第五話 とりま、制裁。下
人間はいつだって、力をセーブしている。
人間は全力を出したことがない。
きっと一回は聞いたことがあるだろう。
人間は自分の本当の力を自分の思いで出すことはできない。
一番の全力を出せたとしても、せいぜい70%〜80%位である。全開ではない。
日常生活で、支障を来たすことのないよう、制限がかけられているのだ。
その制限はときに壊されることもある。
いわゆる火事場の馬鹿力と言うやつ。タンスをもちあげるっていう、あれだ。
しかし、その馬鹿力を出した後には筋肉の損傷、激しい体力消耗。下手をすれば死もありうる。そんな代償を抱えている。
だが、それは目の前の『妖機』ならば別である。
どういうわけか人間には見えず、己の多大な欲求のまま、満たされぬ欲求のまま。現代に住む物を恨み、嫉妬する人間の残骸。
過去に生きた者たちのなれ果てた姿。
その人では到底制御できない感情の激流は、彼ら、彼女らを人外へと化けさせるには十分であった。
力を手に入れたいという欲求から、自身のリミッターを外し、力を。
知恵を手に入れたいという欲求から、体を変化させ、自分の思うがままに。
快適に過ごしたい、物が食べたい、幸せになりたい…という欲求から、まずはそれを所有しているであろう
代償をも自らの思いで塗り替える。
それは、正に人間と言う名の怪物である。
_____________________________________
…さて…どう動くか…。
今私がいるのは、どこかもしれない商店街。しかし周りには瓦礫が飛び散り、砂埃が上がり、ガラスは割れ、どう見ても事件性のある悲鳴が上がりそうな現場だ。
私の隣には、私をいつまでもポカンと見ている美少女。
目の前の数m先にはトカゲみたいな『妖機』。
…うーむ…
『どうした?さっさとやってしまわぬのか?』
あ、私の後ろ(?)にも一人いたんだっけ。
『…』
ま、正直ちゃっちゃと倒して学校言って青春あははうふふをやりたいところだけど…
…あの巨体ぶっ飛ばしたら…被害やばくなりそう…
いや、現時点でも金えげつないけどさ…
『なるほどのう…賠償しろ!となれば、真っ先に悟に責任が行くじゃろうな…』
「もう手遅れな感じが否めません…」
流石に学生にもなって、借金は御免被る。親に迷惑もかけたくない。いま見られていないとはいえ…この子が警察にどうのこうのしたらやばい。
犯罪者認定は確定。今どきの警察の捜査能力はすごいからなぁ…指紋いっぱいつけちゃってるし…何なら顔も見られて写真撮られてるかもだし…さっき殴られたときに隠密溶けてたらどうしよう…それで視えてる可能性あるしこの子。
最低でも後片付けするなら…物の被害は最小限に抑えたい。
こんなとこで人生詰んでたまるか!
と、いうわけで取れる方法は3つ。
①初手一撃でブッカマス。
②場所を移す。
③時を止める。
うん!①しかない!問題解決!QED!
さて…
はぁ…
「痛くしないでくださいよ…?」
『善処する…と言っても無理じゃけど☆』
直後。私は頭蓋が2つに割れたかのような激しい痛みに耐えるのだった。
あのジジィ絶対後でぶん殴る。
______________________________________
人間の持てる力には、限界がある。
何故か?それには使う力によって変わってくるが…
全てにおいて足りないのは、『数』といっていい。持てる数の限界。
しかし、ただ数を揃えればいいだけではない。
自分の体を如何に上手く使えるかという、『技巧』。
そして、それらを最大限に発揮できるような、『構造』。
人間は毎日筋トレをしていても、どれだけ走っても、クマには勝てない。どうしてか?
人間の体に比べ、クマの体の構造のほうが、より優れており、より強靭な肉体を持つことができるからだ。
逆にクマはその強靭な肉体を持ってしても人間の知識に負け、捕獲されている。どうしてか?
クマの脳に比べ、人間の脳のほうがニューロンの数、接続数が多く、脳の使い方が上手いからである。(悟談。)
このように人間、いや。この世の生きるもの皆全ては、どうあがいても生まれ持った先天的な性質内でしか進化、強化することは出来ない。
しかし、それは通常であればの話。
妖機は、その理に当てはめられない。人であって人ではない…所謂、怪物と言うやつである。妖機には、どうあがいたって生身の人間、いや武装した人間だって勝てない。
ならばどうやって戦うのか。
突然変異という言葉は、皆知っているだろう。
生物やウイルスがもつ遺伝物質の質や量が変化し、親の個体よりも優れた力を持つことの総称である。
人間だって、何千年という長い期間を得て、四足から二足で歩き、火を扱い、コミュニケーション、道具、学問、様々なものを生み出してきた、ある意味進化という名の突然変異だろう。
そんな人間の中でも、特に短期間で成長し、天才と言われる者たちさえも押しのけ、奇抜な発想、超人的な力、暗闇のような悪、並外れた叡智。
圧倒的ななにかで、周囲を圧倒し、人を動かし、国を変えた者たち。
『偉人』の力を借りるのである。
______________________________________
世界が、鮮明に映りだす。
今まで、見えなかったものが見えてくる。
今なら何でも…できる気がする。
あの子をぶちのめすくらい…なんてことない。
『《誘・無幻境地》…やれい!!』
あの子がうご…いてる?歩いてるのかな?
「…おっそ。」
あの居合切りの要領で、接近。そして…
「…フッ!!!」
音無き一閃。一刀両断。光の速さのように振り下ろされた長刀が、空間を切り裂く。妖機の悲鳴も、彼女が息を飲む音も、マスコミが集まる音も全て、置いてけぼりにする。
妖機は、段々と崩れ去ろうとする。
しかし、それだけでは終わらない。まだ、戦闘服は解かない。その体に手をあてる。
流れ込んでくる思念…
《どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして…》
それを、全て…取り込む。手の中に、私の中に…
「大丈夫…あなたのその思い、きちんと受け取った。きっと大丈夫…戻ってこれるから…だから…もう、これ以上は、やめて…」
これ以上…傷つけないで…
「…どうか素晴らしい人生を送れますように…」
誰ともしれないなにかに、祈るように。
私は、その黒い塊を吸い込み、取り込んだ。
あたりに音はなく、ただ私がいるだけ。まだ、私の頭が働いているうちに、早く片付けて学校に行かないと…
はぁ…
私は、この瞬間が、一番キライだ。
______________________________________
どもっす。やっと制裁が終わった。
次は学園生活!と、育成!
ま、頑張ってみます。実際頭の中で描いてたのここまでなんで、後からおかしくなるかも…
色々諸々宜しくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます