第23話 勧誘 紅崎編①
――同じ頃、学校の近くのとあるコンビニに通じる道の真ん中にて。
光星高校の正門を出てすぐ目の前の信号を渡り、そこから少し行った所を右に曲がると生徒もあまり通らない若干細めの道に入る。そこの道をずっと真っ直ぐ歩き続けていくと、段々コンビニが見えてくる。――地元の人達もあまり寄らないガラガラのコンビニだ。
なぜ、こんな場所が存在するのか? その答えは、簡単だ。……ここの通りは、光星高校に通う生徒達の中でも特に
彼らは、学校へは行かず、毎日この道の先にあるコンビニで集まり、そこからカラオケに行ったり、ファミレスで適当に時間を潰したり……何処か別の場所で遊んだりして、毎日適当に時間を潰す。学校へ行く事はほとんどなく、たまにグループリーダーが気分で「行く」と言いだすと全員で学校へ向かうわけだが……。それも、1か月にあるかないかというくらいのものだ。彼らは、怯え切ったコンビニの店員から違法に酒と煙草を調達すると、その場でスパスパ煙を巻きながら外へ出て行って、酒を飲み干す。そうやって、だらだら過ごすのが彼らの日常だ。
――おそらく、奴がいるとしたら……。
そんな事を思いながら天河は1人、その細い道を歩き続けていた。一歩進むたびに、より鮮明に浮かび上がってくるコンビニの姿。――そして、その前に集まっている人の群れ。
天河は、そんな光景を目の当たりにしながら過去の事を思いだしていた。
*
「……暴力事件だと!?」
天河が、まだ高校1年だった頃の三学期。彼は、その当時同じクラスだった友人から衝撃的な事を聞いてしまう。
……その友人は、続けた。
「あぁ、どうやら噂によるとうちの学校の不良集団の一番下っ端の奴が偶然、他校の縄張りに入ってその学校の奴らと少し揉めたらしい……。んで、その下っ端の奴は、元々腕を骨折してたみたいで……今回の事件で、その骨折して治ったばかりの所をまたやっちまったみたなんだ……。重症らしいぜ?」
「……腕を骨折していた」
天河の頭の中に、1人の大切な友人の顔が浮かんでくる。……その友人は頭が坊主になっているのが特徴的な男で、天河達と同じ”東村中学バスケ部のスタメンの1人”だった。
*
――アイツは、チームの中で一番真剣にバスケと向き合い、そして情熱を燃やしていた……そんな奴だったな。
コンビニが目の前に見えてくる。同時に、その前で集まっている不良達も天河の存在に気づき、鋭い目で睨みつけてくる。
天河が、コンビニの敷地の中に入ると、不良の1人が口から西部劇のガンマンの早撃ちのように素早く唾液を吐き捨てる。――少しして、彼らの中の1人がポケットからスマホを取り出して、こちらをギロッと睨みつけながら、小さい声で何者かに電話を始める。
天河が、不良達の一番前で煙草を吸っていた虎のような黄色と黒の色をした髪が特徴的な男の前に立って、臆する事なく告げる。
「……
「あぁ? んだ、てめぇ?」
「紅崎は、いるのかと聞いているんだ?」
「だからァ、そうじゃなくて……なんでテメェ、”さん”をつけねぇんだ? あぁ?」
「アイツと同い年だからな。”さん”をつける理由がない。……所で、紅崎はいるのかと尋ねているんだが?」
――その刹那、天河の腹部に目掛けて強烈な拳が飛んでくる。彼は、それをかわす事ができずに、そのまま一撃をもらってしまう。
「んぐぅ……!」
天河は、腹を抑えながら地面に膝をつく。……その有様を見て、周りにいた不良達がわらわらと集まってくる。
吸っていた煙草の先を天河に押し付けると、男は再び喋り出す。
「おい! 良いかチビ? テメェが、あの人と同い年だろうと、俺達の先輩であろうとなぁ関係ねぇんだよ。……俺達に会ったら、まずきちんとした言葉でハキハキ言わないとダメだよなぁ?……なぁ? おい!」
すると、彼はまたも天河の腹部を蹴り上げる。
「……まずは、きちんとした挨拶から始めろや。1日のスタートは、そこから始まるんだぜ?」
彼は、腹を抑えて咳込みながら苦しそうに言うのだった。
「……おはよう……じゃ、なかったな。もう、こんにちはの時間だ……な」
「テメェ、ざけてんのかァァァ! きちんとした言葉って言っただろうがボケェェェ! 頭までチビになっちまったか? あぁ?」
男の叫び声と共に、周りにいた不良達も一斉に天河のあちこちを蹴り始める。――彼は、必死に頭を両手で抑えて、体を丸めて地面の下でのたうち回るように彼らの攻撃から身を守り続けた。
・
・
・
・
・
・
――そして、しばらく蹴ったり殴られたりを繰り返していると、そこに突如、聞き慣れないバイクの音が彼の耳に入って来る。……その音と共に、蹴っていた不良達が少しずつそのバイクのある方を向きだす。
バイクに乗った長髪の男が、言った。
「その辺にしとけ……」
「……え? いや、けどリーダー……コイツ、リーダーの事……なめた態度でしかもタメで話してやしたよ?」
バイクに乗っていた男は、後ろに乗る彼女らしき女の肩に手を置くとそのまま前に出て来て言うのだった。
「構わねぇよ。そんくらい。……それに、コイツが俺に敬語使う方が気持ち悪くて耳障りだ」
男は、女の肩から手を離すと、仲間達に小さな声で「退け」と告げて、天河の前に現れる。
天河は、そんな男の姿を見て息を切らしながら言うのだった。
「……随分と、凄いイメチェンをしたもんだな。……紅崎」
「……あぁ。カッコいいだろ? なぁ、天河」
――男達は、強く睨みあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます