第14話 時に人生計画
文化祭で僕は魔王の暴行未遂の疑惑に掛けられて、停学処分になった。
けど、その日家に帰ると僕は文化祭の一週間前に戻っていたんだ。
そのことを教えてくれたのはジーニー。
前世では魔法廃人と言われるぐらい魔法に魅入られていた仲間の一人だった。
僕は状況が呑み込めなくて、先ずタイオウを頼った。
『タイオウ、今日は僕の学校の文化祭だった?』
『大変だよ兄さん、俺、なんか、無限ループに巻き込まれてるみたいなんだけど……』
おお、タイオウもそういう認識なんだ。
『実は僕もその自覚がある、明日あたり落ち合えないか?』
と返信すると、タイオウは承諾してくれた。
タイオウ以外の仲間にも同じような確認を取ると、みんな時間が巻き戻っているという認識だったみたいだ。
「まるで漫画みたいな超展開ですねぇ~」
ジーニーは時間が巻き戻った感覚がないのか漫画を読みながらそう言う。
「とにかく、明日、ジーニーに僕やキリコ以外の仲間の今を見せてあげるよ」
「楽しみですねぇ、それはそうと文化祭のための研究レポートはいいのですか?」
「いいんだ、当日は中嶋教諭がカレーを用意してくれると思うし」
で、いいんだよな?
§ § §
翌日の土曜日、ジーニーを連れて駅ビル広場に向かうと。
「あ、居ましたねぇ、あの大和なでしこがそうなんでしょデュラン」
待ち合わせ場所にはなぜか事の発端にして全ての元凶、疫病神の魔王がいた。
魔王の服装は文化祭の時とは違い、上下ともに白いお召し物だった。
「……」
「デュラン、先日は悪いことをしてしまったようだ」
「な、なんのことかな?」
と、自己防衛のためにあえてとぼければ、ジーニーが僕のほっぺをつまむ。
「カエルのようにひくついてますねぇ~」
「そちらのご婦人は? 恐らく魔法狂人のジーニーだろ?」
「はいはーい、その通りです。貴方の方こそ、誰ですか?」
「…………」
魔王はジーニーから素性を問われると、ろこつに押し黙った。
「デュラン、文化祭の後、私はある声を耳にした」
「ある声? 興味ないんだよお前の戯言には」
「不思議な声は私にこう言った――この状況を脱したくば、デュランのカレーを認めろと」
はあ? はぁ、そうですか。
文化祭の一件もあったし、魔王を邪見にしているが、それを抜きにしても理解不能。今、僕達が無限ループに巻き込まれていることと、文化祭のカレーと何の因果関係があると言うのだ。
魔王は意味不な天啓を僕の耳に入れると、僕の手を取った。
「だからなデュラン、もう一度、アロンダイトに向かえ。そして本物のカレーを私に味合わせてくれないか?」
僕は魔王の手を振りほどき、彼女に怒りをあらわにした。
「ふっざけるな、お前が食べたあのカレーだって立派なカレーだよ」
「残念ながら私はそうは思わない、意見の相違は前世の時から続いているな」
本物のカレーのために、アロンダイトに向かえだって?
C組の真心が籠ったカレーの何が悪いんだ、正すべきは味音痴な魔王の味覚だろ。
「期待しているぞ」
僕に手を振り払われた魔王は踵を返し、構内へと消えて行った。
どうやら魔王と入れ違いでミサキがやって来て。
「貴方がジーニー? 変わってない」
「そういう貴方はイザベルですか? 一瞬でわかりましたぁ~」
「そう? 見掛けは大分違うと思うけど……よかった、貴方も元気そうで」
とそこで、僕はジーニーの裾を引っ張り、ちょっと離れた場所で耳打ちした。
「なんですかぁ?」
「さっきの彼女のことは内緒にしておいてくれ」
「はぁ? ははーん、さてはデュラン、さきほどの女性は元カノですねぇ?」
面倒だし、どう説明していいかわからないからそういうことにしておこう。
して、再びミサキの所に戻ると、彼女は僕を睨んでいた。
「こういうの、印象悪いよイッサ」
「ごめん、でもどうしてもって時ぐらいあるだろ?」
「贖罪を要求します、今この場でキスしなさい」
「ああ、ちゅ、これでいいだろ?」
この間、タイオウにTPOを弁えるよう言われたけど、まぁいいだろう。
その後、待っているとキリコやタイオウもやって来て。
キリコは先日、ジーニーと面通していたから普段と同じ感じだったけど。
今回、彼女と初顔合わせしたタイオウは懐かしむように彼女の手を取っていた。
「俺、感動しちゃった」
「私もです、また会えてうれしいですよ、ローグ」
「俺、感動したよ。生まれ変わったジーニーが、ボン! キュ! ボンでさ」
タイオウぇ……まぁともかく、このビルに入ってる喫茶店にでも行くか。
喫茶店に入り、五人目の仲間との再会から、話題は必然的に残った一人の話になった。
「ジーニーも見つかったし、残るはオズワルドだけだな」
そう言うと、キリコはアイスコーヒーを啜る。
「あたしはデュランの傍に居られれば、ぶっちゃけどうでもいいけどね他は」
キリコの独善的とも取れる言いように、ジーニーは笑うのだ。
「言いますねぇ~、キリコは前世の時もそんな感じで本心からデュランに接していれば、未来はまた違ったんじゃないんでしょうか?」
「そう、前世の時は本当にそれだけが心残りだったの」
「またまたぁ~」
「本当だって! あたしは誰よりもデュランを愛していた自信がある」
キリコが若干声を荒げると、隣に居たミサキが机の下で僕の手を取る。
僕はその手を握り返すと、ミサキは繋いだ手を上に引っ張る。
「でも、現時点でイッサと一番愛し合ってるのは私みたい」
ミサキ、恐ろしい子。
魔王に次いで策士というか、僕は時たま女子を恐ろしく感じる。
「それはそうと、今問題なのは僕達が無限ループに巻き込まれてるってことだろ?」
「兄さんの言う通りだね」
閑話休題と言った感じで、今回集まった本題を切り出すとタイオウが同意する。
「でも問題は他にもあるんじゃない?」
「って言うと?」
しかしタイオウは問題はそればかりじゃないと端を発していた。
「魔王はまだ存在するってことだよ。俺達が相打った魔王とはまた別の魔王がアンドロタイトの平和を脅かしているんだろ? 何のために俺達は転生したのかってみんな考えたことはないの?」
中々に哲学的なことを言うな。
何のために転生したのかか……それも各々女神から恩恵を与えられて。
「兄さん、そしてみんな、俺にみんなの力を貸してくれない? 俺、兄さんがアンドロタイトへの転移できることを知って、人生計画を見直したんだ。目標はざっと四十項目ぐらいあるんだけど、俺は前世の時のようにみんなと協力して過ごしたいんだ」
と、タイオウは勉強ノートを引っ張り出し、中を見せた。そこには赤ペンで縁取りされた『兄さん達と一緒にスローライフ!』というお題がでかでかと記載されている。
「タイオウ」
「何、兄さん」
「僕はお前の人生計画に共感するぞ」
何せ、僕が転生する時に女神に願ったのはアンドロタイトへの転移能力じゃなく。
前世の時に味わった辛苦を癒すための時間が欲しいってことだったのだから。
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