青春再来編
第124話 別れは、始まりを意味するもの
──それから、しばらくして本格的に東京体育館の建物の明かりが暗くなってきた頃。時間は、8時。すっかり暗くなってしまった夜の東京体育館前に光星高校の生徒達を含めた数人が集まって来ていた。彼らは、ちょうど今になってミーティングを開始し始めた所らしく、暗い夜空の下で部員達と向日葵、新花、小田牧のいる前で6人の3年生の選手達がずらっと並んで、真剣な顔をしたまま立っていた。彼らの真ん中に立つボサボサ頭が特徴的な背の小さい男。天河が少しだけ大きめの声で話を始めた。
「……と言うわけで、俺達は今日をもって引退する。今までありがとう。部活に全然来なかった奴とかもいるけど、でもその……俺達、全員に共通して言える事は、最後に挑戦できてよかった。……それだけだ」
「キャプテン……」
下級生の1人。白波が、瞳をうるうるさせて感動した様子で天河の事を見ていた。すると、彼は言った。
「……泣くなよ白波。お前には次の部長になって貰うんだからな! バスケ部をよろしく頼んだぜ!」
「せぇんぱぁい……!」
白波は、もう我慢できなかった。彼は天河の前で大粒の涙を流して、崩れ落ちた。天河は、そんな彼の元に駆け寄り、しゃがんで後ろから背中を撫でてあげながら言った。
「だから泣くなって。大丈夫だって。俺達とこれから二度と会えない訳じゃないんだから。……な? 泣くなよ……白波」
しかし、白波は天河の言葉なんて冷静に聞ける状況じゃなかった。彼は言った。
「……先輩! 俺、感動したよ! 先輩が……皆だんが試合してる所を見て、感動しちまった! あんな試合、俺達にはできないよ! 俺達、先輩達みたいに凄くないんだ。練習だって、つい最近までサボってた。キャプテンが悩んでる事なんて知らずに……俺。俺……自分さえ良けりゃ良いと思ってたんだ。こんな奴が先輩の次のキャプテンなんて無理だ! 先輩行かないでくれよ! 今日の試合だって同点だったですよ! まだどっちが2回戦出れるかなんて分からないじゃないですか……。もう少し、もう少しだけで良い! 先輩ともう一度バスケしたいよ……」
白波は本当に大号泣。そんな彼の涙を見て貰い涙した白詰や霞草、花車は自分の目を拭き始める。やがて、狩生や紅崎も泣き出し、周りが悲しみで満ち出すと、しゃがんだまま背中を摩ってあげていた天河も目に涙を浮かべながら白波に告げた。
「……泣くなって。もう高校生だろ? そんな簡単に涙流すのはずるい奴のする事だぜ? それにそんな小学生みたいな事言うなよ。分かってる。お前や他の下級生達が真面目にやってなかった事なんて……。でもそれは俺達だって一緒だぜ? 俺やコイツらだって、お前らと同じようにサボってたんだ。後悔はある。でも、別れってのは来ちまうもんなんだ。後悔を置いてスパッと別れられるからこそ人は前を向けるんだ。お前にはまだ未来がある。俺達は皆、応援してるぜ。俺達みたいにならなくて良い。だから、お前らはお前らなりに良いチームになれよ……」
「先輩……」
更に天河は続けた。
「それに、2回戦進出を決めるにあたって過去の成績や両校の全体的な実力レベルが見られるらしい。小田牧先生がそう言ってたんだがな……」
天河は、小田牧と目を合わせてコクっと頷き合うとそのまま話を続けた。
「……どうやら2回戦進出は大方、扇野原で決まりみたいだ。まぁ、明らかに力の差が圧倒的だからな。俺達があそこまでできたのもマグレさ」
「そんな……マグレなんかじゃ……」
白波は、涙を必死に抑えようとした。何度も何度も何度も堪えて涙を止めようとした……。だが、それでもまだ自分だけの力じゃ彼は笑えない。それを察知した天河が、優しい笑みを浮かべた後に言った。
「さっ、ここからはお前がキャプテンだ。この後の指示をお願いするぜ白波キャプテン」
天河がそう言うと、白波は深呼吸を二度繰り返し、心を落ち着かせる。そして下を向いていた顔を上げて、天河の方を向いて言った。
「……とりあえず、解散したら皆で打ち上げ行きましょう」
それを聞いた天河はにっこり笑って言った。
「そう来なくっちゃ」
……こうして、光星高校男子バスケ部3年生の代は一旦引退となった。勿論、2回戦進出に関する詳細が出ない限り完全には分からないが、しかし顧問という立場から大会の運営とも少し繋がりのある小田牧の情報通り、光星が2回戦へ進出する可能性は残念ながらほぼなかった。彼らはミーティングを終えるとすぐに近くのファミレスを探して、そこで盛大に最後の宴を開いた。
「「「「「乾杯! お疲れ様!」」」」」
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