第13話 時にループ
文化祭初日の金曜日、C組のカレーの売れ行きは六十七皿。
残ったカレーはC組のスタッフによって美味しく頂きました。
文化祭初日が終わる頃、中嶋教諭はクラスに顔を出した。
「六十七皿も売れたのか、即席のものにしては上々だな」
「中嶋先生って、学校でも人気高いんですね」
「ん? 唐突になんだ佐伯」
「僕が独自に調査した売り上げの詳細だと、理由の一つが中嶋先生のクラスだからという理由でした。それはこの学校の生徒の間で中嶋先生は慕われている証左だと思います。さらに僕がその詳しい内訳を調査したところ、先生を性的な目で見ている生徒が半分、先生の凛々しい教鞭姿に羨望している生徒が半数を占め、中には先生の私物を売って欲しいとの声も」
「もういい佐伯、先生のライフはゼロだ」
中嶋教諭は僕の分析結果を聞き、死んだ魚の目をしていた。
「分析は大事ですよ? 文化祭は明日もありますし、明日は今日以上の売り上げを出してみせます」
「意気込みはいいがな、どうもお前の言う事は胡散臭い」
う、うさ?
落ち着け佐伯イッサ、ここで反論しようものならまた中嶋教諭を怒らせる。
「とりあえず、明日も僕に任せてください」
「そ、そうか、だが一つだけ言わせて欲しい」
「何ですか?」
「カレーを買いに来たお客さんに、いらんこと聞き出さなくていいからな?」
「そんなんだから人気あるのに婚期を逃してるんじゃないんですか?」
……は!? しまっ――!
「佐伯、そうまで言うのなら、明日、カレーを全部売り切れよ? もしも売れ残りがでたら、その時はお前をカレーの具材にしてやるぞ」
「つ、つまり、中嶋先生は僕を狙って?」
「誰がお前みたいな胡散臭いヤリ〇ンを旦那に欲しがると思うんだ!?」
ヤリ〇ンだと!? ふざけんなし!
と言う訳で翌日――僕は操を懸けて(?)C組のカレーの売り子をすることになった。
文化祭二日目、今日は学校外のお客さんも足を運ぶ。
「カレー売ってまーす、試食も出来ますので是非一度足をお運びくださーい」
と販促せども、午前の早い段階だと客足もまばらだ。しかもお客さんのお目当てはC組の奥手にある仮装喫茶をしているA組のようで、客という客がA組に吸い込まれて行く。
僕も何かしらの仮装でもして、お客さんの意識を惹こうかな……。
そんな風に考え、店の椅子に腰を掛けてケータイを弄っていると。
「デュラン、何をしているのだ?」
「いらっしゃい……って何だ、魔王か」
C組のカレー店に来た今日のお客さん第一号は、先日模試の時に遭遇した魔王だった。女子にしては長身で、端整のある身体は黒いトップスとボトムスで隠すようにしている。
「カレーか?」
「お前には売らない、冷やかしなら帰れよ」
「前世のことは水に流そうと取り決めただろ? 美味しいのかそれ」
「このカレーは、僕のクラスメイトの真心が詰まっているんだ、美味しいに決まってるさ」
「まぁ物は試しに一つ頂こう」
チ、商売とは辛いものだ。何が悲しくて仇敵に恵みを与えなきゃいけない。
「一皿三百五十円になります、はい丁度ですね、ありっした~」
魔王は金を払い、C組のカレーを持って、あろうことか教室内に侵入した。
「おい、通報するぞ」
「もしも本当に通報したら私はお前に犯されそうになったと言及する」
何言ってんだこいつ、さすがは前世で邪知暴虐の限りを尽くした魔王だ。
「真心がどうのこうの言っていたカレーをここで食べさせてもらうぞ」
「何故だ」
「冷める前に食っておきたい」
魔王はそう言うとカレーにそなえられてあったスプーンを手に取り、本当に食べ始めた。果たして魔王の口に僕達の真心は届くのだろうか。表向きは無関心を装えるものの、内心ではドキドキしている。
「美味しいだろ?」
と聞くと。
「……不味いな」
魔王はろこつに眉根をしかめて僕達のカレーを愚弄していた。
「単調な味だし、ご飯も水気が多くて食感が悪い。百点満点中、三十点が関の山だ」
「……やっぱり、お前に人の心はわからない!」
僕は前世を彷彿して、気が付けば魔王の胸ぐらに掴みかかっていた。
そして魔王と前世の雌雄を決するように、ちょっと乱闘していると。
「何やってるんだ佐伯!!」
たまたま様子を見に来た中嶋教諭に、後ろから取り押さえられてしまった。
「離してください先生、僕がこいつをやらないと、誰がやるんですか!」
「ヤるって、お前! いくら美人だからとは言え他校の生徒を襲うな!」
そっちのやるじゃない、ぬっ殺すという意味のやるだ!
僕に突っかかられ、揉みくちゃになった魔王は中嶋教諭の誤解を悟ったかのようで。
「この人からカレーを買おうとしたら、言葉巧みに教室内に連れ込まれて、助けてくださいッ」
「何を言ってるんだ魔王が!」
そして結論から語ろう。
この後、僕は弟のタイオウが予言した通り、停学処分になった。理由は魔王への暴行未遂、魔王は徹底して虚構をでっちあげ、僕を停学に追い込んだのだ。家に帰ると報告を受けていた母さんは泣き崩れ、いたたまれない気持ちで自室に向かうと、ジーニーが今日も僕のベットで漫画を読んでいる。
「日本の漫画は面白いですねぇ~、どうしたんですかデュラン?」
「魔王に嵌められた、あいつはどうにかしないと駄目だ」
「魔王? それって私達と相打ちになったあの魔王ですか?」
魔王という単語を耳にして、ジーニーは漫画を枕元に放り投げる。
そこで僕は彼女に事情を説明した。
「文化祭に魔王がやって来て、僕達のカレーを馬鹿にしたんだ。僕はそれが許せなくて魔王に突っかかったら偶然やって来た先生にその現場を目撃されて、僕は停学処分になった」
「デュラン、一つ聞いていいですか?」
「何?」
「デュランの学校の文化祭は、今日だったんですか? 初耳ですねぇ」
「……ジーニーはタイオウ達と一緒に文化祭に来たんだろ?」
「いいえ、だって文化祭は来週の金曜日と聞かされていましたから」
え?
「誤解してない? 文化祭は今日だし」
なんて風に、ジーニーと共通認識を改めていると、またあの感覚に襲われた。
どこまで行けどもたどり着けない、蜃気楼を追っている謎の感覚に。
ジーニーは僕の机にあった電子カレンダーを指差して。
「誤解じゃないと思いますが?」
電子カレンダーを見ると、何故か先週の金曜日の日付だった。
壊れてるのかな? って最初は思ったんだよ。
けど結論から語れば――どうやら僕の周囲で時間が巻き戻っていたみたいだった。
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