第68話 点の止め合い

「うおぉぉぉ! しかし、光星なんとか返した! 無理やり押し込んだ感じだ!」


 扇野原の金華の攻撃によって2点をやすやすと取られてしまった光星は、この後の攻撃でなんとか点を奪いに行く事に成功する。紅崎の撃とうとしたシュートがブロックされるが、そのルーズボールを霞草がキャッチ、天河にパスしてゴール下まで走って行った後に白詰へパスを回す。そして、白詰のレイアップによってギリギリ攻撃を成功させるのだった。



 点差は、再び3点差。しかし、それでもあと一歩という所で扇野原の攻撃が彼らを襲う。扇野原のターンが始まる。






 ――真ん中に立つ金華から百合、唐菖部、種花、鳥海の順番にパスが回って行き、彼らの流れるような攻撃が続く。落ち着いたパス回しで徐々に光星のDFのペースを崩し、そして冷静にゆっくり隙を伺うような攻め。


 天河には、それが分かっていた。隙を作っちゃいけない。……そしてそれは、他の4人にも理解できていた。少しずつ流れを持って行くのだ……。まだ試合は始まったばかりだというのに、両チームはとても集中した状態で試合をしていた。


 観客もそれを察し、黙って見ていた。だが、やはり無名の弱小校――光星と全国常連の強豪校――扇野原との差は、圧倒的であった。いくら気をつけていてもバスケットにおいて、OFオフェンスは、DFよりも有利。そのため、DFは扇野原のパス回しによってわずかながら、隙が生まれてしまう。そこを、扇野原側は見逃さない。


 やはり、全国常連なだけあって土壇場での冷静さは健在だった。見事、扇野原は得点を得る事ができた。点差は、これでまた5点。


「うおおおぉぉぉぉ! ギリギリの攻め! しかし、確実に一歩扇野原がリードしているぞ!」


 観客の声が、天河の耳にも入って来る。


 ――くそっ! 縮まらない。




 彼の3Pによって息を吹き返し出した光星は、今再びピンチに陥ろうとしていた。



 …………そしてそれは、相手も同じなのだった。突如、体育館に一本のブザーが鳴り響く。


「……白! T・Oタイム・アウトです」



観客は、このアナウンスに驚いた。特に扇野原ファンの中では様々な声が飛び交う。


「……リードしている扇野原が、タイムをとったぞ!」



「扇野原が一方的に勝つのかと思ったら……」




「こりゃあ、どっちが勝つか分からねぇぞ!」





 そんな声が反対側から聞える中で扇野原ベンチでは、監督の冬木が静かに選手達へ話を始めていた。


「……良いですか? まず、最初にこの第1Q。残りの時間は全て点の取り合い。止め合いになります。ですから、君達は残りの時間全てとにかく点を取りに行ってください。良いですね? これは、決して手の内全部を見せろという事ではありません。分かっていますね?」


「分かっております」


 鳥海が、タオルで顔を拭きながら返事を返すと監督は、言った。


「よろしい。では、解散です。行ってきなさい。……慌てちゃダメですよ。あくまで向こうは全力をつくしている。けど、私達にはまだ余裕があるんです」



 監督のその言葉と共に選手達はコートの方へと歩いて行った。













        *



 一方その頃、光星ベンチでは……。


「……ここは、絶対に譲っちゃいけねぇ。分かってるな? お前ら」


「「あぁ」」


 天河の気合の入った言葉が聞こえてくる。ベンチの下級生達は、せっせとスタメン5人にドリンクを渡し、タオルを持ってきて、選手達をケアする。――扇野原の監督の言っていた通り、光星は前半から全力だった。だからこそ、その疲れも尋常じゃない。5人は既に体いっぱいに汗をかき、ドリンクを豪快に飲み干す勢いで平らげていた。


 彼らは、小休憩タイム・アウトが終わるその時までベンチで座り続けてエネルギーの蓄積に備えた。




 ――点の取り合いになったら、間違いなく俺の出番だ。



 と、白詰。



 ――点の取り合いで切り札になるのは、俺に決まってる……。



 と、紅崎。




 ――点の取り合い、一番の要は俺か……。



 と、霞草。しかも、メガネをここでもくいっと上げている。





 ――点を取らないと……。俺が。



 と、狩生。





 天河以外の他の4人も気持ちは、ある意味1つだった。そして、ついにT・O終了のブザーが鳴り出し、選手達が全員、コートへ戻って行った。光星ベンチの花車がエールを送る。



「頑張れよ! 皆!」



「おうよ!」


 白詰の返事が聞こえてくる。それを聞いて微笑んで見せた花車だったが、すぐにその表情は曇り出す。彼は、小田牧の座る方を見た。




 ――先生は、まだ何も言わない……。





 そう、思っているうちに試合は、再開する。――そして、始まった途端に光星の攻撃が炸裂する!




「おぉ! 光星の攻撃! 決まった!」


 だが、観客がその余韻に浸るよりも先に扇野原の攻撃が決まる。



「……と、思ったら今度は扇野原だ! すっげぇ! はえぇ!」



 そうやって、残りの第1Qは、両校とも点を取り合い、また止め合った。光星が攻めてきたら、それを扇野原が止めて……逆に扇野原が攻めてきたら光星が止める。光星、扇野原。光星、扇野原。光星、扇野原……。試合は、一進一退の攻防が続いた。





 一見、互角に見えるその展開に会場は沸いた。しかし、それは突然残酷な終わりを告げる。













 扇野原サイドに座る観客が、大きな声で叫んだ。




「……ついに、ついに光星! 1ゴール差だぁぁぁ!」



「第1Q、残り10秒切ったぞ! ここで扇野原の攻撃を止めたら光星の超優位の状態で次を迎えられるぞ!」



 誰しもがそう思った矢先、しかし扇野原は動じない。あくまで堅実に点を取れる時を待ち続ける。そして、時間がもうなくなるその時に……獲物をかこうハイエナの如く一気に畳みかけてくる! 




「……しまった!」


 扇野原Cセンター鳥海の力強いプレイが、DFについていた狩生を圧倒し、

一気に得点を成功させた!



 そして、そのタイミングで試合の第1Qが終わりを迎える。




「うわああああ! ここで試合終了! 最後の最後に……やっぱ、鳥海すげぇ!」



「あのパワフルは、健在だ! なんて、強さだぁ!」



「後半も暴れろよ! 鳥海!」





 扇野原サイドの観客は、お祭り騒ぎだ。彼らの意識は試合そっちのけで鳥海に移っていた。







 ――さて、試合はやはり扇野原。続く第2Q……。光星は、彼らに一矢報いる事が出来るのか……そして……。






「……」


 狩生は、自分の掌を見つめて何かを考え込んでいた……。彼は、鳥海の後姿と自分の手を見比べて、ボーっとコートに立って下を向きながらベンチに戻って行く……。
















       扇野原VS光星

        第1Q終了

         得点

        20VS16




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