第33話 時に再会の喜び
「デュラン殿、ヒューグラント王国において痴漢の罪は重いぞ」
僕にさとすように語り掛けたのは、かくいうこの国の王様だった。
昨夜、この国の大浴場の女湯に忍び込んだのは不可抗力というものだ。
しかし僕は今、痴漢の容疑で玉座の間にて審判を受けている。
「王よ、彼が女湯に忍び込んだのには深い訳があるのです」
僕の隣で弁護しているのは魔王だった。
「どのような理由なのだろうか?」
「実は、彼と私は元々付き合っていたのですが」
はぁ?
「彼が他の女性に目移りしていたのを咎めた所、喧嘩となって、思いつめた彼は浴場に居た私の所に謝罪しに来たのです。彼はこうと決めると周りが見えなくなる所がありまして」
苦しい、その弁明は苦しいぞ魔王。
「王よ」
僕を捕らえていた銀髪の騎士モニカが証言するように前に出る。
「デュラン殿が今回女湯に忍び込んだ背景には、私を狙っていたものと思われます」
はぁ?
「恥ずかしながら私は以前から彼に色目を使っておりました。今回の騒動はデュラン殿が私の色香にあてられて、理性のたがが吹っ飛んでしまい、強引に女湯に忍び込んだものと思われます。つまり私にも責任はあります」
いや、僕も男だけどさ? 誤解がすぎるよ。
「と、二人は申しているが、肝心のデュラン殿はどう思っているのだ?」
「何度も言っているように、僕は貴方に面会したあと、誘拐されて」
「デュラン殿、そなたのような強者がやすやすと誘拐されるはずがあるまい」
「地球での僕は一般人の力量なんだよ! なんですよ」
反論すると、王は手で頭を抱え、苦悩している。
「では、デュラン殿には予定通り痴漢罪を適用し、そのあがないとしてしばらくの間、奴隷の身分に落とすものとする。デュラン殿、それから白銀殿の両名はそれでよろしいか?」
よかないわ! 予定通りって言ったな?
恐らく王は僕の今回の失態を、例の計画のための交渉材料にするつもりだな。
「チャールズさんはどこに?」
「チャールズ殿はご実家に帰られた、最後は酷くがっかりした様子だったがな」
そうか……チャールズ氏は後日、顔を見に行くとしよう。
彼を傷つけたことは自覚している、けど、彼もまた僕を傷つけていたのは紛れもないことだった。
「王よ、僕は貴方達の提案を受け入れようと思います」
「ほう、では早速この後で視察団を連れて行って頂けるか?」
「今審判の天秤に掛けられている僕の罪と引き換えに、貴方達の望みを叶えますよ」
と言うと、アイラート王は傍にいた家臣に耳打ちし、僕に居直った。
「視察団のメンバーは数人、私と私の護衛、それから王都の学者が二名同行する」
「はぁ」
結局、こうなるんだな。
まぁキリコやミサキが空島さんの魔手に掛からなかっただけ、よしとするか。
その後、僕は王をともなった視察団を連れ、モニカの部屋に向かう。
モニカは王国の騎士の身分であると同時に、王の孫だったようだ。
素性を明かしたモニカは頬を朱色に染めて見詰めていた。
「隠していたつもりはないのですが、あ、憧れの伝説の大英雄殿を前に中々言い出せなくて」
モニカは王の護衛として、今回の視察団に組み込まれている。
黒髪黒目の日本人の外見からすると、この一行は目立つな。
まぁいい、それよりも僕はようやく日本に帰れるんだ。
日本に帰ったら先ず何をしよう。
臙脂色の焔に寄り、転移する前に使節団に注意した。
「この先はキリコの私室になります、土足厳禁ですのでご注意を」
「問題ない、行ってくれデュラン殿」
アイラート王を中心とし、彼らは僕の背中に指先で触れていた。
その感触を確かめた僕は、最後に付け加える。
「アンドロタイトの人間が転移したことはありません、どうなっても責任は負えませんので、そこもご注意を」
と言うと、モニカが「な!?」と驚いていたが、僕はためらうことなくマーカーに触れる。転移後、王を始めとする使節団は転移先のキリコの部屋をきょろきょろと見渡していた。
「どうやら成功のようですね、では王よ、この後はジーニーの下に案内すれば」
転移は成功してくれたみたいだ。
後は使節団に予め伝えられていた行き先に案内すればいいだけだったのだが。
「……デュラン!」
転移先にはなぜかキリコがいた。
この時間だとキリコは学校に行っているものだと思い込んでいた。
僕は虚を突かれる形でキリコに抱き付かれ、僕もまたキリコの背中に手を回す。
「学校はどうしたんだ?」
「貴方が家に帰ってないって知って、それどころじゃなかった」
日本に帰ると、やはりというか、キリコ達が心配していたようだ。
「心配させてごめん」
そう言うと、彼女は僕の瞳を覗い。
その場に居た他の人達をないがしろにして、僕達は数日の独白を埋めるようにキスをしていた。
キリコとのキスで僕は先日思ったことを確かにした感じだ。
僕は地球で前世の仲間との絆を大切にして生きていきたくて。
彼女とのキスから伝わって来る、幸せな感触は代えがたいものだった。
だから、僕こと佐伯イッサは今最高に幸せな気分の最中にいるようです。
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