第四話 とりま、制裁。中
ふぅ…さて、いい感じに決め台詞を決めたところで…
「おっぱじめましょうか!」
あちらを見る。
《くぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…》
どうやら、あの子は私の思っていた以上にふっ飛ばされていたようだ。この女優の子が気になりすぎて、あんま良く見てなかった。いいスタイr…げっふん!
たまたま、ここは横丁みたいな感じで縦長の通路。あの子はそのまま真っすぐすっ飛んで目の前の揚げ物屋さんのショーウインドウに当たっており、粉々。うへぇ、余計に目立ちたくなくなった…
…でも、あのトカゲみたいな形は保ってるのね。何なら、しっかりうめき声も上げる…と。うーむ…これ一発で沈んでくれたら良かったんだけど。
(…まぁ良いわね。)
――構え…――
その目の向きを一切変えず、刀の柄に手をあてる。目を閉じて…集中…姿勢は良くして…呼吸は最小限の回数かつ最大限の空気を肺に…全集中じゃないよ!
《こるぉぉぉぉ!!!!》
まだ…
《がうらぁっ!!!!》
(ここッ!!!!!!!)
…斬ッッッ!!
《kねいのうぇおいdfしふをいううぇふぃふぇ!!!!!!!!!!!!!!》
…ふむ。あの子、ずらしたな。頭部が2つに別れただけか。思ったより素早そう。さっきのは不意でクリーンヒットしただけみたい。構えてる時点で、いや、その前のふっ飛ばされている時点で警戒心あったみたいだし。賢い子みたいだ。でも、避け切れはしなかったんだね。うん。十分祓える。
耳をつんざくような奇声を発しながら蠢くあの子…もう分かりにくいし言いにくいからトカゲちゃんでいいや。トカゲちゃん。
トカゲちゃんの頭からは、まるで血のように流れ出てくる黒い泥。照明の光が反射して、ヌメラッ…とさらに気持ち悪く見える。本当の血ではないはずなのに、なまぐさいな…と感じるのは人間の性なんだろうか。
それに手をかざす。すると、私の手の中にそのぬめりが玉となって顕現する。
すぐさま後ろに下がる。これをヤると隙ができるからね。
私の胸に、玉を入れた。
気持ち悪いモノが全身に回る感触。思わず吐き気を催す。体が、この異物をなんとか排除しようと頑張っているのだが…
(…すごい…久しぶりだな…こんな気持ち悪くなるのも…うぷっ…さすが都会…)
全部それを無視して、一旦こぼれ落ちた分を取り込むと、フラフラと立ち上がる私。
やば…立ちくらみ…
『代わるかの?』
「…いえ、頭頼みます。」
そっちのほうが、じーさんにとっても楽だ。
多分このじーさんは、私を心配してくれている。
しかし、正直、びっくりする程度でしかない。最近仕事サボってたのもあるけどね。
…?
《sdlkwじおdwんlkwんそいwんしをsn》
あ、トカゲちゃん起きた?
もうそろそろ祓われてくれると助かるのですがねぇ…
《くるるるるるるるるるるるるるるる…》
ん…?
動かない…?
『いかん!!!』
ブスッ!
「ッ?!」
とっさに目をつぶる。と同時に何かの刺さる音。
まさか…伏兵?!ううっ…一本取られたかも…また、探知に気づかないなんて…おかしいな…
…って痛くない?あれ?
自分の体を確認するも、刺さったと見られる場所はどこにもない。
んー?
『戯け者!!前!!!!』
《つぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!》
ドゴッ!!!!
「なっ?!」
棍棒のようなものがお腹に当たる音。結構速い速度で向かってきていたせいか、鈍い音をたて、軽い私の体はふっ飛ばされてしまうのだった。
ガッシャアン…!!!
「ッ!!」
「くはっ…」
トカゲちゃんと同じように今度は肉屋さんのショーウインドウにあたり、つんのめる私。
く…一瞬で詰められた…数mしかなかったけど…
うっ…ただで吐きそうなのに…腹パン追い打ち掛けてきやがって…
とっとと学校行きたいのに…っていうか、なんか腹減ってきた…ここ美食街じゃねぇか…
『大丈夫か…?また、『れでぃ』ではないはしたない言葉になっておるぞ…?』
「ううっ…わかってますよ…そんなことくらい…ストレスだってわかってくださいや…」
「あ、あの大丈夫…ですか…?」
「大丈夫、大丈夫ですから、こんな言葉遣いすぐに…」
…お?
E?
恐る恐る顔を上げる。
あの美少女女優さんが、目の前で私のことを心配そうな目で視ていた。
え?
みえてんの?
あまりの想定外に思わずポカーンとしていると…
「ほ、本当に大丈夫ですか…!?あなたが誰だかは分からないけど、とりあえずありがとうございます!もう、十分ですから、逃げましょう!!後は警察に任せて…」
そう言って、私の手をとって、起き上がらせてくれた。うん、言っちゃいけないけどあんまり力がなかった。でもすべすべできれいな手だなぁ…
それはともかく…
ほ、ほんとに視えてる…のね…
彼女の目を見る。
…
「…?」
は、恥ずかしいぃ…
思わず赤面する。耳の先っぽまで赤くなる。
『ふぉっふぉっふぉっ…こりゃ此奴、化けるかもしれんぞよ?』
そんなこと言ってる場合じゃないでしょぉ…
ああ…ヤバい…今どきコスプレしてるって思われてそう…オタク趣味でしてるって思われてそう…自分のことが可愛くて仕方ないナルシストだと思われてそう…さっきの心配の目も、よく考えてみたら、憐れむような視線だったような気がする…
「あ、あの…?」
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…は、恥ずか死ぬぅ…これはぁ…これは…不可抗力なんだぁ…なんかこうなっちゃったんだぁ…
違う…違うんだァァァァァァァ…
『ほれ!いつまでもウジウジしておらんと、はよう祓わんかい!!』
でも…
『良いから、はよう!お主の羞恥で人が死ぬぞい!』
ううっ…わかりましたよ…
後で記憶操作とかできるか聞いてみよ…
そう思いつつトカゲちゃんの方を見る。
…なんか、更にトカゲ感が増していた。
鱗はできてるし、舌はチョロチョロ出るし、ロケランは二つ通り越して、3つに増えてるし。しかも、あれよく見たらロックオン機能ついてない?なんか標準まで付いてるんですけど…。
…パワーアップだよね…これ。思念も、何か強まってるし。こころなしか元気そうで、更にあれ、鱗では?トカゲって、ドラゴンの子孫だったりする?テッカテカツヤッツヤ。
《ぐるるるる…》
そう嘶くトカゲちゃんのそばには、注射器が転がっている。
あれは…成長薬…の類のものなんだろう。きっと。このパワーアップはそう考えるべきだ。なんか…お約束の展開きちゃな気がするから。
でもその薬をトカゲちゃんが予め持っているとは考えにくい。
最初は弱い個体からスタートしていたわけだから、もし、その薬をもっていたなら早く強くなるために、すぐ使ってしまうと思う。思念は、そこまで知能の高いものじゃないからね。本能で強くなるものだから。
そんなものが、今出た。
ということは…
『…なにか一枚噛んでいるやつがおるか…あるいは、衝動に打ち勝った思念がいるか…』
「どちらもありうるから怖いですね…」
『とにかく、今は彼奴を祓うほかあるまい。調べようにも、ここじゃ無理じゃ。衆目が多すぎる。』
「…よし。」
今やれることをやってかないと。
私はそれに目線を外し、もう一度トカゲちゃんと対峙する。
「ちょ、ちょっと!!私の話聞いてました!?早く逃げましょうって!!もう110番しましたから!後は警察に…」
あ。そういやこの子もいたんだっけ。
…どうせ、こういう風に体験しちゃったからには、もうとぼける事もできない。この血生臭くて胸糞悪い世界に否応がなく入ってしまうことになる。運命はときにして残酷だ。
なんなら、今から知識を身に着けてもらったほうが早い。つっても無理矢理はあかんから少しずつ現場慣れだね。
「…警察?そんなモノ宛になると思う?さっきあなたの周りにいた大勢の群衆は、あれを視認できないのに?」
「え…?」
「人が、見たことないようなものを信じる確率は思ったより低い。だからそういう超常現象を人はバラエティ番組の中に流せるし、面白く感じるんだよ。実際そうでしょ?」
「…」
「だから…今起きている出来事も、有耶無耶にされるか、それっぽい原因が作られるか、さっき言ったように、面白おかしく人々の間で伝えられるか…たとえ、現在進行系で人の死があったとしてもね。警察どころか、軍隊だって動いてくれやしないよ。たった一人の死は軽すぎる。」
「そんな…」
見るからに落ち込んだ顔をする彼女。
「でもね…」
その彼女を安心させるかのように…
「信じてくれる確率は低いだけで、0とは限らないんだよ?例えば、私とか。」
大きな声で、言ってやった。
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解説
・悟が着ている巫女服
主人公の悟が、戦闘隊形に入ると身にまとう、専用の衣装。
色合いは、基本的に黒であり、ところどころ、チャームポイントとして、各所に様々な色のアクセサリーがつけられている。本人は意外と気に入っている。(詳しくは第三話)
性能としては、纏った者の基礎能力(体力、筋力、知力etc…)向上、技術向上、ダメージ軽減、霊術発動媒体(第三話での、ふっとばし斬撃シーンは霊術の一つである。)、浮遊効果などが挙げられる。
自分の思念や、想いによって能力が変わったり、追加されたりする。今の所、悟の装備の充実度は、初心者を抜け出した中堅というところ。もっとエグい服も普通にある。
この服は、ある組織に加入していることを表す会員証でもある。
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