第70話 ゴール下の守護神
「……下さいな!」
ゴール下で豪快にパワーを使って
鳥海は、まるで本当の巨人族のように彼の前に立ちはだかる。鳥海の鍛え抜かれた太くてゴツイハンマーのような巨腕と、重そうでチェーンアレイでも巻き付けているのではないかという位の大きな巨足。コート上最長の身長。……どれをとっても凄すぎるその姿にちょっとばかり見とれてしまいそうになる。
鳥海が、そんな狩生に向かって見下ろすように言った。
「……あぁ、そこにいたの。全く、気づきませんでしたね」
鳥海は、それだけ言うと狩生の事を起こしてもあげずにさっさと走り出してしまう。
――すっ、すげぇ……。
狩生も、そんな走って行くと理解の後姿を見て彼に尊敬のような眼差しを向ける。
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光星の攻撃。天河が、コートの半分までボールを運んで来るが、そこでもやはりさっきと同じように前から2人がやってく来て……。
「また、金華と種花のWチームだ!」
「……ちっ!」
天河は、彼らが完全に自分に寄り切る前にパスを裁く。
「狩生!」
そのパスは、見事狩生へ渡る。金華と種花の2人は、虚を突かれて驚いた表情をし、視線を天河から狩生へと移す。だが、狩生へと視線がうつると途端に彼らの不安そうな顔から少しだけ「不安」が消えて行く。……なぜならそれは、狩生の後ろに立つ男がゴールを守護しているからだ。
――
「……くそっ!」
狩生は、なんとか白詰へパスする
「……!?」
なんと、さっきドリブルで抜いたはずの鳥海が、狩生のシュートを止めるために走って来ていたのだ。
――なんて、対応の速さだよ!? いくらなんでも、速過ぎるだろ!
鳥海最大の武器は、その圧倒的パワーだけではない。鍛え抜かれた足腰から繰り出される予想外のスピードと長い足によってバスケットのゴール下、特に台形で囲われたライン内であれば、通常の選手よりも速く次の動きに後出しで反応できるDFにおける粘り強さ……。これこそが、かれを全国で「扇野原の守護神」と言わしめる強さなのだ。
――いやだが……!
天河は、遠くから狩生のプレイを見ていた。その視線の先では、鳥海が狩生の動きに後から追いついて、シュートをブロックしようとしている所が見えていた。しかし、それでも狩生の技術力と中学の頃に培われた状況判断力は、鳥海のスピードを超えようとしていた。
「……さすが狩生! うまい!」
光星側の観客席からも大学生達の声が聞こえてくる。扇野原サイドのベンチに座る新花も彼のこのプレイには、驚いた様子でガタッと音を立ててパイプ席から立ち上がっていた。
狩生は、後ろに飛んでいた。それも通常のシュートよりはるかに後ろに……。
「
敵チームながら航も狩生のプレイを誉めていた。しかし、褒め終えた所で航の表情は、一気に変化する。彼は、いやらしい笑みをみせてから言った。
「……けど、それじゃあ鳥海には敵わない」
その時だった。前から狩生のシュートをとめに飛び掛かって来た鳥海のジャンプがさっきまでより更に高くなった。どんどん高くなる彼のジャンプが、後ろに跳んで通常よりも、より高くなっているはずの狩生のシュートを捉えた。
「なんだと……!?」
狩生のシュートがまたしてもブロックされたのだ。それも綺麗にバレーボールのアタックのように、バスケットボールが弾かれる。ここまでの様子を見て、後ろに立っていた紅崎は思っていた。
――あれは、狩生の得意技。フェイダウェイで、相手のブロックをすり抜けて決めるのは、中学時代でもよくやっていた技。それを、あの
ブロックされてコートに転がり落ちたボールは、すかさず航が手に取る。そして、速攻を仕掛けようと手を大きく振り上げて大きなロングパスの構えを取る。
「行くぞ! 速攻!」
「しまった! 戻れ!」
しかし、天河の切り替えも早かった。彼は、扇野原がすぐに仕掛けてくる事を予期していたので、仲間達にすぐ伝える事ができ、結果的に天河と紅崎、白詰の3人だけでも自分達のゴールに戻れる事ができた。
――よしっ! なんとかこれで、速攻は防げた。もう一回、ここで止めて立て直せば……。
天河は、そんな事を考えながら前から戻って行く残りのメンバー、霞草と狩生が来るのを待った。すると、航からのロングパスを受け取って走って来た金華が、光星の5人の様子を見て、無表情のまま誰もいない所へ急にパスをしだした。
「……なっ!? この状況でパスミス?」
天河は、驚いてその投げられたボールを取りに行こうと近づいて行くが、しかしそれは違った……。
――ガシッ! と音をたてて反対側のゴールから走って来た巨大な男。鳥海が金華からパスを受ける。
「……なっ!? その位置で? 何を? ……」
狩生は、疑問に満ちた表情でその光景を見ていた。そしてゴール下にがっしりと構えるが、しかし鳥海は狩生にとって予想外の事をしだす。
……なんと、彼は突然3Pラインの外側でシュートを撃ちだしたのだ。
「なっ!?」
しかも、そのシュートはとても綺麗なループを描いて綺麗にゴールの中へと入ってしまう。審判のカウントの笛が鳴り出す。扇野原のスコアボードに3点が入る。……それは、普通ならなかなか見ない光景だった……。光星の選手達は、皆この光景に絶望的な顔をして、しばらくゴールを眺めていた。
……すると、そんな意味の分からないといった顔をしている白詰の元に航がやって来て言った。
「うちの
「何……?」
白詰は、航を睨んだが航は冷静な声音で告げた。
「……覚えておきな。うちの
扇野原VS光星
第2Q残り8分58秒
得点
25VS18
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