インターハイ編

第63話 運命の再開(リスタート)

 ──インターハイ。その歴史は古い。戦後から行われてきたこの大会は、日本の発展と共に歩んでいき、また衰退と共に駆けてきた。今年のインターハイも例年通りだった。様々な場所で高校生達が全国各地で己の信念を燃やして戦う……。新型ウイルスがあったとはいえ、その伝統は今も守られ続けていたのだ……。



 ただ、これは男子バスケットに限った話ではあるが、それまでと違う所があるとするならそれは3つ。


 1つは、この大会が記念すべき第1回から現在にかけての周年記念大会である事。それを記念して今年は全て首都東京の最大サイズの体育館──東京体育館をはじめとした東京都の体育館で行われる。

 もう1つは、それと同じく東京都では第1回インターハイから去年にかけて全国常連として名を上げてきた超強豪校──扇野原学院大学附属高校も今年が全国出場をかけた記念すべき年であり、約10年ぶりのシードから外された通常枠参加である事。


 そのためか、インターハイ当日の今日はあちこちから扇野原の試合を一から見ようと駆けつける観客が多く東京体育館内は非常に賑わっていた。

 観客の全てが扇野原の活躍に期待し、盛り上がりを見せる中、3つ目。最後の異なる点は、そんな絶対王者──扇野原と本気でやり合おうとしている奴らがいるという事……。


 彼らの頭の中には扇野原に勝って歴史を変えるとか、扇野原を負かして世界一の恥にしてやるとかそんな事は考えちゃいなかった。


 ──ただ、彼らは最後まで戦い抜くという確固たる決心のみを持って、その時をひたすらに待ち続けた!



 そして今、バスケットコートに繋がる巨大な扉が開かれた……!







「……それでは本日最後の試合。扇野原学院大学附属高校VS光星学園高校の試合準備を始めます。選手の皆さんは、アップを開始してください」














         *


 ──アップを終え、一度控え室に戻った両校は、ここで試合前最後の時間を与えられる。まぁ、と言っても試合までもう数十分しかないため、そこまで大した事はできないわけだが……。光星控え室は少々賑やかだった。白詰が全体に問いかける。


「……おい! 霞草の野郎はどこ行った?」


 彼は足をジタバタさせてあちこちをウロウロしていた。すると、横からベンチに座って目を瞑っている天河が言った。


「……トイレだ。3度目の」


「はぁ!? あの野郎、何回クソ出せば……」


「まぁ、そう怒るな。アイツも緊張しているんだ。なんせ、久しぶりの試合だからな」


「だからって!」


「……人の心配をするより、自分の心配をした方が良いんじゃないか? 白詰」


「……天河」


 天河は真剣な表情で白詰の目をじっと見つめて言った。


「今日はだぞ?」


 白詰は少し黙ってから吐き出すように言う。


「わーってるよ!」


 そんな彼の事を瞬き程度に瞳を開けて彼は、ほっと一息ついてから言うのだった。


「……大丈夫だ。緊張する事はない。何たって俺達は東京都で1番を取った経験があるんだ。簡単には負けんさ」


 そんな彼の言葉に白詰だけでなく花車、狩生も耳を貸す。そして白詰は返事をした。



「そうだな……」












         *


 ──試合開始20分前。霞草慎太郎は、1人トイレの個室に篭っていた。彼はこの日、便秘でもないのに凄まじい緊張によって既に3回もトイレに行っていた。だが、実際に出たのは1回目のみ。いや、というよりも2回目以降は最早出ないはずなのに座り続けている仕末で、彼は分かっていながらも出ない事にイライラしていた。


 ──クッソ……。マジで一ミリも出ない。何なんだこれは……!? まさか、俺は既に病気に侵されて……?






 そんな事はない。実際、彼の今日のコンディションは最高なはずだったわけでこうなってしまったのも会場に入ってからの事だった。



 そうして、霞草がトイレでイライラしていると外から2人の男の声が聞こえてくる。




「……今日の対戦相手、光星? だっけ? 全然聞いた事ないとこだよなぁ?」


「あぁ、まっ一回戦の相手としては普通なんじゃね? 先輩達も良いウォームアップになると言ってたし」



 ──なんだ? 扇野原の選手か? 生意気な事言う奴だな……。



 霞草がそう思っていると、彼らの話の続きが聞こえてくる。



「あぁ、けどなんか種花たねはな先輩が言ってたっけな。PFの奴には気をつけた方が良いって……」





 ──何!?




 霞草は自分の事であると分かった瞬間に顔を上げた。さらに彼らの会話が続く。



「なんか、アイツのリバウンドに中学時代負けた事があるらしいね」





 ──フッ。当然……!




「……けど、今はもう負ける気がしないとも言ってたよな。なんかリバウンドは全て俺が獲るって。まぁ、実際先輩強いし」


「だな」



 2人はそう言い終えると会話をやめてトイレを出て行った。そうしてトイレが静まり返った所で霞草はズボンを履き、思った。





 ──舐めやがって……!

















         *



 試合開始10分前。彼らはカバンを持って更衣室を出て行った。



「時間だ! 行くぞ」


 天河の掛け声で全員は試合会場へと歩いて行った。



 しかし1人だけ更衣室に残って話をしている人がいた。──紅崎だ。彼は、控え室まで来てくれた向日葵に一言だけ伝える。



「……特等席を空けておいたからそこで見ててくれ。探すのがちょっとめんどいかもだが……。それと、行ってくる」



「えぇ……」


「……あぁ、言い忘れてた。今日の黒髪、似合ってるぞ。そのメガネも……すっごく綺麗だ」



 それだけ言って控室のドアが閉められる。紅崎は控え室に向日葵を残して会場に向かう天河達の元へ走って行った。











         *


 光星のメンバーが入場すると、館内は湧いた。彼らはそんな初めて浴びる観客の声援を聞いて、少し緊張しつつも驚いた様子で歩いて行った。そして自分たちのベンチにつくと、そのタイミングで今度は反対側からぞろぞろと人の列がやって来る。



「おぉ! 来たぁ!」



「最強王者! 東京都史上最高の高校!」


「「扇野原高校!」」



「今日は、どんなゲームをしてくれるんだぁ!」




 傾きかけた観客の声援は今や完全に扇野原一色。最早、それ以外の何でもなかった。


 そしてそんな興奮する会場の声の中にも少し違った事を言い出す者までいた。



「……やはりPGの金華かねはる。彼なしじゃチームは成り立たんよ。あのゲームメイク能力は高校バスケ界最高さ!」


「いやいや! SGの百合ももいだろ! 何でもこなせちゃうんだぜ? 凄すぎるだろ?」


「いや、一周回ってSFの唐菖部とうしょうべだな。派手だしかっこいいし! しかも強い! いっぱい点取るし」


「バーカ! 種花だよ。あのリバウンド力は都内1! ガッツリしてて好きなんだなぁ〜」


「……それならやはり鳥海だろ? パワーだけならメンバーの中でも最強格。しかも技術まである。豪快だし、見ていて楽しいんだよ」




 と、このように強くなればなるほどオタク気質な人も湧くわけなのだ……。






と、そうこうしているうちに会場に大きなブザーの音が鳴り響き、ナレーターの声も聞こえてる……!




「これより、扇野原学院大学附属高校VS光星学園高校の試合を始めます! 選手の皆さんは真ん中に集まってください」



 両校のスターティングメンバーは、コートの真ん中のセンターサークルへ集った。
















       扇野原VS光星

        試合開始

         得点

         0VS0

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