2.鈴屋泰斗
鈴屋泰斗もダイイングフィールドに魅せられた内の1人であった。
泰斗はダイイングフィールドにこれ以上ないほどに魅せられた。
泰斗はその結果ダイイングフィールド内で唯一で絶対のルールである『終末戦争』の覇者にまで成り上がった。
泰斗は個人でありながらクラン規模の相手に立ち回れるPS、戦力を有した。
個人戦、乱戦ではあまりに圧倒的なため、泰斗と戦った相手は皆、チートだと運営に訴えるほどだった。その影響力は凄まじく対戦を自動で組むAIですら泰斗個人を国だと誤認し、そのまま誤って個人と国でマッチングされる。
けれど泰斗は特に運営に連絡を入れたりせずそのまま戦う。
そしてその国取合戦では大国クラン相手に、一人で戦い勝ってしまった。
そんな泰斗は、本来仲間と協力し作る国を一人で作り上げていた。
国の管理を一人で行い、戦争すら自分の作った国を使い常勝無敗。
他のプレイヤーからは“覇王“と呼ばれていた。
しかし彼は他のプレイヤーとは一切関わりを持たず、黙々と戦闘技術の向上や、内政調整を行っていたため“覇王”などという恥ずかしい二つ名をつけられていたことは全く感知していなかった。
結局リリースから今まで、泰斗が負ける姿を見たものは誰一人として存在しなかった。
そんな“覇王”こと、鈴屋泰斗は今日もダイイングフィールドをプレイしていた。
「ここ数年、どの戦いも歯応えのある敵がいない。
やっぱり、ネットでも話題になっていたけど、サーバーダウン予定ってほんとなのかな?」
ダイイングフィールドは発売から数年経った今、プレイヤー衰退の一途を辿っていた。
理由は単純でダイイングフィールドの『終末戦争』やレベル上げの面倒な要素を取り除き、より自由性の高いゲームが発売されたからだ。新規はもちろんのこと既存のプレイヤーも新しいゲームに行ってしまった。
『終末戦争』やレベル上げが面倒だと思っているもの、新しいゲームをしたいもの、ダイイングフィールドに飽きてしまったもの様々いる。
しかしダイイングフィールドが自分の全てである鈴屋泰斗にとって他のゲームに乗り換えることは考えられない、いや、考えたことすらなかった。
「やりたいことがたくさんあるのに他のゲームなんて考えられないなー。」
泰斗を知らない他のプレイヤーからはどれだけこのゲームをしているのかと疑問を持たれているが泰斗のプレイ時間はそう長くない。
そもそも泰斗はその強さから誤解されがちだが、ゲーム廃人ではない。
何も一日中プレイしている訳ではない。
泰斗に一日中プレイしていたいかと問えば Yesと返事が来るだろうが、生きていくために働かなければならない。
趣味がなく、薦められたことでこのダイイングフィールドを始めた。
泰斗は学生の頃、いじめによって心的病に一時期、陥っていた。
その際にカウンセリングに掛かり、専属の担当医から薦められたのがこのダイイングフィールドだった。
泰斗はこのゲームを始めてからどうにか立ち直り、どうにか卒業はした。しかしその後食べていくために毎日バイト漬けの日々。稼いだお金は生活に必要な分以外、全てこのゲームに注ぎ込むほどこのゲームにのめり込んだ。
自分という存在から離れられ、自分が作ったり連れてきたキャラとはいえ自分を無条件に肯定してくれる存在があるこの世界を愛していた。
趣味があること、ゲーム内に自分の国(空間)があることで希望を持つことができた。
そして心的な病も回復の兆しを見せたため、鈴谷泰斗は社畜もどきと呼ばれながらもバイト頑張り、ダイイングフィールドをプレイしていた。
バイトが終わり、家に帰った彼は今日もやりたいことをするため、そして自分でない自分になるために自国の中心地「慰霊教会」にアクセスしていた。
泰斗は自分の執務机に両肘をつき、目を閉じていた。
机には自国『メギド』の色々な資料が散らかっている。
泰斗は確かめるように現状を声に出す。
「高レベルNPCも国運営のためのNPCも揃ってきたし十分。
そろそろ国内の整備は完璧になるかな。これでようやく、ダイイングフィールド内の他マップを散策したり・・・・サブ垢作ってカンストしてない職業についたり・・・・・できる・・・・・・・。」
現実とは違う泰斗。
そんな泰斗を受け入れてくれるNPC
そんな彼らと暮らせる国がもうすぐ完成する。
そんな矢先にダイイングフィールドがサーバーダウンするかもしれないという噂。
鈴屋泰斗の受けたショックは如何程だったのか。
それは本人にしか分からない。
「こんなタイミングでサーバー停止・・・・。
この世界がなくなったら、俺は・・・・。
何も残らないんだよな・・・・。
アバターもNPCもここでの思い出も何もかも。
記録が残らなければ、記憶はそのうち消えてしまう・・・・
『終末戦争』を欠かしたわけでもないのにデータが消えるなんて・・・。」
ため息をつきながら、口にして思った。
自分は何もペナルティを受けることをしていない。
それなのにどうして自分の一番大切なものを奪われなければならないのか。
それは理不尽ではないか。
気がついてしまったら、溜め込んでいた思いはあっさり決壊する。
「おかしいオカシイ可笑しいお貸しいオカしいオカしいおかシイ侵しい可笑しい可笑しい
おかしいオカシイ可笑しいお貸しいオカしいオカしいおかシイ侵しい可笑しい可笑しい
おかしいオカシイ可笑しいお貸しいオカしいオカしいおかシイ侵しい可笑しい可笑しい
俺のデータ。僕の家族。私のNPC。自分だけのデーた。僕だけのデータ。僕だけの記録。私の居場所。私の命。僕のデータ。データデータデータなんで?なんで?なんで?なんで?んで?なんで?なんで?なんで?んで?なんで?なんで?なんで?許さない許せない。」
怨嗟の籠った繰言が止まらない。
感情はどんどん不安定になっていく。
今日ダイイングフィールド内でやりたいことを考えることで、自分の世界が壊されることを頭の片隅に置いて忘れようとした。しかし自分の大切なものが消されるかもしれない状況で目を背けることはできなかった。
なぜならこの世界がなくなることは鈴屋泰斗にとって死と同義であるから。
鈴屋泰斗はデータが消えることで今までの自分が世界から否定される気がしていた。
仮想空間があるからこそ、自分は現実世界でもなんとかやって行くことができた。
よくわからない感情が昂った。
行き場のない感情を、机を叩き発散せようとする。
けれどそれだけで溜まった怒りや悲しみをどうすることも出来ず、バーチャル空間にいるのに、何もせず椅子に座ったまま項垂れてしまう。
ただただずっと項垂れていた。
感情の波に飲まれたのかわからないが泰斗の意識はどんどん遠のいていく。
そんな薄れていく意識の中で泰斗は何かの声を聞いた気がした。
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