第129話 完全なる終わり
――その日の夜。学校も終わって部活のない日々を過ごし始めた光星高校の3年生達。彼らは、それぞれ家に帰って受験勉強に励んだり、自由な時間を過ごしたりして時間を潰していた。
そんな中、1人だけバスケットを続けている者もいた。光星高校の校舎から少し離れた所の住宅街と町のちょうど栄え目にある公園。そこには、バスケットゴールと大きなコートが設置されていて、誰でも自由に利用する事ができる。
その公園の中でバスケをする男が2人。1人は、金髪に染められた髪の怪我特徴的な身長も高めで少し細身。黒い運動着と赤いラインの入った黒いズボンを履いた扇野原高校男子バスケ部3年、唐菖部航。
もう1人は、ヘアバンドが特徴的で髪の色は黒。背も航と同じ位あるのに対して体つきは、航よりガッチリしている。紺色の運動着に身を包み、下は黒いズボンを履いた光星高校元男子バスケ部3年の白詰想太だった。
2人は、昨日の試合前からずっと続けている1ON1を今日もやっていた。お互いに体にまだ疲れが残っているせいでそこまで激しい動きはできないが、それでもできる限りの事をお互いに尽くして全力でぶつかり合っていた。
――しかし、面白い事にこの1ON1。始まって数分で決着が目に見える展開が続いた。何故ならそれは、さっきから白詰の攻撃が一度も成功しないからだ。
彼は、DFで航の前に立ちふさがって彼の弾ませるボールをジーっと見つめながら思っていた。
――くっそ……。どうしてだ? 昨日は、互角以上に戦えてた。なのに……なんで、今日はこんな……歯が立たない!?
白詰は、既に疲れがたまって息を荒げていた。彼が、自分の汗を服で拭き取る。そして、再び目の前の航に集中。
――しかし、止められない……! 航の攻撃が炸裂。彼は、まず右へドライブをしてくる。だが、これには反応できる白詰。しっかりと彼の走って来るコーナーを塞ぐ。そして、ゴールを守りきれたかと思ったが、しかし……!
航の攻撃はここからが本番だった。
――どう来る!?
白詰が、迷いながらも航の超高速の動きについて来ようと予測を立ててみるも……彼の次の動きなど全く読めない。しかし、そうこうしているうちに……航は既に次の動きを始めていた。
彼の体の動きが、ほんの一瞬だけ停止する。
――ストップから右へチェンジか!?
白詰は、それを察知してすぐに止まった航に詰め寄って来た。しかも、彼の次に行くであろう右側を塞ぎながら……。
しかし、航の動きは白詰の予測の遥か上を行く……。彼は、迫ってきた白詰の事を見て瞬時に状況を把握し、次の動きを決断。
――左が、ガラ空きじゃないか。
航が、心の中でそう告げると彼は瞬時にドリブルで右に切り替えようとしていた手をやめて、そのまま左へ体を向けて発進。一気に突っ込んだ。
「――しまっ!?」
白詰も慌てて右に傾いていた体を左に修正。彼が完全に左へ進行しきる前にもう一度態勢を立て直す。だが、それさえも航にはお見通しだ。なぜなら航が左に進んだのは、白詰を抜くためじゃない。
――ゴールに近づく事と……
「お前の体力を奪う事さ!」
「……!?」
白詰は、目を見開いて反応してみせた。しかし、彼の狙いを知れた所でもう遅かった。次の瞬間、航はドリブルで動かしていた足をもう一度停止。その場に止まって、シュートのモーションを取ろうとして来る。彼が、両手でボールを持つ。
「やらすか……!」
白詰が、そのシュートに食いつく。彼は、全身全霊でシュートを止めるために高くジャンプをする。そして、航が同じく両手を高く上げてシュートを撃とうとしてきたのを完全に止めた……気でいた。
「なんだと――!?」
だが、航は撃っていなかった。彼は、撃つ直前に手段を変えてきたのだ。ボールを一度下げた航は、白詰がまだジャンプをしていて空中にいるこの間に、次なる手段を取ってきた。
なんと、航は下からボウリングをするかのような投げ方でバスケットボールをリングに向かって投げた。当然、飛んでいる最中で何もできない白詰は、その光景に驚いた。
そして、見事に航はシュートを成功させてみせるのであった。ボールがネットを潜って地面にバウンドする。白詰は、それを見て悔しそうに言った。
「……だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! くっそぉぉぉぉぉ! ダメかァァァァァァァァ!」
白詰は、物凄くイライラしていた。彼は、地面に落ちて来ていたボールを拾って強く弾ませていた。すると、その近くで航が白詰のイライラしている姿を見ていた。
不思議な事に航の表情はいつものように笑ってはいなかった。彼は何処か不服そうな顔をしており、満足していない感じだった。彼は心の中で思った。
――昨日の試合。光星との試合……。結果は、引き分けだった。けど、おそらく二回戦進出できるのはうちだ。うちの方が強いし伝統がある。扇野原の敗退はあり得ない。何故なら東京都最強の王者だからだ。……けど、どうしてだろう。最終的な結果では勝てたはずなのに……やはり、引き分けという所でどうしても引っかかってしまう。何なんだこのモヤモヤは……。
すると、そんな航の様子を見ていた白詰が少し心配そうな顔で航の事を見てきた。
「……大丈夫か?」
白詰が、そう尋ねると航は一瞬だけ彼の言葉を無視しようとして、しかしちゃんと目を見て彼に答えた。
「……想太。俺達さ、もうここでバスケするのやめないか?」
「は? なんでだよ……」
白詰が、キョトンとしていると航は答えた。
「……それは、その……何というかさ。お前、もう部活やめたんだろう? だったら、進路とかあるだろうし……だから、バスケなんてしている場合じゃないと思うんだよ」
「うっ、進路……」
白詰は、とても嫌そうな顔を浮かべていた。当然だ。この時期の高校3年生や大学4年生に進路の話なんて毒でしかないのだから……。
白詰は、進路と言われて引き下がろうにも引き下がれなくなってしまった今の状況で……仕方なく頷かざるを得なくなってしまう。
「わっ、分かった……」
「うん。今までありがとう。まぁ、また大学に入ってもお互いバスケしてるだろうし……その時にまたやろうよ! じゃあな」
そう言うと航は、そそくさとその場を去って行った。彼は、いつもの通学鞄を担いで家に向かって夜道を走る……。その後ろ姿を白詰は、ジーっと見ていた。彼が、夜の闇に呑まれるその時まで……。
白詰は、このあまりに唐突な最後に未だに実感が湧いていなかった。彼は、しばらくボーっとしていた。航の姿が完全に消えた今でも……ぼーっと立ち尽くしていた。
――なんだか、これで完全にバスケ終わった感あるなぁ……。
しばらくして、白詰も支度をした。そして、公園のバスケットゴールに向かって一回だけシュートを撃った後に彼は、その場を去った。
「……ありがとうございました!」
一礼して彼は、その場を去るのであった……。
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