第116話 タイムアップ……
──熾烈な点の取り合いをしていた光星と扇野原。彼らの戦いはまさに矛と矛のぶつかり合い。だが、そんな激しい戦いを繰り広げていればいつしか限界を迎えるものである。試合時間残り1分を切った時、彼ら10人の動きが一気に鈍くなっていった。それまで点を取り合っていた両者だったが、次の扇野原の攻撃を光星が止めたこの辺りから両者の雲行きは怪しくなった。両者は、残り1分の間、点の取り合いから点の止め合いになっていった。そうして、15秒をきったこのタイミングで光星側は最後の意地を見せてきた。
「だあらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
金華の落としたシュートを霞草がリバウンドで獲ったのだ。これにより、光星の最後の攻撃が開始される……! 残り時間13秒……。同点という数字をここでひっくり返さないと試合は終わらない。選手達は一斉に走り出した。
「走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ボールを獲った霞草がそう言うと、他の光星メンバーは走りだす。
「止めろぉ! 絶対にここは入れさせちゃいかん!」
扇野原監督の冬木も必死にそう叫んだ。その直後に霞草は天河へパス。一気に5人はフロントコートへと上がっていく。それを追いかける形で扇野原が。全員が大レースを始めたように走る…走る。体にこびりついた汗が、足が地面につくたびに振り落とされ、バッシュの甲高い音が彼らの耳を打つ。もう全員、息はキレキレだ。だが、試合が終わるその時まで彼らは誰1人として諦めたりしなかった。
――残り時間は……?
天河が、チラッとだけタイマーを見て時間を確認する。既に10秒を切っている。一桁に切り替わっていた所だった。彼は、より速く走ろうとドリブルのスピードを速める。この残り時間を考えて、ここは速攻で点を取りに行く。そして、残り時間数秒をオールコートのマンツーマンで一気にかたをつける。それが、この残り数秒間に彼が思い描いた彼の試合シナリオだった。
そして、ついに天河はシナリオ通りにゴールの近くへまでやって来ると早速ボールを持ってレイアップシュートを撃とうと1歩……2歩とステップを踏み、ボールをリングへ置いて来る感覚でシュートをする。
しようとしたその時。直後に、天河の放ったボールが、バスケットゴールのバックボードにぶつけられてしまう……! それは、決して彼が自分でそういうシュートを放ったわけではなかった。違う。天河が、顔を少しだけ後ろに向けて見ると、なんとそこには彼の放ったレイアップシュートを後ろからブロックした男が存在していた。
その選手は、白いユニフォームに大きく「扇野原」と書かれており、その下に巨大な数字が印刷されていた。「5番」
――残り、5秒……!
監督は、そんな中でタイマーに目をやり、自分達の勝利を確信する。
――
扇野原監督が、勝ちを確信した顔でそんな事を思っていると……その時だった! 前方からボール目掛けて1人の選手が飛び込むようにして走って来る……!
「なんだと……!?」
扇野原の監督、冬木はその男の存在に驚いた。なぜならそれは……もう、既にタウ威力なんてこれっぽちも残っていないはずの男――紅崎だったからだ。彼は、本当に死んでしまうんじゃないかというくらい必死な顔でボールを掴むと、そのままシュートを撃とうとする。――この時、残り時間は3.5秒。紅崎は、シュートを撃つためにジャンプする。そして、最後の力を振り絞ってシュートを投げようとする……。
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
そんな彼のシュートを全力で止めよとベンチで冬木は、叫ぶ。当然だ。この3Pが入ってしまえば、その瞬間に自分達の負けとなるのだから……絶対に撃たせてはいけないのだ。そして、紅崎がボールから手を離そうとしたその時……!
「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
扇野原監督の願いが届いたかのように紅崎の後を追ってやって来ていたDFの百合が紅崎のシュートを止めるべくギリギリのタイミングでジャンプして手を伸ばす。
そんな全身全霊のDFが炸裂している中、紅崎はシュートを撃つ。
――入った……!
彼は、確信した。シュートを撃った左手の感覚からして間違いなかった。行ける! とそう確信できたのだ。だからこそ、彼はシュートの後に少しだけ笑いが漏れてしまった。
――ガコンッ……!
だが、この衝撃的な音が再び体育館に不安を呼んだ。紅崎が勝利を確信したそのシュートは、なんと後一歩の所で届かなかったのだ。リングの手前でボールが弾かれて、そのボールが空中を舞い、そしてフロアに落ちてこようとする。――残り時間は、2.2秒。光星は、3Pが外れた事に対して最早、ショックを示したりする時間なんてなかった。
「リバウンドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
花車の声が、コートで戦っている自分達の方にも聞えてくる。そして、それに答えようとすべく、ちょうどゴールの下へまで戻って来ていた狩生と霞草、そして種花と鳥海の4人のビッグマン、そして航と白詰という2人のエースが本気で飛び上がり、熾烈なリバウンド争いを始める。ボールは、1つ。彼らの真ん中にゆっくりと落ちてくる。ビッグマンとエース達は、それを求めて何処までも手を伸ばし続ける……。
――と、そこで2人の人間の手がボールに触れた。1人は、右側。光星サイドの観客席がある方にいる霞草。もう1人は、左側。扇野原サイドの観客席がある方にいる種花。両者は、手をバスケットボールにぶつけ合わせながら俺が獲るのだ! いや、俺だと力と根性と気持ちの戦いを空中で繰り広げる……。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「であぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
・
・
――0。
ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ! と笛の音が体育館中に鳴り響く。審判のホイッスルとタイマーから出るブザーの音が合わさって会場全体に超大きな音が作り出されてそれが、反響して響き渡る。審判が笛を口から吐き出して言った。
「試合終了!」
着地した霞草と種花の2人は、キョトンとしていた。そして、それは他の選手達も同じで全員がその場でキョトンとしていた。ベンチにいる他の人々も皆「え?」と疑問を口にしながらポカンとしており、会場もこれにはざわつきだしていた。
スコアには、デカデカと……
扇野原VS光星
第4Q終了
得点
115VS115
と、表示されている。なんだなんだと、また1人観客はざわつきだす。……そんな混沌としつつあった中に、突如として体育館に一本のアナウンスがチャイムと共に鳴り出した。
アナウンサーが、告げた。
「……本日、インターハイ東京都予選にお越しいただきました皆様、こんにちは。大会運営の者です。本日最後の試合となったこちらの光星高校様VS扇野原高校様の試合は、同点となってしまいましたので、大会のルールとして……
そして、次の瞬間にタイマーを操作するTOの男の1人が、立ち上がって高々に宣言した。
「
こうして、コート上のあちこちに散り散りとなっていた選手達は、一度自分達のベンチに戻ったのだった……。
扇野原VS光星
第4Q終了
得点
115VS115
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