第119話 歴史が変わるその瞬間

「試合終了!」


 ブザーが鳴り、選手達がベンチに戻って行く。両チームともとんでもない疲労が見える。その半分フラフラしかけた様子からホラー映画のゾンビを連想しそうだ。インターハイ予選一回戦光星VS扇野原の試合は、延長戦に突入。そして、これが前代未聞の結果に繋がっていった……。試合開始から本来なら40分程度で終わるはずのその試合は、1時間以上たった今でも終わっていない。


 彼らは、今さっきやっと5度目の延長戦を終えた所なのだ。そして、その結果は……やはり同点。扇野原がどれだけ色々な事をしても、そのたびに光星が何度も立ち上がり、そして何度も何度も離した点差を戻される。扇野原選手達としてはたまったもんじゃなかった。



 5度目の延長戦も扇野原最強のシューター百合による4点プレイによって完全に点差を離せたと思った。そのはずなのに……光星も、それに対抗して4点プレイで返してくる。そして、その後も結局どちらも点を獲れず、試合は終了。延長戦までQクォーターと名付けるのなら、もう第9Q。こんなに接戦はプロの試合でごく稀に見る程度。それこそ、NBAの伝説の試合――1950-51シーズンのインディアナ・ペイサーズ対ロチェスター・ロイヤルズの試合がまさにこれだ。日本の高校男子バスケの世界では、当然こんな試合はあり得ない。大会の運営は、この前代未聞の事態を密かに審議していた。このままでは、大会の予定終了時刻を大幅に超えてしまう。そうなれば、明日以降の試合にも影響が出てしまうかもしれない……。インターハイは、1回戦と2回戦の試合は、数が多いので何日かに分けるのが通例だ。明日以降の2回戦Aブロック戦の運営がインターハイ運営にとって心配でしょうがなかった。


 そして、様々な審議の末に彼らはついにこの6度目の延長戦が開始される直前、選手達がベンチに戻ったこのタイミングでアナウンスを使って宣言した。







「お集りの皆さん、こんばんは。インターハイ大会運営の飯島と申します。本日の最終戦である光星学園高校様VS扇野原学院大学付属高校様の試合は、予想外の選手の皆さんの頑張りによって、お越し頂いた皆様を大変楽しませてくれた事と思います。しかし、このまま延長戦が続いてしまうのはこちらとしても明日以降の2回戦の試合運営に影響を及ぼすやもしれませんので、次の延長戦を今日の最後と致します。次の試合に勝った方が、明日以降の2回戦に進出するチャンスを掴めますので、選手の皆さんは最後の力を振り絞って頑張ってください。観客の皆様も、どうか最後まで応援の方をよろしくお願いします!」







 チャイムと共にアナウンスは終わった。両チームのベンチでは、今の状況に驚いている者は1人もいなかった。皆、思ったよりも冷静だった。いや、というよりもこの重大さに気づいていないのかもしれない。


 しかし、もしそうなんだとしても彼らは……光星の選手達は今この時、高校バスケ界に……いや、ひいては日本のバスケ界に強烈な歴史的偉業を成し遂げたのだ。


 この試合の……このアナウンスがどれだけ凄いものか彼らはまだ知らないのかもしれないが、それでも光星の選手達は今、自分達の力で世界を動かしたのだ。……皆が自分達の事を散々クズと罵って来たこの世界を……たった5人で変え。その瞬間でもあったのだ。












 だがまだ、完全に変わったわけではない。これが、完全に変わるのはこの後の彼らの活躍しだいだ。ラスト5分の延長戦サドンデスマッチ。これで、全てが終わる。
































次回『サドンデスマッチ』最終章突入――。










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