援助交際’96

山本Q太郎@LaLaLabooks

援助交際'96

 あまりにも短いスカートからにょっきりと生えている生脚に目が惹きつけられる。むちむちした太ももに生命の活力が漲っている、これが若さというものか。見せ付けられて初めて自分がもう二度と取り戻せないものだと思い知らされる。自分が若さを活用もできず今に至る事にも気づいてしまった。未練がましく過去を振り返っていると命の泉が体中から湧き上がり生命の活力で潤いまくっているイマドキの女子高生に金をねだられた。

 にやにやと笑い、手のひらを上に片手を突き出し、顎をしゃくっている。

 持ち合わせがなかったので財布の中の小銭入れに入っている小銭をかき集めて25円あげた。

「賽銭じゃねーんだからよ」と詰られた。

 しかたがないので500円玉も渡してやった。

「おまえ、ふざけんなよ。人の足ジロジロ見てただろーよ」と女子高生が因縁をつけてきた。そう、これは明らかに恫喝である。

「わかってんだろ?早く出すもの出せよ」そのあと、じゃないとおっきい声だしちゃうよ。と小さく囁いた。

 財布の中には万札しかない。万札は一旦崩すとすぐなくなるから、崩したくないなと思っている。

 女子高生はぐっと手を差し出してくる。時たま細くてまっ白い足の先に履いてる紺のソックスを包んでいる黒い革のローファーで臑を蹴ってきてもいる。

 突き出された手に唾をはいてやろう。今をトキメク女子高生に唾を吐く。そんな武勇伝を夢見たが、わが誇らしき武勇を伝える相手が母親しかいない事に思い至った。友人はいないし弟は口を聞いてくれない。それに母親に話しても気苦労を増やすだけで褒めてはくれないだろう。

 女子高生は二人に増えている。手を突き出している女子高生と後ろから膝裏を蹴っている女子高生だ。顔を見ようと振り返ると膝裏を蹴っていた女子高生は、顔をそむけ何気ない風を装っている。わざとらしいなと思った。突然息が詰まった。腹にパンチをもらった。前にいる、金をせびってくる女子高生にお腹をグーで殴られたようだ。女子高生は人のお腹を殴っていながら悪びれもせず手を突き出し顎をしゃくり睨みつけてくる。

「さっさとしろよ」と言って地面に唾を吐いた。威嚇でもしているつもりか。

「あたし今日イライラしてっから。あんた、早く出したほうがいいよ」

 せっかくこんなイマドキのものすごく短いスカートをはいた女子高生が話しかけてくれたり、キックとはいえ接触してくれたのだから万札を崩すのも仕方ないかというような事を言うつもりだったが緊張のため「ごごぞもどもごごごご、あはあはあはあは」と口からでた。

 右のふくらはぎがすごく痛い。背後からつま先で蹴られたようだ。急に息ができなくなった。前から腹にパンチをもらったみたいだ。偶然だと思うがみぞおちに入って吃驚するくらい痛い。息がつまる。思わずお腹を押さえて屈んだので、さっきから蹴られていた脹脛のかわりにお尻をつま先で蹴られた。偶然だと思うがつま先がお尻の奥に当たって鼻がツンとした。思わず飛び上がった。

「ちゃんとしゃべれやキモチワリー」と女子高生が腹の肉を千切りとれるかと思うぐらい強烈につねってくる。

 これが「ごごぞもどもごごごご、あはあはあはあは」に対する返答です。

 意を決して胸元から長財布を取り出し札を引き抜く。

「お、おつりをください!」と叫んで万札を差し出した。

 女子高生に頬を張られた。顔が熱くなって鼻がツンとした。

「口臭せーんだよ」と言われ手に持っていた財布をとられた。

 壱万円札5枚と千円札2枚と免許証と社員証を抜かれた。地面に捨てられた財布に気を取られていると手に持っていた万札もとられた。

 おつりをまだもらっていないので慌てていたら、偶然だと思うが後ろにいた女子高生が財布を拾おうとした手を踏んでくれた。

 体重が乗っていたのか大事な関節を踏まれたのか手が痺れて財布が持てない。手のしびれが治るまで待っていたが、気がついて踏まれていない方の手で財布を拾って鞄に入れた。

 おつりをもらおうと顔を上げるとたくさんの人が集まって人垣ができていた。周囲にぐるりと人がいてさっきの2人の女子高生はみあたらなかった。

 それでも探していると、人垣の中から学生服を着崩して髪の色がまだらで汚い男の子が、本当にニヤニヤといった笑いを浮かべて話しかけてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

援助交際’96 山本Q太郎@LaLaLabooks @LaLaLabooks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る