第26話 勧誘 狩生編②
――次の日、白詰はちゃんと狩生の家の前で立っていた。たまにブザーを鳴らしてみたりもして、暗くなるまで彼が来るかどうか待ち続けた。
――そのまた次の日も同じように、学校終わりに彼の家へやって来て待ち続けた。しかし、やはり彼は来なかった。
――更に次の日も彼は、来なかった。その日は、土曜日で学校が午前中に終わったためにおにぎりをかじりながら白詰は、狩生が出てくるのを待ち続けたが……しかし、彼は現れない。
――しかし、次の日の日曜。ここで、とある変化が起こる。白詰は、この日朝のランニングを終えた後に午前中の約束だった航との練習を夜にしてもらった後、お昼のおにぎりを買って狩生の家で待ち続けた。
この日の彼は、家のブザーを鳴らしたりも、メールを送ってみたりするのも、ドアをノックしてみる事もあえてしなかった……。
――押してダメなら引いてみろ。
こんな言葉が彼の頭の中に浮かんだのだ。
――ダメ元だが、これまで色々試してきて……それでダメだったんだ。なら、もう……。
サイゼ作戦の仲間集めの期間は、一週間。そして、今日がその最終日でもあった。白詰は、焦っていた。
――このまま狩生だけ戻ってこないままなのは、あまりにも残念すぎる。出来る事なら全員集合を達成したい。
霞草は、紅崎と狩生が揃わないと行かないと言っていたらしい。そして、紅崎の解答は……。
「考えといてやるよ」
というものだった。なら、ここで自分が狩生を連れて来れなければ、この作戦は大失敗する。……いや、下手をしたら俺達の記念すべき一回戦だって危うい。
「狩生……頼む。一度で良いから……」
白詰は、願った。――ひたすら願い続けた。
そうやっていると、とうとう空は赤い光を放つようになった。
スマホの画面を見てみると、もう17時をとっくに過ぎていた。――待つ事に集中していたせいか、夕焼けチャイムの音も耳に入って来てなかったようで……彼は、もうそろそろ航との集合場所へ行く準備をしないといけないと考えるようになった。
――来ねぇかな。最後に……。
白詰は、何度もスマホのロック画面を開いたり閉じたりして家をチラチラっと見続けた。
・
・
・
・
・
・
――すると……。彼が、電源ボタンを押す直前にスマホの画面が明るくなった。
――え!?
白詰は、慌ててスマホのロックを解除し、メールの画面を開く。
――すると、一通の新着メールが届いていた。
それまで2年前の秋で止まっていたトーク画面が、ここで再び動き出すのだった……。
――お前、いつまでそこにいるつもりなん?
白詰は、慌ててメールを打つ。
――あ?てmぇが、出てこないからだろうが。
――誤字ってる誤字ってる。
――んな事は、どうでも良いんだよ。とにかく、お前に言いたいkとがあってここへ来たんだ。
――なんだよ?
――今度、サイゼで中学の頃の仲間を全員集めて久しぶりに飯を食おうと思ってんだよ。テメェにも来てほしくてな
――行かない。
「あぁ? んだよ。もう……」
――ダメだ。頼むから来て欲しいんだ。お前に何があったかは、正直よく分かんねぇけど、それでも来て欲しい。
――俺は、人と対面で話すのはおろか、外に出るのだって辛いんだ。そんなの俺にとっては拷問でしかない。
「……」
白詰は、そこでメールを打つのを一度やめてしまう。
――これは、致命的な問題だ。今日が初日であれば、まだ良かったかもしれない。しかし、もう最終日。それまでに元通りの狩生に戻すなんて事は、正直難しい。
彼は、悩んだ。外に出れなくとも、サイゼでの集まりには来て欲しい。何度も何度も考えた。
・
・
・
――ダメだ。なんにも思いつかねぇ。そもそも、引きこもってる人間を元気づける方法なんて分かんねぇ……。
彼は、下を向いた。そして、メールの画面をぼーっと見つめて、ローマ字を打ち出す。
――s……o……u……。
しかし、ここで彼はある一つの方法を思いつく。――そして、咄嗟に白詰は高速で指を動かして文字を打ち出す。
――だったら、オンラインで参加してくれれば良い!
すぐに既読がつく。
――は?
――外に出れないのなら、俺の携帯で画面越しの参加で良いよ! それなら、多少は話せるんじゃないか?
――まっ、まぁ……顔を見ていないし、リアルに会うよりは良いだろうけど……。
――じゃあ、決定な! 当日、ディスコの通話開くから絶対出ろよ!
既読がすぐにつく。
――――――分かった。
「うっしゃあああああああああ!!!!」
白詰は、喜んだ。……近くを歩く人々が皆、彼の姿をジッと見つめていたが、そんな事も気にせずに彼は吠えた……。
*
そして、そんな白詰の勝利の雄叫びをカーテン越しから聞いていた男は、スマホをベッドの上に放り投げて、そして床に寝転んだ。
「……先生。俺は、またバスケットをする事になるんでしょうか」
暗い天井を見上げながら、男はそう言った。
――そして、男は白詰がいなくなった後、夜の遅くにパーカーとマスクをして暗い外へ出て行くのだった。
「……コンビニ行くか」
そうして、男は「狩生」と書かれたその家から出て、のそのそと歩いて行くのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます