第125話 お帰り青春

 ――それから、またいつもの日常が返ってきた。天河達3年生は、昨日のミーティングからバスケ部を引退。打ち上げを終えて、彼らはいつもの平凡な日常に戻っていた。いつもの時間に起きて、朝食をとって歯を磨き、身支度を済ませて学校へ行く。教室に着いたらクラスメイト数名と話をして、少ししたら学活が始まって、そして授業に行き……それを4時間終わらせたら、お昼ご飯休憩。いつも通り、天河は花車とラインのやりとりをして、昼食場所を決める。そして、結局いつもの屋上で彼らはご飯を食べるのであった。屋上の壁に寄っかかりながら天河は、花車と購買で買ったパンをかじる。


 いつものように彼は、花車と話をしていた。


「……それでよ、この選手が凄いんだよ。まずな……」



 彼は、相変わらずNBAの話を花車としていた。しかし、天河がそんな事しか言わないので花車も少しだけ溜息をついて彼に言った。



「……おいおい天河。いつまでもそんな話ばかりしてちゃまずいぜ?」




 天河は、最初だけキョトンとした顔で花車の事を見つめた。すると、少しして花車は、言った。



「……俺達、とうとうバスケ部を引退しちまったんだ。そろそろ、そう言うバスケの話だけじゃなくてさ。いや、それも良いんだけどさ……その、お前は大学とかどうすんの?」



 彼は、なんだかいつもと少し違った様子だった。とても焦っているような難しい顔をしていて、その瞳の中には不安が見える。天河は、そんないつもと少し違う様子の花車を見つつ、自分の顎に手を置いて考え出した。




「……大学か~。どうするかなぁ。そう言えば、今まで全然そんなの考えてこなかったなぁ。……お前、志望校とか決めたか?」



 花車は、微妙な顔をしたままコクコクと頷いて言った。



「……一応。決めてはあるよ。……ただ、受験方法をどうしようかなぁって……」


「受験方法?」



 天河が、彼の言った事に疑問を抱いてキョトンとした顔で花車の事を見ていると彼は、またしても「うん」と言って頷き、そして答えた。



「……実は、指定校推薦が貰えそうでな。ただ、それだと第一志望の学校には行けるんだが……希望する学科には行けないんだ」



「ほぉ……お前の希望する学科というのは?」


 花車は言った。




「理学部の化学学科に入りたくてさ……。でも、指定校だと理学部にはいけるんだけど、生物しかなくて……。どうしよっかなぁって思っててな」





「……そっ、そうか」



 天河は、この時少しだけ驚いていた。昨日まで一緒に試合に向けて頑張っていた仲間の花車の口からこんなに真面目な話を聞く事になるなんて思ってもみなかったのだ。彼にとって、この高校三年間という時間はただひたすらにバスケ部の練習を頑張る日々だったのだ。いつかきっと仲間達が戻って来る。そう信じて突き進んだ道は、間違ってはいなかった。だが、彼にとっての三年間はこれしかなかったのだ。他の事なんてほとんど考えちゃいなかった。



 ――進路かぁ~……。なんも考えてねぇ……。大学なんて、何も知らねぇな。俺……。




 天河は、ここでようやく自分が今とんでもない状況に置かれているという事をうっすら勘づき始めたのだった。そして、ぼんやりと外を眺めながら彼は心の中で呟いた。


 そして、ボーっと青い空を見渡すのであった……。

























 ――はぁ、試合がしたいなぁ。なんか、退屈だ…………。



 彼は、そう思いながら屋上で焼きそばパンをかじるが、そのパンの中には焼きそばがもう入っていなかった。天河が自分で先に全部食べてしまっていたのだ……。気づいた天河は、溜息をついてその中身のない空洞の焼きそばパンを一気に食べ尽くしたのだった……。

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