7.初めての共同作業
ダンジョンは一つ一つ構造から、出現する魔物まで千差万別である。
地下につづくものもあれば森一帯が迷宮になっているものもある。
そしてこのSランクのミャスト迷宮は地上1層から地下50階層まであるとされている。
また確認されている限り、ミャスト迷宮は主に魔獣が出現する。
そしてこの迷宮は10層ごとにボスモンスターが設定されており、大きな迷路のフィールドが広がっているのではなく、ボスモンスターの体のサイズに合わせて無機質な部屋が用意されている。レイが目覚めたのも40層のボス部屋で、25層に戻るまでボスや他の魔獣よりも道中に苦戦していた。尚25層が休憩スペースなのもミャスト迷宮の特性であり、他の迷宮もそうであるとは限らない。未踏破の場所も一度クリアした場所も手順に沿って向かうことしか出来なく、帰還の際に命を落とすことが多いのも冒険者ならば周知の事実。
そのため、転移関連の恩恵ギフトを受けたものは運び屋として迷宮にいることがままある。
レイとイーリは迷宮探索を始める前にいくつか話し合ったことがある。
まず互いの戦闘スタイルについて。
「見た感じ武器持ってないが、レイは魔術師なのか?」
イーリはレイの頭から足先までを首を上から下にして、見たことで問いを発する。
「そうだな。近接戦闘もそれなりにはできると思うけどやっぱり魔術メインの中遠距離攻撃が得意かな。
そういうイーリは近接戦闘が得意か?」
「見た目通りって感じだな。
両腰の2本の剣を使って戦うのが私のスタイルだ。
小柄だから力押しは得意じゃないが、スピードならそれなりに自信ある。
魔法は剣を生かすために無属性魔法を多少は使えるが、魔術師からするとお遊びのようなものだと思う。」
互いの戦闘スタイルを話し合った結果、索敵や罠解除は俺の担当。
戦闘は主にイーリの担当になった。
「ここはレベル80くらいまでは普通に現れる迷宮だからレベル60以上の大型魔物か、高レベル帯の中型魔物が複数出てきた時はレイも戦いに加わってくれると助かるんだがそれで大丈夫か?」
「了解。敵を発見した時はどうする?何かパーティ内で決まっている合図とかあるか?」
「特に詳しく決まってはいないな。
それに私たちのパーティは結構脳筋で索敵が下手なメンバーが多いから・・・気がついたやつが先にフォローする感じだな。
レイは何か、いい方法あるのか?」
「それなら俺がいつも索敵して、敵を見つけた時に使う方法に合わせてくれ。」
そう言って俺は地面にアナログ時計を描く。
軍隊や障害者介護などにも一般的によく用いられるクロックポジションの説明をする。
それと同時に言葉や数字の概念が自分のいた世界と同じであるかを確認する。
そして年がら年中
「まず1〜12で円を作るんだ。
この図を頭に入れてくれ。それを基準に敵に位置を指示するから。
12時方向が正面。3時方向が右。6時方向が後ろ。9時方向が左。みたいな感じで。」
「なるほど。わかりやすいな。2時方向だったら右斜めって感じか。
でもこれはレイから見た状況か?それとも私か?」
「その辺はパーティによって決めればいいと思う。
今回は全部イーリ視点で伝えるからそのまま受け取ってくれ。」
「そうか。少し負担が増えてしまうけど、よろしく頼む。」
「俺が提案したんだし、気にしないでくれ。
25階層〜30階層の魔物のレベル帯はわかる?」
「通常なら20階ボスでレベル40。30階ボスでレベル70。40階ボスでレベル90。50階ボスでレベル100。が目安だな。ただ高ランク迷宮はイレギュラーも発生しやすいからプラスマイナス10を想定して動いた方がいいと思う。私は相手のレベルとか確認できる能力はないが、レイはどうだ?」
「そんな能力があるのか。
俺はそう言った能力を持ってないな。
レベル差はプラマイ10か・・・。わかった。」
(俺がいたのは40階層だからあの時倒した魔物はレベル80~100くらいなのか)
と考えていたらイーリの問いに反応できず、再びイーリに余計な気をつかわせてしまった。
「すまない、余計な助言だったか?」
「いやありがたい。実際、本番でレベル10の差はとてつもなく大きいし。」
と俺が笑って答えるとイーリはさらに申し訳なさそうにしてしまう。
イーリはレイの仲間が40階層で死んだと思っている。
実力を試しに来た迷宮でイレギュラーレベルの魔物に遭遇し、殺されたとでも考えているのかも知れない。
どうフォローするのが正解なのかわからないため、話を逸らす。
「イーリたちのパーティ、30階層は初挑戦なのか?」
「私自身は攻略済みだぞ。
新しく仲間にくわわったメンバーの実力を確かめるために挑戦するんだ。」
「イーリのパーティって結構大きい規模なのか?」
「それほど人数はいないけど、頑張れば小さい街一つくらい落とせるくらいにはみんな強いんじゃないか。」
「なんか物騒な少数精鋭だな。」
道中イーリに色々と質問をし、有益な情報を得られた。
迷宮内は先ほど40階層から戻るために通ったためある程度見てきたが、改めて26階層を見渡すとどこかの遺跡の中という印象をもった。
床や壁、天井は石のような材質のもので作られており、空気はどこかひんやりしている。
灯りは一定間隔で壁に松明が設置されているがそれでも薄暗い。
湿気が溜まりやすそうで、血の匂いがぷんぷんしそうな割には全くそんなことがなくなんだか不思議だ。
そんなことを思っていると索敵に反応があった。
「イーリ、10時方向に魔物だ。
まだ距離はあるから向こうは気づいてないしあまり強くはないと思う。」
俺がそう伝えるとイーリは帯刀していた剣を一本抜き、戦闘体制になる。
前衛として前を歩いているイーリを見ている時から隙がないと思っていた。
それに加え今の武器を構えるイーリの動きは流麗で思わず見惚れてしまう。
すぐ気を引き締め、イーリに無属性の補助魔法『ヘイスト』と『スケイプ』を掛ける。
「普通に無詠唱か。さすがだな。」
イーリはそう独言、指示された方向を警戒する。
しばらくすると魔物が現れる。
「雷犬シニクスが2体か・・・レベルは50前半位か?こいつらをあまり強くない・・・か・・・。
無詠唱も当たり前って感じだったし、レイってもしかしてかなり強いのか?」
距離が空いているためある程度位大きな声で話さないと声は届かない。
イーリが呟いていると魔物もこちらを視認したようで敵意を剥き出しにし、警戒しながら一歩一歩近づいてくる。
こちらが少しでも気を抜けばすぐにでも襲える準備をしている。
そんな一触即発の場面でイーリは思っていた。
自分よりも広い索敵で先に敵を見つけてくれ、補助魔法までもかけてくれている。
このまま戦闘まで手伝わせてしまえば流石にレイに頼りすぎてしまうと。
励ました相手に自分の尻拭いをさせているようで気が引ける。
だから例え中型魔物が相手だとはいえ、かなりしっかり相手をした。
その結果雷犬シニクスは2体とも何もできず、一刀両断される。
結果に驚いたのは雷犬シニクスだけではなかった。
攻撃した本人も驚いていた。
抜刀し、雷犬シニクスに向かって駆け出した一歩目で補助魔法の効果を体感した。
シニクスを切り捨てる際、彼らも眼前の出来事に驚き固まっていた。
「こんなにあっさり・・・。補助魔法の効果すごいな・・・。」
イーリが呆然としているとレイが駆け寄ってくる。
「強いな、イーリ。今の敵を1発か。」
そんなことを言ってくるもんだからイーリはつい叫んでしまった。
「いや、いやレイの補助魔法のおかげだから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます