掛けてもらえるからな。

しれっと馬鹿にされた気がするけど、まぁいいか。」


「なるほどな。確かに大きな組織に縛られるのは正直面倒だな。」


「そういうものなんですかね。一生安泰って感じでいいと思うんですけど。」


「そんなことはないだろ。組織に属するってことは程度の差はあれど個を犠牲にするってことだからな。仮に戦争が発生した場合、実力を買われたなら先陣を切らされるだろうし、敗戦の責任を取らされるかもしれない。」


「でもそれって戦争になったらって話なんですよね?」


「メルラさん、説明は他にありますか?」

なんだか話がずれて来てしまったので話を戻そうとメルラに話しかける。


「あ。失礼しました。

はい、ご質問がなければ説明は以上になります。」


「そうか、ありがとう。」


「いえ、またのご利用をお待ちしております。

ここは一応Sランク、Aランクの方専用の受付なんですけど、この街にはイーリさんたちしか利用者がいないので良かったらまたお越しください。」


「それならまたよろしく頼みます。」


「じゃあ行こうか、レイ。メルラもまたな。」


無事冒険者カードを作り終えたレイはイーリとともに冒険者ギルドを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る