第127話 進路面談
――午後の授業を2時間終えると今日の学校は、もう終了だった。天河は帰りの支度を始めて、バッグに荷物を詰めていた。すると、そんな時に彼は1つだけ違和感を覚えた。
「……あれ? 俺のバッシュがない」
天河は、途端に焦り出してバッグの中身を全て机の上に出していき、鞄の中を探し出した。しかし、当然空になった鞄の中からバスケットシューズが出てくるはずなんてなかった。
それから、天河は少しして気づいた。
「……あ。そうか……俺、昨日で部活引退したんだった……」
彼は、大きく溜息をついた後に自分で出してしまった荷物や教科書、ノートをもう一度鞄の中に詰め込んだ。この作業が彼にとっては、とてもめんどくさく感じた。
――なんだか、ダメだなぁ……。帰ったら一度昼寝でもしようかなぁ……。そうしたら、気分が良くなりそうだ……。
天河は、心の中でそんな事を考えていた。そして、荷物を全て詰め終わって教室から出ようとしたその時。彼が、教室のドアに手を置いたのと同じタイミングで後ろから声がかかった。
「あ~こら。天河~……お前、今日は帰っちゃダメだろう?」
「……は?」
彼が、意味分からないと言った様子で背中を向けていた教卓の後ろに立つ担任の小田牧先生の方を向くと、彼女はかったるそうに告げた。
「……今日だったろ? お前の進路面談。ちょっとしたらやるから……。今日は、まだ帰っちゃダメな」
それを言われて、天河は自分が今日予約を入れた事を思い出した。
――光星高校の進路面談は、3年になると4回実施される。1度目と2度目は、生徒と担任の2人だけで行われる。特に1度目の進路面談は、自分がどういう大学だったりを目指しているのか……その確認を担任とやるそう言う意味合いの面談だ。
基本的に偏差値が高いこの学校では、2年の秋頃には自分がどういう進路を進みたいのかについて、ほとんど決まっている事が普通だ。だから、3年に行われる夏休み前と夏休み中に行われる最初の2度の進路面談では、既に決まっている前提の簡単な話しかしない。
ちなみに面談の参加は絶対で、これは担任が自分の生徒達の進行状況を確認して状況によって様々な支援を学校側に要請したりするためでもあるので、進路面談の予約は、全ての生徒が必ずやらねばならないわけだ。
天河もそのルールに基づいて予約を入れたわけだったが……彼自身、自分が進路の予約を入れていた事なんてほとんど覚えちゃいなかった。
――試合で忙しかったし……ずっとバスケの事しか考えてなかったしなぁ……。
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そして、そんなこんなで天河は数十分待った後ついに進路面談を開始した。向かい合うように設置された天河と小田牧の机。担任の小田牧が資料に目を通しながら問いかけた。
「……じゃあ、とりあえずお前は大学で良いんだな?」
その問いかけに天河は、首をたてに振って自信なさげに答えた。
「……えっ、えぇ。まぁ……そうですね…………」
すると、そんな天河の様子に違和感を覚えたのか、一瞬だけ資料から目を離した小田牧。彼女は、少しだけ間を置いた後にもう一度質問をしてみた。
「……ここに書いてある。文学部とか経済学部、法学部ってのは、なんだ? お前がやりたい事なのか?」
すると、天河はギクッと体を震わせて恐る恐ると言った様子で答えた。
「まっ、まぁそうですかね……」
「ふーん……」
小田牧は、再び資料の方を見始めた。そして、自分の前でモジモジと自信なさそうに落ち着きのない様子でいる天河の事をたまに見ながら彼女は言った。
「……お前さ、ぶっちゃけ何も決まってないだろう?」
――ギクッ!?
天河が、隠し事のバレた小学生のように体を震わせて必死の形相で何かを言おうとした。すると、それよりも先に小田牧の方が口を開いた。
「あぁ、良いから良いから。言い訳とかしなくて良い。……別にそういう奴だっていっぱいいるからな……。むしろ、人間として普通だろ? 悩む事なんて……。まぁ、とりあえずこれ以上、面談なんかしてても意味ないから……今日は、これでおしまいな。その代わりに……次の面談の時までに宿題だしとくわ」
「……え?」
天河が、とても嫌そうな顔をしたが、小田牧はそんな事無視して言った。
「……次の面談の時までに自分のやりたい事を見つけてこい。以上だ。……良いな? やりたい事だぞ。分かったな?」
小田牧が、2度もそう言うと天河は返事をした。
「はい!」
そして、その場はとりあえず解散となった…………。
――それから、夕方というにはまだ少し早い時間帯。天河は、大分少なくなった光星高校校舎から門までの道のりをとぼとぼ歩いていた……。彼は、スマホを持ってラインを開いた状態で叫んだ。
「そうは言ってもなぁ~。やりたい事ってなぁ~……」
天河は、愚痴を零しながらもひとまず携帯を見て考え出した。
――絶対、俺以外にもこういう奴いるだろ……。
そして、彼がラインのトーク画面を漁っているとその時、彼はこの場において最も適当な人物を見つけてしまう……!
「白詰! 白詰想太! そうだよ。お前だよ! お前みたいに何も考えて無さそう奴を探してたんだ!」
彼は、早速メールを飛ばした。
――おーい。お前ってさ、進路とか決めた?
天河がメールの後すぐにトーク画面を閉じて変身が返って来る間にゲームでも使用だなんて考えていると、すぐに白詰から返信が来た。
――さわら?
「は……?」
天河は、思わず彼の返信に疑問を隠せないでいた。すると、すぐにもう1通のメールが来た。
――すまん。なんでか分からんけど、くしゃみ出ちゃって……。
――あぁ、全然大丈夫。
天河も返信を返すと白詰とのラインが本格的に始まる。
――進路? 一応、決めてるぞ
――え!?
「マジかよ……!?」
メールを打つのと同じタイミングで天河の口から衝撃の籠った一言が漏れる。
――教えて。
彼が更にラインを打つとしばらくして白詰からラインが返って来る。
――まぁ、大学だな。無難に
――どこの大学?
――何処って、お前……そんなの決まってんだろ?
――?
天河が、少しだけ期待しながら彼の返事を待っていると白詰は答えた。
――平安大学。あの……DーMARCHの。Hだよ。なんたって、女子が多い! 俺はな、この大学に入ったら今度こそモテモテ人生を歩むと決めているのさ! 俺の得意な歴史学を専門で学べるし、得意なバスケもできる! これで、俺はモテモテじゃ~!
「はぁ……期待して損した」
天河は、溜息をついてすぐにラインを閉じた。しかし、それでも考えてみると白詰の方が自分よりもよっぽどよく考えているような気がしてきた。
――同機は、あれだが……自分の得意を生かせる場所を選んでいる所は、流石って感じだな……。
天河は、そんな事を思いながら余計にストレスを抱えてトボトボと学校を出て行こうとした……。
――帰ったら、寝よう。うん……。1回昼寝しよう……。
そう決心して彼が門の外に出てくると、そこで彼はまたしても見知った人間と遭遇するのであった。
「……あれ? 天河じゃないか!」
彼が、前を向いてみるとそこには門の前でバイクを停めている長い髪の男が立っていた。天河は、彼の姿を見るや否や声が漏れた。
「……おっ、紅崎じゃん」
彼らは、昨日ぶりの再開を喜び、また話を始めるのであった……。
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