第69話 第2Q開始!

 波乱の第1Qが終了した。会場は今、この試合の熱気に圧倒されて選手達がその場にいないにも関わらず、ガヤガヤとうるささを増していくだけだった……。だが、そんな会場の様子も試合前に比べれば、少し変わっていた。あの頃の扇野原一色だった声援が、どよめいていた。客の1人がボソッと呟く。


「……光星って、一体何者なんだ……。特にあの4番……」


 彼らの中で、僅かにだが印象が変わりつつあったのだった……。
















        *


 その頃、扇野原ベンチでは冬木監督の指示の下、ある事が告げられた。


「……第2Q、インサイドを中心に攻めるぞ。鳥海……いいな?」


 監督が、そう言うとちょうど第2Q開始のブザーが鳴り出す。両校の選手達は、次々とコートに戻って行く。







 最初の攻撃は、光星だった。


「うおおおぉぉぉぉ! いけぇ4番!」


 光星サイドの観客席、不良達の熱烈な応援が天河の耳にも入って来る。彼は、ボールをもらってドリブルでハーフコートまで運んでいく。そして、さっきと同じようなバスケを始めようとした瞬間、彼の視界は塞がれる。


「……なっ!?」


「天河に、ダブルチームだと!?」


 ベンチにいた花車までその光景に叫んで驚いた……。これは、扇野原が第1Qでの天河の活躍を見て彼を特に最警戒重要人物であると認識した証拠でもあった。しかも……。


「ダブルチームに来ているのが、金華と……PFパワーフォワードの種花だと!?」


 花車は、驚くのともう1つ。嫌な予感が体からした。――PFパワーフォワードというポジションは、チームの中でCセンターに続くビッグマンの事を基本的には指し、Cと共にゴール下を支える役割を持つ。

 

 通常、バスケットはゴールに近くなればなるほど、シュートの成功率が上がるため、バスケにとってリバウンドをはじめとするインサイドはとても重要な所でもあった。もっと言えば、インサイドが弱いと言うだけでそのチームに勝ち目がなくなってしまう。そのくらい大事な所であるため、ビッグマン達は常にゴール下で戦うために厳しい練習を繰り返すわけだが、逆にこのビッグマンが1人でもゴールの下から姿在を消してしまう。すなわち、ゴール下にいない状態となると、ゲームの有利不利がはっきりしてしまう……。


 ――ゴール下にいた種花が、ゴールから最も遠い位置でドリブルをしていた天河の元へ走って行き、金華と共にダブルチームのDFを仕掛けてくる。すると、それまで視野が広かった天河の周りの景色は、一気に相手選手達の白いユニフォームで埋め尽くされる。




 ――くそっ! これじゃあ、パスが……。ドリブルで抜こうにも、この種花8番がデカくて邪魔なせいで、突破できない……。



「くそっ!」


 天河は、ダブルチームの真ん中で苦しんでいた。じわじわと押されてゴールから引き離されていく天河の正面。ダブルチームの間から見えたのは、パスを要求するマークマンのいない霞草の姿。



「……天河! くれ!」


 彼は、すぐに走って来てくれた霞草へパスを回した。そのキレのあるパスに思わず、金華と種花の2人は驚く事になる。


「なに!?」


 当然だ。彼らは、パスでさえもさせないつもりでプレスをかけたのだ。それなのに、天河はパスをした。しかも、キレッキレの鋭いパスを、だ。


 ――すっ、すげぇ……。


 これには、思わず同じポジションの金華も感心した。そして、すぐに彼はこれを自分も取り入れようと決心したのだった。




 ……天河から投げられたボールは見事、霞草の元へ渡り、彼は早速ゴールの方へ振り返ってみる。すると、そこで自分が今、何処に立っているのかを理解する。



 ――遠い……!?


 PFパワーフォワードというポジションは、さっきも言った通りゴール下で戦うため、その都合上ほとんど、ゴールの下にいる事が多く。攻めにしても守りにしてもゴール下で仕事をするのがほとんど。そのため、霞草は自分がこの位置でボールを貰う事がほとんどなかったために驚いてしまった。




 ――今の位置からじゃ、シュートは使えない。ドリブルで近づかなくては……。


 霞草が、ドリブルを始めてゴール下まで走り出す。彼は、そのままレイアップシュートを決める勢いで攻めに行くも、ゴールへの道のりの途中で当然のように敵Cセンター鳥海のヘルプDFに捕まってしまう。



「くっ! やはり、そう簡単には撃たせちゃくれないか!」


 霞草は、そう言うとすぐに自分の近くに立っていた狩生へボールをパスした。


「……ナイスパス!」

 狩生は、霞草からボールを貰うと、いつものように1回だけドリブルをしてゴールにより近づくと、彼はそのままリングに向かって思いっきり叩き込もうとジャンプした。狩生の片手ダンクが炸裂しそうになる……!


 しかし、その時だった。




「……何!?」


 狩生のそのダンクを後ろから止めにきた手が一本。狩生の手よりもゴツゴツした筋肉質な手。その手の持ち主は、力強く彼のダンクを止めてみせた。



「おおおおぉぉぉらああぁぁぁぁぁ!」


 ――バチィィィィンン! と大きな音が鳴り、ボールがコートの外へと出て行ってしまう。審判の鋭い笛の音が聞こえてくる。


「アウト・オブ・バウンズ! 青ボール!」


 選手達は、着地しそして、ゴール下へと集まる。一方は、元気よく「ナイスDF鳥海!」もう一方は、慰めた声で「ドンマイ狩生」


 両チームが、それぞれ声をかけ終えると狩生は、自分の掌をぼーっと見つめた。そして、彼が何も言わないでボーっと下を向いているのを鳥海もまた見ていた。その後、試合が再開される。審判が笛を吹いて、コートの端っこの線エンドラインに立つ白詰にボールを渡すと、そこから試合は再開される。白詰は、3Pラインの外側に立つ紅崎へパスを回すと彼は、ボールを持ってすぐゴール下で頑張って自分の場所ポジションをとる狩生へパスした。


「よしっ!」


 狩生が、鳥海に圧されながらもなんとかボールを受け取ると、彼は後ろで構えていた鳥海を睨んだ。それに気づいた鳥海は不敵な笑みを浮かべ、喋り出す。


「……かかってきなさい。相手になってあげましょう」


「……鳥海」


 彼らは、1秒も立たない間とはいえ睨み合った後、を開始した!



 ――狩生は、早速フックシュートの構えをとる。それに反応してきた鳥海は、反射的にジャンプしてしまう。……しかし、それが罠。反射的に鳥海が飛ぶという事を予測していた狩生は、すぐにあげたボールを戻して、飛んでいる鳥海を1回のドリブルで抜き去ってゴールの下に侵入し、流れるようなジャンプシュートを決めた!


 見事、得点を決め終えた狩生は、着地してDFへ向かおうと走り出すと、その後ろで鳥海は狩生の背中を見ていながら笑っていた。彼は思った。



 ――うまい。流石のうまさですね。そして、私との相性の悪さ……。



 彼は、更に試合前に監督が言っていた事を思い出す。




、か……」



 鳥海は、狩生が走って行くのを後ろから追いかけるようにして行き、そしてさっきと反対側のゴールへやって来ると自分の方を向いた狩生へ宣戦布告する。




「……面白い。やってあげましょう! 勝負なさい。狩生利行! 貴方のCセンターとしての技術と経験……私のパワーとスピードで蹂躙してやります!」


 その言葉に狩生も下を向いていた顔を上げて答えた。



「……望むところだ」





 かくして、第2Qは、CセンターCセンターによる力VS技の戦いが幕を開ける事となった……。















       扇野原VS光星

      第2Q残り9分37秒

         得点

        20VS18

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