第33話 開かないドア

「想太……それから……」




「葵もいるぜ」





「……そっそうか」












 ――3人は、黙った。何も話さないでいる時間が、白詰や天河にとって思ったよりも長く続いた。


 狩生は、さっき以来自分から何も話そうとはしない。ずっと黙ったままだ。……いや、まだドアの向こうにいるのかも怪しい。



「……なぁ、狩生」



 不安に思った白詰が、尋ねる。





「……ん」



 彼の小さな声がドア越しに聞こえてくる。――ちゃんと目の前にいるのだ。白詰は、そのまま続けた。




「……お前さ、一回だけで良いから俺達とこれから走りに行かね?」













 ――狩生の返事が聞こえてこない。



「……あれ? いない?」


 白詰が、不安に思ってかドアを優しくノックする。――すると、すぐにドアノックの音が返って来て、彼はまだそこにちゃんと狩生がいると分かってホッとした。







 しばらくして、狩生は小さい声で喋り出した。



「……走りたくない」




「……どうして?」






「……走りたい気分じゃないんだ」


 白詰は、かゆくもないのに頭の後ろをポリポリかいた。……そして、彼に尋ねた。




「……じゃあ、こっちに来て話をしよう。ドアを開けてくれ」







 またしばらくして、狩生は小さい声で喋り出した。





「……いやだ」






「どうしてさ」





「……話したい気分じゃない」



 白詰は、もう一度頭をポリポリかいて大きく溜息をついた。


「……困ったなぁ」

 彼は、天河の方を向いて言った。


「……本当に出たくないみたいだな」

 天河もまた、白詰同様に険しい顔をしていて2人は、お互いに体だけ向けあって下を向いて考え込んだ。






 そして、今度は天河が尋ねる。



「……よし。分かった。じゃあ、そのままで良いから聞きたい。お前は、どうして引き籠るようになったんだ? それを教えてくれ!」







 ――しかし、ここで彼の返事が返ってこなくなった。天河は、慌ててドアをノックした。




「……おっおい! どうした? 俺、何かまずい事を言ったか? なら

謝るよ! おい! すまん! 本当に申し訳ない。だから、戻って来てくれ!」




 彼は、何度もそう言い続けたがドアの向こうから声は聞こえてこなかった。……不安な気持ちが爆発した彼は、そのままどうしよう……どうしよう……と頭を抱えだす。




 すると、彼のポケットから何かが小刻みに震えているのを探知する。



「……これは!」



 そう思った天河が、携帯を取り出す。――すると、そのホーム画面に狩生から一件だけメールが来ていた。






 開くと、そこには短い文章でこう書かれていた。





 ――ごめん。





 天河は、そんなたった一言の文章を見てどうしようもない不安感に駆られ出す。


 彼は、慌てて返信を返そうとしたが、そこまでで隣にいる白詰に止められる。



「……よせ」




「でっでも、聞かないと分からないし……」


 すると、白詰は冷静な顔で言った。



「……言いたくない過去なんだ。無理に聞く必要はねぇ」



 しかし、天河は感情をぶつけた。


「……しつこく話しかけたもん勝ちと言ったのはお前だろ? そんないきなり冷静になりやがって! お前は、知ってるのかよ? 知らねぇよな!」



 ――白詰の顔が、少しだけ曇りだし、彼は天河から目線を逸らして一歩だけ狩生の家のドアの方へと進んで行った。


 その姿に天河は、何かを感じて、やがてそれは確信へ変わった。



「……お前、まさか……?」



 白詰は、告げた。




「……あぁ、実はずっと前に事情は聞いてたんだ」








「……どういう事だ?」


天河が、首を傾げていると突然、白詰の携帯が震えだし、音が鳴った。――携帯を開くとそこには、文章が短く書かれており、携帯を覗き込むようにして見ていた天河と白詰は、小さく頷いた。




「分かった。俺が言おう」



 彼は、その”頼んだ”と最後に書かれたトーク画面のまま携帯を暗くし、そしてポケットにしまってから話を始めた。
























「……あれは、俺達がまだ1年の頃の事だ…………」



























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