貧乏な俺を導いてくれたのは格好良い爺さんでした
しょうわな人
第1話 柔剛の者
俺の住む町は【カーナンド】と言う。武芸が盛んな町で、剣術・槍術・無手術・盾術・棒術・杖術・忍術…… パッと思いつくだけでかなりの武術道場がある。勿論、これらの道場に通うには月払いの会費が必要な訳で。貧乏だった我が家ではそんな金は無かった。
俺は自分で言うのも何だが、幼い頃から容姿だけは優れていた為に女の子から熱い視線を向けられていたが、それに嫉妬した近所の同じ年頃の男達から、暴力を振るわれていた。皆がそれぞれ武術道場に通い、教わった技を俺で試すのだ。
「タイキよう、お前が悪いんだぜ。俺のミヤに手を出したからよう」
そう言いながら無手術の拳法を学んでいる一つ年上のカークがその拳を俺の腹にめり込ませた。
「グッ、ガハッ!」
俺は殴られた腹を両手で抱え込みうずくまる。しかし、顔だけは上げてカークを睨みつける。そしたらその顔に目掛けて拳が飛んできて俺は気を失う。
「ケッ! バカが。道場にも通えない貧乏人がっ! コレに懲りたらミヤに手を出すなよ」
既に気絶した俺には聞こえてないが、カークはそう言ってその場を去ったらしい。俺とカークのやり取りを見ていた師匠がそう教えてくれた。
そう、師匠だ。俺みたいな貧乏人にも武術を教えてくれた師匠がいる。もし、あの時に師匠に声をかけられなければ俺は今頃、誰かのヒモになって暮らしていただろう。
気絶から目覚めた俺をのぞき込んでいた老人がいた。俺は殴られた顔と腹を手で押さえながら、老人を睨んだ。
「ハッハッハッ、目が死んでおらんな。なあ、坊主。何でやられっぱなしだったんだ?」
俺はそう聞かれて不貞腐れて答えた。
「あいつは拳法の道場に通ってるし、俺が殴りかかっても敵わないからだよ」
「ふーん? それでやりもせずに殴られっぱなしか…… どうだ、坊主。強くなりたいか?」
俺は総髪を後ろで一つに束ねた老人の顔を見た。そして、不貞腐れたままに返事をした。
「強くなりたくったって、俺の家は貧乏だから誰も俺には武術を教えてくれないよ!!」
「ハッハッハッ、そうか貧乏か。それなら心配する事はない。ワシが教えてやるんだからな。金は要らんよ。但し、ワシの簡単な用事を変わりにやってくれたら良い」
俺はそんな事を言う老人をまだ睨みながら答えた。
「そんな事を言われても信用出来るかよ。それに爺さんが強い様には俺には見えない。そんな爺さんに教わっても強くなんてなれないだろう!」
俺の返事を聞いて老人はまた笑いながら返事をする。
「ハッハッハッ、中々正直でよろしい。けどな、さっきも言ったがやりもせずに諦めるのは良くないな。どうだ? 試しに
俺は悩んだ。大体俺はこの老人を知らない。この町で生まれ育って十一年だが、近くに住んでいる者は全てとは言わないがほぼ知っている。
「そもそも、爺さんは誰なんだ? 見た事がないし」
「ハッハッハッ、ワシは昨日この町に来たばかりだからな。昨日からホレ、アソコに見える小屋に住み始めたんだ」
老人が指差した先には掘っ立て小屋があった。ソコは以前、俺の親戚が住んでいた場所で、今は裕福になった親戚が出て行って、誰も住まずに放置されていた小屋だった。
「それで、簡単な用事って何だよ?」
俺は少し、いやかなり心惹かれていたが、まだ不貞腐れた様な口調で聞く。
「おっ? その気になったか? 何、簡単な事よ。川から水を汲んできて貰うとかのな」
「そんなので良いのか? そんな事で本当に武術を教えてくれるのか?」
「ああ、教えてやるぞ。さっきも言ったが試しに一月やってみんか?」
「分かった、やる」
気づけば俺はそう返事をしていた。
「うんうん、やるか。それならワシの武術を言っておこう。ワシが修めた武術は柔剛術だ。それじゃ、明日の朝六の刻に小屋に来るが良い」
「分かった」
俺はそう返事をして老人と別れて家に帰った。
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