第64話 Tip Off
会場の声援が真ん中の体育館に集まる中、コートの上では10人の選手と審判1人。そして、ボールが1つ存在していた。そして、10人の選手達がセンターサークルにそれぞれ並ぶと、観客席に座る人々は一斉にとある事を呟きだした。
「なんだぁ? 相手のチームの背番号。全部バラバラじゃねぇか!」
彼らは、コート上に立つ天河達を指さし、嘲るように笑い出す。――実際、彼らの番号は他ではなかなか見ない数字がずらっと並んでいた。
右から4番
観客は、こんな彼らの背番号を見た後に隣のきちんと配列されたユニフォームを見て感心する。
「見ろよ。やっぱり扇野原はすげぇ。背番号までしっかり整っている。4番PGの
そんな観客達の声もありながらとにもかくにも、こうして5人の挫折軍団の復帰戦。及び待望の公式戦が幕を開ける事となる……!
審判が両チームの真ん中に立って、試合開始の宣言を改めて行う。
「……これより、扇野原学院大学付属高等学校VS光星学園高校によるインターハイ予選1回戦最終試合を始めます! 両チーム礼!」
「「おなっしゃす!」」
「「お願いします!」」
両チームの選手達が挨拶をかわすとたちまち、審判がバスケットボールを両チームの間に持ってくる。
「ジャンプボール!」
審判がそう言うと、両チームの
――審判が彼らの真ん中でボールを高く投げるとそれが落ちてくるタイミングを見計らって狩生と鳥海は、ほぼ同時にジャンプをする。
「……!?」
「……くっ!」
2人の手は、ほぼ互角と言っていい位で両方が同じタイミングでボールを弾いた事によって、バスケットボールは、狩生と鳥海の間の空間へと飛び出していった。そして、そこに立っていたのは……。
「おぉ! そして、やはり最初の攻撃は扇野原だぁ!」
扇野原高校3年のPG
「……最初からそんなやる気満々になりなさんな~」
金華は、軽い口調でそう言うと細い腕と真っ白い肌をしたその見た目からは想像もつかないような強いパスを投げた。
「……しまった!?」
天河は、彼の咄嗟の判断に驚きつつも、パスした方向へ視線を切り替える。すると、そこには既に走り込んでいた扇野原の選手がいた。
――扇野原高校3年のSF
「……うぉぉ! そして、いきなり唐菖部だぁ!」
彼は、フリースローラインでボールを貰うとすぐにドリブルをはじめ、そのままゴールの下まで迫る……! そして大きく右手を上げ、ジャンプする。観客は、そんな彼のいきなりのダンクに大喜びの様子で熱気がコートにも伝わってくる程だった。
「さすが東京最高の得点王! いきなりダンクだぁぁぁぁ!」
会場が沸き上がる中、1人。そんな彼の事を気に食わないでいる者がいた。彼は、後ろから唐菖部のダンクに追いつこうと走り出し、とうとう台形のポストエリアにまでたどり着く……。
「……何が東京最高じゃ! ボケェ!」
ブロックに跳んだのは、白詰だった。彼は、大きく飛び上がるとそのまま唐菖部のダンクをブロックするのだった。白詰の弾いたボールがバスケットゴールのバックボードにあたり、そのままコートの下へと落ちて行く……。
「よしっ……!」
その落ちてきたボールを拾ったのは、なんと天河だった。彼は、ボールをキャッチすると、そのまますぐにドリブルを始めてコートの真ん中を突っ切った。
「……よし! 行くぞ。一本だ!」
天河が、大きな掛け声を上げてセンターサークルに辿り着くと彼は、ドリブルのスピードを緩めて、深呼吸をし慎重な表情でハーフコートへ入って行った。
「……」
彼が、コートのあちこちを見て状況を正確に把握している最中に後ろから白詰と唐菖部が反対側のコートから走って来る。2人もコートの中に立つと天河は、それを見てドリブルのスピードを速める。そして、味方の位置を確認し終えた所で彼は、目の前のDFを睨み、試合前の事を思い出す。
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「最初の一本は、肝心だ。この一本を取れるかで試合の流れを掴めるかどうかが決まる。慎重に……だ。しかし、だからといって攻める気をなくすな。闘志は持ち続けろ。そして、相手に自分達の底力をみせつけるんだ!」
天河は、自分で言ったその言葉を思い出すと早速、台形の中にいた霞草に目で合図をする。
霞草がその意図を理解すると、彼は白詰の所へと走って行き、彼についているDFの唐菖部の後ろに立ち、手で白詰に合図する。
――行け!
霞草の合図とともに白詰がDFの前へ走り出すと、唐菖部は驚いた顔で追いかけようとする。そして、その時に霞草についていたDFの種花が大きな声で唐菖部に告げた。
「スクリーン!」
彼は、霞草の大きな体に少しだけ体をぶつけて足止めを食らう。すると、それを見た霞草のマークマン――種花が、チームメイトに続けて言った。
「……7番フリーだ! 突っ込んでくるぞ! 気をつけろよ!」
彼は、野太くて何処か熱血さも感じる声でそう告げる。
「……オーケー!」
扇野原選手達が返事を返すと、彼らは一斉に
その隙に、白詰が3Pラインの外側でボールを貰う。そしてドリブル、シュート、パス全ての動きの基本態――トリプルスレッドに入る。そして、前を見て一瞬だけドリブルの構えをとると、その隙に足止めを食らっていたはずの唐菖部が彼の元へ走って来る。
「させるかぁ!」
唐菖部は、すぐに白詰の元へ駆けつける。
「すげぇ! さすが、得点王! DFも隙が無い。あれじゃあ、全く抜けないぞ!」
観客が唐菖部のDFに驚く。その時、白詰の中で試合前の天河との会話が思い出される。
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「……最初の攻め、肝心なのはお前だぞ! 想太。ここは、慎重にと言ったが……お前だけは別だ」
「……というと?」
天河は、白詰の疑問に対して笑って答えた。
「……ふふふ。知ってるぞ。お前が練習の合間にNBA選手の真似をこっそり練習している姿を」
その一言に白詰は、体をギクッと震わせ、かくかくと恥ずかしそうに天河の事を見た。すると、天河は笑った顔で彼の肩を上からポンッと叩いて続ける。
「今が、その時だ。お前の真の力を見せてやれ! 扇野原に……そして、航に……」
白詰は、恥ずかしそうに頬っぺたを紅く染め、少ししてから元気よく返事を返した。
「……おうよ。見せてやんよ。今だかつて誰も見た事のないこの白詰想太の真の実力ってのをな!」
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――今日まで一度も勝てなかった。航に……。俺は、いつの間にかアイツよりも圧倒的に弱くなってた。ドリブルも……パスも……シュートも……1on1でさえ、俺は一度も勝てなかった。だから、試合前はすっごく不安もあったんだ……。
白詰は、そこで試合前の控室での天河の言葉を思い出す。
「……大丈夫だ。緊張する事はない。何たって俺達は東京都で1番を取った経験があるんだ。簡単には負けんさ」
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――負けんさじゃねぇよ! 勝ちてぇ! 今日を勝って、今年こそ……皆が揃った今年こそ……! 全国大会に出るんだっ!
白詰は、その思いを噛みしめて脳内に選手全員の顔を浮かべると彼は、決心した顔でトリプルスレットからシュートのモーションに入る。……それを見て唐菖部は、驚きの表情を浮かべて白詰に近づく。
――想太に3Pはないはず……!?
しかし、今彼の目の前で行われていたのは、白詰の3Pシュート。驚いた顔で彼が慌ててシュートを止めにジャンプをすると、それよりも早く白詰がボールを放つ。
――しまった! しかし、このバラバラなリズムと崩れまくっているフォーム。投げ方も雑……これは、入らない!
航は、そう確信すると着地と共にゴール下に立つビッグマン達にリバウンドを叫ぼうとする。しかし、彼がそれをしようとした時、前でシュートを撃っていたはずの白詰は既にゴールの方向へと走り出していた。
「……なっ!?」
驚いた唐菖部は、白詰のその行動に何か嫌な予感を覚える。
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――まさか……!?
それを確信した時、彼は咄嗟に「リバウンド」という言葉を取り消した。
「……ダンクだ! 上から来るぞ! 種花ァ! 鳥海!」
それを耳にして2人はジャンプをする。そして、飛びあがった直後に鳥飼の返事が聞こえてくる。
「……任せなさい!」
しかし、彼らがジャンプをしだした時には、既に白詰は跳びながら片手でボールを掴み、そのままリングに向かって空中で前に進んでいた……!
「……アイツ!? まさか、あれは……!?」
「嘘、だろ!?」
会場にいた観客全てが白詰の行動に驚く中、白詰は2人のDFを前に怯む事なく挑んで行く。
「行けェ! 想太ァァァァァ!」
ベンチから花車の声が聞こえてくる。
――勝つんだ! 皆で……。今日、勝ちに行くんだ!
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
白詰は、そのまま自分の今出せる全力を右手に宿して、種花と鳥海のいる上から強烈なダンクをぶちかましにかかる。
「……だぁりゃあぁぁ!」
――ガシャン! と破裂したような3階で座って見ている人の鼓膜まで千切れてしまいそうな雷鳴の如く大きくて凄まじい鈍い音が呻り、リングがガタガタと震える……。その光景に一瞬だけ会場は静まり返る。
そして、静まり返った所でスコアボードが動き、得点ブザーが鳴り響く。
かくして、白詰の1人アリウープが炸裂した。インターハイ予選1回戦最終戦。扇野原高校VS光星高校の試合は、こうして幕を開けるのだった……。
扇野原VS光星
第1Q残り9分32秒
得点
0VS2
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