第17話 男同士の約束
~中学時代~
白詰想太は、中学一年生の頃からバスケ部の主力メンバーの1人として上級生達に混じってよく試合をしていた。
彼のバスケに対する才能は東村5人の選手達の中でも特に凄まじく、入部して3ヶ月後には他の上級生達を圧倒する程の実力を持つようになり、監督からは期待され、部長からは次期キャプテンとまで言われるようになる。
まさに薔薇色。――そう、誰もが彼の輝かしい姿を見てそう言うのだった。
しかし、強い光の後ろには、必ず同じ位に濃い影が付き物。……当時の彼は、他の部員達からよく妬まれ、虐められていた。それは、同級生の間だけに留まらず、最終的には試合に出る事さえない上級生達からも虐めを受けるようになる。
彼は、何度か顧問や担任、親とも相談したが、何故だか相手にされず、結局中学1年の冬まで彼はずっと孤独なままだった……。
勿論、部活内にいる全ての人間が彼を虐めたわけではない。天河や霞草のような時期スタメンとなる者達なんかは、彼の事を嫌がったりしなかった。彼らとは、部活の中でよく一緒に練習をしていたわけだが……残念な事に彼1人だけクラスが離れていた事もあって、部活以外での関りは薄かった。
クラスでも部活内で虐められている事が噂として流れたのか、浮いた存在となってしまう。
――そんな彼を救ったのが、
航は、想太と同じように虐められていたが、その内容は真逆だった。……想太が、強すぎるが故にいじめを受けたというのなら、航は逆に弱すぎたが故に虐められてしまったのだ。中学からバスケを始めた航は、自分の周りの同級生達が全員経験者である状況が故に他の同級生達からよく虐められたり、パシリにされたりしていた。
――そんな2人の出会いは、体育の授業での事で、二人一組でボールをパスし合うというもので、余ってしまった2人は、一緒にパスをする事となり、そこで徐々に打ち解けていったのだった……。
「ねぇ! 白詰君は、よく試合に出ているけど、どうしてそんなに強いんだい!」
航が、柔らかい野球ボールを高く放り投げながら想太に言った。
――彼は、そのボールをキャッチすると同時に答える。
「さぁな。……がむしゃらに練習してたらいつの間にか上達してたんだ」
「凄いね! 僕も君くらい強くなりたいよ!」
「……強くなっても、別に楽しくなんかないぞ?」
「どうして?」
「……そりゃあ、バスケは楽しくなるんだろうけどさ。けどそれだけ、敵が増えるんだ。いろんな奴が、自分の所にやって来てお前は良いよなぁとか言って自分の不幸な気分をわざわざ俺に渡してくる。……溜まったもんじゃないよ。試合だって酷いもんさ、俺が少しミスすると皆して俺だけを責めるんだ。だから、強くなっても何も嬉しい事なんかねぇよ。俺は、むしろもっと下手くそな初心者のままでいたかったよ」
「……僕は、嫌だな。弱いと、弱すぎると……誰も自分を対等に扱っちゃくれない。褒めてもくれないし、叱ってもくれない。ただ無視されるんだ。それに、弱すぎてもミスしたら君と同じように沢山責められるし、不幸な気分だって渡される。だから、僕は強くなりたいんだ」
「……」
「……」
2人は、それからチャイムが鳴るまでの間、ずっと黙ってボールをパスし合うだけだった。
・
・
・
・
そして、鐘の音が鳴り出すと、白詰は言った。
「なぁ、航君だっけ?」
「……なんだい?」
「俺と一緒に練習しないか?」
「練習?」
「あぁ、部活の後に2人でやらね? その……もしよかったらでいいからさ」
「…………うん!」
こうして、2人は3年生の引退する時まで、ずっと一緒に練習をするようになった。
――まぁ、といっても最初の頃は航が、ただ想太から教えられるだけだった。
しかし、2年の後半くらいからは、教えられるだけではなく互いに、切磋琢磨し合える仲になれた。
――そう、気づくと想太は孤独じゃなくなっていたのだ。
最後の都大会。この時には、もう航も想太と同じ位の実力を持つようになり、チームの
~東京都中学男子バスケット大会決勝~
第2Q
――点差は、2。両者ほぼ互角といった所だろうか。
東村は、今のこの試合の流れを掴むために
監督が言う。
「……ここをモノにするために、霞草を唐菖部に替える。今の5人は、バランスが良いが、少しだけ攻めに特化させたいからな。良いな?」
「「はい」」
彼らが一斉にそう言うと、ちょうど
「東村ボール!」
審判が、そう言うと
彼は、ボールを貰うとすぐ
――流れを、モノにする。……そうだ。俺は、いつも想太と一緒に
刹那、彼はなんの
「しまった! まずい! 止めろ!」
敵チームの監督が必死にそう言うが……もう遅い。後から
――そして……。
「おらあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
想太のダンクが決まり、点差はとうとう同点となったのだ。
*
――試合後、表彰式を終えて、帰りの支度をしていた航は同じく控室で着替えをしていた白詰に言うのだった。
「俺、お前と練習して強くなれたからさ、バスケットがもっと好きになれたんだ。だから、高校は扇野原を目指すよ。そこで俺、もっと強くなってみせる!」
その言葉に、白詰は止めかけのボタンから手を離し、笑顔で言った。
「……望むところだ。今度は敵同士。……容赦は、しねぇ。一緒に戦おうぜ!」
男達は、真っ直ぐ見つめ合い、そして硬く手を握り合って約束するのだった。
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