第126話 走るしかなかった自分
「じゃあな。花車……」
「おう。それじゃあ」
昼休み終了のチャイムが鳴って教室に戻る天河。後、10分程度で次の授業が始まってしまう。急いで自分の教室に向かっている彼だったが……その時だった。彼が、廊下の曲がり角を曲がったその時、偶然天河は前から歩いて来る誰かとぶつかりそうになってしまう。瞬時に体を後ろに逸らしてぶつからないようにはするが、しかし……お互いにバランスを崩しそうになってしまう。
「……あぁ、すまん」
天河が、やっとバランス感覚を取り戻して謝ると同じく目の前にいる男も天河に謝って来た。
「いや、こちらこそ……って、天河?」
天河は、その聞き覚えのある人の声を聴いてキョトンとしていたが、すぐに顔を上げて前を向いてみる。すると、そこには大学の赤本を持って何やら勉強をしている様子の霞草の姿があった。彼らは、お互いに知り合いである事が分かるや否や会話を始めた。
「……おぉ! 霞草。久しぶりだな! って、昨日会ったばっかりだったな……」
天河がそう言うと霞草も苦い顔をして言った。
「あぁ、まぁそうだな。気持ちは分かるよ。その……久しぶりな感じ。昨日の事がまるで夢みたいだ」
霞草は、赤本に指をつっこんで閉じた状態で天河と少しだけ話を始めた。天河が、そんな彼の手に持っている物に興味を持って訪ねてみるのであった……。
「……それって?」
霞草が、メガネをクイっと上げてニッコリ笑いながら答えた。
「……あぁ、受験勉強だよ。俺はさ、家が医者だから。父さんの後を継ぎたいなって考えてて……だから、部活が終わったらすぐにまた始めないとな……って」
霞草が、そう言うと天河はコクコク頷いてボソッと一言だけ呟いた。
「……皆、進むべき道を決めてるんだな」
「どうした……?」
霞草が、天河に尋ねる。彼は、天河の声が小さすぎて彼がどんな事を言ったのか聞こえていなかったのだ。口だけ動かしていたのでとりあえず、天河になんて言ったのかを尋ねてみると、天河は作り笑顔を浮かべて言った。
「なんでもねぇよ……。じゃあな! そろそろ行かないと授業に遅れちまう!」
天河が、通り過ぎて行こうとするのを見て霞草も時計を確認。そして、急ぎだした。
「やっべ! 俺も次は、受験対策の数学IIIだった! 急がねぇと!」
そう言って霞草は、次の授業の教室に向かって走り出したのだった……。天河も彼とは逆の方向に走って行きながら、頭の中で考え事をしていた。
――進路か……。
そうやって彼は、自分の教室に戻って、いつも通り午後の授業を受けるのであった――。
*
――その頃。日本バスケ教会本部では、高校生男子バスケットボールインターハイ運営本部の大人達の話合いが行われようとしていた。
「……これより、インターハイ東京都予選1回戦の光星VS扇野原について。どちらが、2回戦進出にふさわしい学校であるかを決めようと思う」
スーツを着た大人達が、円形になった大きな机を囲むような形で座っている。彼らは、皆真剣な顔をして会議資料を机の上に置いた状態で話し合いを始めるのであった……。
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