第32話 見えない再会

 白詰と天河の2人は、狩生の家の前までやって来る。――そして、早速白詰が家のブザーを鳴らそうとした。



「……おい。待ってくれ」


 しかし、そんな彼の行動を天河は、止める。



「……今は、早朝だ。こんな時間にブザーを鳴らすのは家の人に迷惑だ。せめてドアをノックする程度にしてだな……」



 しかし、そんな彼の言葉を聞いて白詰の目が点になる。彼は、言い返した。


「……おいおい。天河、お前忘れちまったのかよ?」



「……何がだ?」



「……昔、よく狩生の奴が言ってたじゃねぇか。……親は、早朝から夜の時間帯はほとんどいないって。迷惑がられる心配はねぇよ」



「しかし、確かに癒えの人はいないかもしれないが、こんな時間だ。アイツだって今の時間は寝ているんじゃ……」



 天河が、困った顔でそう言うと白詰は小さく溜息をついて、それから言った。



「……大丈夫だよ。アイツは、昔からショートスリーパーで早朝は起きてる。なんなら、ラインで聞いた話だが……俺達より早い時間に起きて、コンビニで朝ご飯とかの買い出しに行ってるらしいぜ? まぁ、実際サイゼの件で毎日来ていた時も俺は、朝早くからアイツの家の前でブザー鳴らしたりしてたが、迷惑だとは言われて……言われて、なかったよな?」




「おい……そこは、自信をもってくれよ」



 白詰は、頭をポリポリかいてしばらく目線を右上に移していたが、気を取り直して咳払いすると、もう一度告げた。



「とにかく今は、アイツだって起きてるし親もいない。なら、積極的に行くのが一番だぜ!」



 そうして、白詰はもう一度ブザーの方を向いて時間を空けて何回もブザーを鳴らした。





 ――狩生の家のブザーは、家の中にしか響いて来ない仕様なので外に音は漏れなかった。……この事に気づいた時、天河はまたもほっとした顔で空気を吐いた。










 こうして、白詰が何度も何度もブザーを鳴らして応答を待ったが、当然この前と同様に反応はなかった。――しかし、彼はもう来ない事には慣れていた。何度も何度も家の前で呼びかけ続けていた事で彼のメンタルはそこで大きく成長していたのだ。



 白詰は、引き続きペースを落とす事なくブザーを鳴らし続けた。





「……おい? もうやめにしよう。流石にこれだけ呼んでも来ないんだったら今日はもう……」



「あっ? バカ野郎。……こういうのは、しつこくやったもん勝ちだぜ」



「……しかし、もう30分は経つぞ。今は一旦やめにして、後でまた来れば……」




「ダメだ。……今ここで引くわけにいかない」




「……?」



 天河は、彼の言っている事が分からなかった。彼は、最初こそ狩生を助けるという思いに満ちていたが、長く続くこのドアノックの時間に嫌気とそれからどうしようもない照れを感じ、すぐにでも帰りたかった。――しかし、そんな天河に対して、白詰は言った。



「……俺、なんかあっても引き籠ったりはしたことないんだ。だから、アイツが今、どんな思いでこの家の中にいるのかは……正直分からねぇ。朝から迷惑とか、正直うぜぇとか思ってるかもしれねぇ……。無理もねぇよ。最近は、ほぼ毎日こんな感じなんだからさ。でも、思うんだ。誰かが手を伸ばし続けないと、アイツは本当にこのままなんじゃないかってさ……。だから、しつこくても嫌がられていても、こういう時には俺が……せめて俺くらいは、嫌われ役を真っ当しなきゃな。……それが、例のサイゼ作戦決行前の一週間の間に俺が決意した事なんだ。必ず、もう一度外に出てきてもらう。俺は、それを信じている」




 白詰は、スマホを取り出して電話をかけた。




「……なぁ! いるよな。狩生! 今度は、2年ぶりに顔を見て話そうぜ!」



 そんな白詰の言葉を聞いて、天河もいつの間にかただ黙っているだけではなくなっていた。



「狩生! 俺だ! 天河だ! せめてドアの前まで来てくれ! そこであの頃のように話をしよう!」





 2人は、待った。――待ち続けた。ひたすらに待ち続けた。





















 ――――すると、しばらくしてドアの向こうから弱弱しくて小さい声が聞こえてくる。






「……えっ、えっと……」



 その声が良く聞こえていなかった白詰は、それでもなおブザーを鳴らし続ける。




 すると、その声は更に大きくなった。




「……だっ、だっ、だから! 鳴らすのを……そのっ……やめっ、やめてくれよ……」





 白詰は、ここでようやく声に気づいた。今、自分の目の前には大きくて分厚い木の板を挟んだ状態でいるのだ。――狩生が……。










「……やっと、声が聞けたな。狩生……」




 白詰は、手を下げた。そして、彼の様子を見て天河もその隣へと駆け寄って、2人はドアの向こうにいる仲間と話していくのだった。

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