第二話 とある女優サイド
『ARE YOU STEADY?』
steady…形容詞。
①しっかりした、ぐらつかない、安定した、怯まない。
②一様の(不変の)、間断のない、じりじり進む、定期的な、常連のいつも
の、常習の、不変の、定常の。
③決まった相手。
④気をつけろ、危ない!
…『リーダーズ英和辞典』より引用
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(…?なんか…なんだろう…?)
っと。ダメダメ。今は集中集中。
こんにちは。
まぁ、ダサい名前でも名が売れればナウいのです。
日本人なら皆知ってる、言わずとしれた人気女優。十六歳ながらも大人の美しさと子供の可愛さを併せ持つ、次期『PLANET』候補…というのが私の世に出回ってる主なプロフィール。
ちなみに、『PLANET』っていうのは…まぁ、日本の◯大女優みたいな人に贈られる地位のことね。
『mercuris』、『venus』、『earth』、『mars』、『jupiter』、『saturnus』、『uranus』、『neptune』の八人。この八人は三年ごとに代替わりする。
『PLANET』の一員になれることは即ち、人生の成功を約束されたことに等しい。富、名声、地位…様々なことが出来るようになる。もちろん仕事もいっぱい。
だから、日本の女優は『PLANET』になることを夢見て、活動を続けているのです…
そんな長い話はさておき。とにかく有名になるために、日々頑張っている私。
私は今、都心からちょっと離れた所に来ています。ロケです。このあたりの美味しい飲食店や商店街をブラブラしながらとにかく巡るらしいのですがまぁ、どこの番組でもやっているような、良く言えば鉄板ネタ、悪く言えばその場しのぎですね。
難しいことは要求されないし、楽勝だと思っていた時期が私にもありました…
正直言って、もうお腹がはち切れそうです。初っ端からハンバーグにプリン、コロッケにパフェ、聞いたこともない店の地元のお菓子…もう体調が悪くなってきました。胸焼けひどい…胃腸薬ほしい…このファッション、腰のクビレを意識してるから、なおさらお腹が詰まって苦しい…
今は、外を歩き巡っているんですけど(今は夏だから、外でロケをするのは撮影側としてもきついっぽいですね。できるだけ日陰多めの所で撮っています。)…どこかしこに広がる食べ物の匂いをかぐだけで、しんどいです。
でも我慢しないと…ここで迷惑かけちゃ、だめなんです…有名になるんだから…これくらいのことで音を上げちゃいけない…
「だ、大丈夫ですか…?Ayanさん?」
私の隣りにいるマネージャーさんがカメラを止めるようにカメラマンさんに指示を出して、優しく声をかけてくれます。そういえばこの人はなんだかんだ勘がいいんだっけ。前も、私が特番だったときに一発ギャグ!っていきなり言い出してよくわからない洒落を言って私の緊張を和らげてくれました。
ありがたいです。本当に今、本気でギリギリですから…まさか、カット無しでぶっ続けでやるとは思ってなかったんです…
「大丈夫よ…でもちょっと服がきついかも…」
「そ、そうですか…じゃあ、ちょっと確認してきます。」
弱いところをできるだけ見せない。些細な言葉一つで足をすくわれる世界だから、言葉選びは慎重にしている。
でも、マネさんは持ち前の勘で、すぐにカメラマンさんに休憩できるか話しかけに行ってくれました。
「では、休憩入りまーす!」
あっという間に話を取り付け、ホッとした私は、近くにあった道の真ん中にあるベンチに腰掛け、一息入れました。道行く人がチラチラとこちらを見てきます。ふふっ。私の存在も少しは認知されてきたでしょうか。
水を霧吹きみたいに飛ばす機械がやっと動き始め、暑い真夏の商店街を冷ましてゆきます。とても涼しくて、あと十分程度で次のロケがあるというのに力が抜けてしまいそうです。
マネージャーさんが、いつの間に冷えたオレンジジュースを持ってきてくれました。
彼も強い日差しで疲れているはずなのに行動が早いです…私もあんなふうに…
グォォォォォォォァァァァァァ…
「ッ?!」
な、何です!?今の…ゾワッとする感覚…気持ち悪い…
《ァァァァァァァァァァアァアkっっぁぁ…!!!》
うめき声…?
キョロキョロと辺りを見渡しますが、私の耳に聞こえるのは、人の喧騒のみ。
まるで、耳のそばで話しかけられているような…
「何…っ?!」
いる。隣に。左に。マネージャーさんが座れるように空けてある、隣に。
数秒前が夏であったことが嘘のように体が冷えて、体がカタカタ震え始めました。初めてテレビに出たときも、ここまで手が震えたことはなかったのに。声もあげられない。目も閉じれない。自分が息をしているのかさえ、感じることができない。ところどころ感じる吐き気。
動くのは首だけ。
首を、ゆっくり左に向けました。錆びついたネジのようにギギギ…と首がなる。それほど、私の首は重かったのです。
《グロァァァァァぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅ…》
目が、あった。
「あ…え…?」
…化物。
いや、そんな表現でこれをまとめちゃいけません。
「あ…あ…」
ドロドロした液体とも、固体ともとれない姿。商店街の屋根よりも大きく、色は、ヘドロのように濁った紫。こころなしか異臭を放っている気がします。いや、放っているでしょう。あまりの醜悪な姿に、感覚が麻痺しているようです。今までつきまとっていた胸やけも、いつの間にか消えているようです。
そんなモノが、隣に座っている。
何もしていませんのに、恐怖の感情が脳を支配してきます。その存在が存在すること自体を、体が拒絶している。ただ…
逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい…
「大丈夫ですか…?Ayanさん…?」
ッ!?マネージャーさん!?なんでこんなとこにいるんですか!?なんでみんな呑気にくつろいでるの!?いや、休憩しようって行ったのは私ですけど…
でもこんな怪物がいるのに、なんで誰も逃げないの!?叫ばないの!?
でも、話しかけられたおかげで金縛りから解けたのか、私はアレから距離を取れました。
声を上げるべきなのでしょうが、喉が張り付いて声が出ません。
私は兎にも角にも逃げようと、席を立った勢いのまま、マネージャーさんの柔らかい手を握って一目散に駆け…
ようとしましたが、何故かマネージャーさんは微動だにせず、私の腕より強い力で引き戻そうとします。
「ち、ちょっと!何してるんです!?早く逃げないと…!!」
「…何を言ってるんですか?何から逃げるんです…?」
「だ、だって…そこに…!」
「そこに…って…?」
ぽかんとした顔をして、逆に問い返された。
「え…?」
おかげで少し冷静になって周りを見る事ができた。
誰もアレのことを見ていない。
この商店街の日常が当たり前のように続いていました。
八百屋さんは、曲がった腰をさすりながら野菜を運び、雑貨屋さんは、外国人らしき人にお会計をしている。花屋さんはお花に水をあげて満足そうにしているし、さっき私達が行った揚げ物屋は、油をはねさせながらメンチカツを作っている。
どうして…?どうして…?見えてないの…?あの姿を???え…???
私は困惑する。私の姿を見て、何やら心配そうな目でこちらを見ている人もいます。すると…
《もぉっっとぉぉぉぉ…》
「ッ?!」
あれが動き始めた。ぐにゃぐにゃとうごめいている。胃の中のものすべてを吐き出したいくらいに気持ちが悪い。一刻も早くここから消え去りたい。でも、さっき思い切り逃げようと、走ろうとした足に力が入らない。
「うごいて…!動いてよ…!!」
「ど、どうしたんですか!?Ayanさん!」
「いや…来ないで!!」
私はそのまま尻もちをついてしまう。かっこ悪いなんて思っている暇がない。私のいつもとは違う姿に困惑しながらも、私の腕を背中から支えて立ち上がらせようとしてくれるマネージャーさん。突然声を上げた私に騒然とする商店街。時折、シャッターの音。
そうしているうちに、だんだんとあれの腕と思われるものが伸びました。と、思ったら…形が変わっていく…
その先にできていたものは…まるで…映画で見たことがある…まさか…
「ピスト…」
パァンッ!!!!!!
ドサッ…
「あ…」
後ろからのしかかる重圧。生暖かい…紅い液体とも固体ともつかないもの。
…まさか…そんな
恐る恐る首を動かすと…
「ッ!?いやああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!」
首が取られた人の死体が私の肩に身を預けていました。血に濡れたその服は間違いなく、さっきまで私のマネージャーだったその人のもの。
あまりに突然な出来事に、周囲はパニックに陥いります。
皆、私の周りから一目散に逃げ始める。各々の悲鳴を上げながら。
私はしばらく彼の死体をぼんやりと見ていました。あまりにショックでした。
人が、死んだ。私の目の前で。あまりに、唐突に。
私の脳はパンク寸前。もう、ぼんやりとしかものを考えられなくなっていました。
どうして…?どうして殺されなきゃ行けなかったの…?彼女は…デビューしたての頃から、ずっと私を支えてきてくれたのに…
初めての番組出演のときには両方とも緊張してひどい顔をしていた。
カフェで、いっぱいガールズトークをした。甘い時間だった。
泊りがけのロケではたくさん遊んだ。年甲斐もなく枕投げもした。
私がPLANET候補だと聞いたときには二人で抱いて泣きあった。
たくさんの思い出が泡のように浮かんでは消える。
「どうして…?」
《グフゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…》
目の前にいるあれは、顔はなかったが…どこか、彼女を殺してにやけているように見えた。それと同時にさっきのどろどろの不定形から形を変え、私より大きい、四足歩行の、トカゲのような形に姿を変えた。
《クラあぉぉぉぉぉぉっァァァァァァ…》
口を開いて嘶く、なにか。迫力が、半端じゃない。映画で見る怪物なんて、比じゃない。
ニチャァと広がる口。私を弄ぶかのように笑顔が作られる。
ドスン…ドスン…
ゆっくり、ゆっくり近づいてくる。
背中が膨れ始める。現れたのは、ロケットランチャー。多分。ハリウッド映画でしか見たことがないから詳細はわからない。口径は直径二十センチあるかといったところだ。
近づいているから気づいたことでもあるけど、このロケットランチャーはホンモノに近い。さっきのピストルもしっかり私の人を殺している。反射した光が、その重厚さを物語っている。
…あぁ、あれで、私は殺される。木っ端微塵になって。もう逃げる気力はない。そもそも逃げれるとは限らない。逃げれない。まだ足腰が抜けている。頭の中も、もう空っぽだ。
ここで死ぬ。
そう思った瞬間、諦めて目をつぶる。力が抜ける。
確実に、殺される。
多分、骨も残らない。
せめてもう少し…ながく生きていたかったなぁ…
せめて、最後は、家族に一言言いたかったなぁ…
せめて、もっと有名になりたかったなぁ…
せめて、マネージャーさんともっと一緒にいたかったなぁ…
せめて、せめて…
「そんなにあるんだったらもっと生きれば?」
《うぎょがァァァァァァっぁァァァあっァっっぁぁ!!!!!!!》
え…?
悲鳴…ともにつかない音が上がる。
恐る恐る、瞑っていた目を開ける。
そこにいたのは。
「チョッパヤでにげな?」
巫女装束をした、可憐な女の子がいた。
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どうも。
ちょっと上手くまとまってない気もするので、この回はちょくちょく書き直していきたいです。
色々諸々、宜しくおねがいします。
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