第122話 最初で最後

 そこからの攻防は、選手達の感覚的にあっという間だった。光星も扇野原もお互いに攻めて、守って……シュートを撃って、止めて……を何度も繰り返し続けた。しかし、お互いに体力の限界もあってか得点は、両者128VS128のまま長い事止まっており、そこから点数がお互いに入る事は、なかった。しかし、残り時間48秒。ようやく、扇野原がもう一度逆転。2点差をつけた。試合は、もうそろそろ終わる。選手達もそれは、勿論理解していた。だからこそ、光星は獲られた2点を絶対に獲り返そうと、攻撃を始める。





「一本だ! 一本取るぞ!」



 天河は、ドリブルをして一気にフロントコートへまで駆け上がった。残り時間43秒。単純に考えれば、お互いに攻撃してこの試合は、終わる。そうなれば、不利になるのはやはり光星だった。なぜなら、バスケにおいて守る事よりも攻める事の方が有利だからだ。もしも、光星が今の攻撃に24秒というOF時間をフルに使ってじっくり攻めたりでもしたら、それこそ後できつくなるのは自分達だ。だからこそ、光星選手達は全員最後の力を振り絞って走りまくった。……もう、息はキレキレ。彼らの口はカラカラに乾いており、ヒューヒューと甲高い声も聞こえてくる。だが、それでも彼らは自分達が疲れて動けなくなっているのをグッと堪えて、走り続けた。そして……。





「行くぞぉぉぉぉ!」


 天河の掛け声から選手達は、全員目を合わせる。それを確認した天河は、一気に超スピードで金華を抜きに行こうと、ドライブを炸裂させる。そのスピードは、この試合中一番。最高のキレを天河は、最後の最後に披露した。




 だが、そんな彼の超速ドライブに金華は、ついて来た。ここへ来て、天河は少しだけ驚いた。そう、金華はこれまで自分よりも身体能力に恵まれていない選手だと思っていた。しかし、実際は違った。彼は、天河と同じ位の素早さを隠し持っていたのだ。





 ――コイツ……ここぞとばかりに……!




 内心うまいと思った天河だったが、しかし彼の作戦の本領はこの後に発揮される。金華が天河のドリブルに追いつき、他の扇野原選手達が天河の元へと集まって来て、彼のドリブルを潰しにかかろうとしたその瞬間――!




「紅崎ィィィィ!」



 天河は、ドリブルで低い姿勢を保ったまま素早くドリブルをしていながら、金華が追い付くと分かってすぐに自分の後ろに向かって不可視ノールックパスをかました。ボールが、天河から紅崎へ移る。彼は、パスを受け取るとすぐにそのままシュート態勢に入り、3Pシュートを狙いに行く。彼のDFをしている百合は、天河の元へといってしまっていて、紅崎はほぼフリーの状態。紅崎がジャンプしてシュートを撃とうと手を額の上にあげる。







 しかし、やはりその時だった――。紅崎の撃とうとしていたそのシュート態勢中に天河の元へ向かっていたはずの百合が追い付いて来ていた。




「……ちっ!」



 百合は、舌打ちをする紅崎を見て一言だけ笑って心の中で思うのだった。




 ――お前は、一番撃たせちゃダメに決まってんだろ!






 百合が、紅崎のシュートを撃とうとするその手に向かってブロックを叩き込もうと右手を高く伸ばす。会場の誰もが、紅崎の3Pは止められる。そう思っていたその時、紅崎の視界に1人の男が映る。彼は、咄嗟にシュートを撃つのをやめて、その男にパスを裁いた。





「……霞草ァァァ!」



 紅崎からパスを受けた霞草は、ボールを持つ直前にコート上をパパっと見渡した。その際に彼は、タイマーも見ておいた。






 ――OF時間残り8秒。以外と時間を食われちまった……!




 霞草は、自分の元にDFの種花が近づいて来ているのを瞬時に把握して、そしてあらかじめ見つけて置いた味方に向かって彼は、ボールを受け取るや否やパスを出した。





「狩生ゥゥゥゥゥ!」




 狩生は、ゴールに最も近い所でボールを貰った。この時、既に光星のOFタイムリミットは、6秒。彼は、慌てた様子で後ろにDFの鳥海がしっかり構えているにも関わらず、体を正面へ向けるようなロールターンをクルっとすると、すぐにシュートを撃とうとした。


 だが、そんな彼のシュートは、さっきまでゴールがしっかりと見ていて入ると確信できていたのから一転。彼の目の前に鳥海という大男が現れて、狩生の狙っていたゴールを完全に隠してしまう。これでは、狩生のシュートは入らない……!





「終わりだァァァァァァァァァァ!」



 鳥海が、そう言うとそれに対して狩生はジャンプした状態でボールを自分の額の上で構えてシュートを撃とうとしているその絶体絶命の態勢で叫んだ。




「……まだだっ!」


 狩生は、ボールを自分のほぼ真上に投げた。そのあまりに不可解なシュート(?)に鳥海は一瞬固まる。無理やりやけくそになって撃ったのかとも思ったが、しかし違う。鳥海は、この試合中に何度も狩生のテクニックプレイにしてやられているのだ。だからこそ、扇野原の選手達の中でも誰よりも先にこの事態を察知した。





 ――これは……まさか!?





 狩生は、ボールを投げるや否や叫ぶ。




「行けェェェェェェェェェェェェ! 白詰ェェェェェェェェェェェ!」



 刹那、ゴールの下まで走って来ていた白詰が扇野原のDFをかきわけて、狩生の放ったボールを空中で片手で掴む!





 ――3。





 そして、彼はボールを掴んだ事を目でも確認するとすぐにバスケットゴールを睨みつけた。






 ――2。







 そして、睨みつけたそのリング目掛けて白詰は、自分の持ったそのボールを思いっきり強く叩きつけた……!






 ――1。
















 バスケットゴールが、揺れる。大きく揺れる。それと共にOFタイムリミットも0となる。しかし、審判が2本指を思いっきり下へ振った事で光星のアリウープは見事成功する。これで、再び同点だ。しかし、喜んでいる暇なんかない。天河は言った。




「時間は……!?」



 見ると、試合時間は残り24秒。扇野原の攻撃がちょうど後、一回分残った状態だった。




 天河は、自分も走りながら仲間達に向かって叫んだ。





「DFだァァァァァァァァァァァァ! 戻れェェェェェェェェェェェェェ! 最後だぞ! 全てを賭けろよ! お前らァァァァァァァ!」





「「おぉ!」」








       扇野原VS光星

    ファイナルラウンド残り24秒 

         得点

        130VS130

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