第16話 再会
天河は、ぜーはーぜーはーと辛そうに呼吸を繰り返しながら、白詰のいるバスケットコートの中へと入って行き、そして反対側へ転がっていったバスケットボールを拾いに行ってから、白詰の方を向いてゆっくり歩いて近づいてきた。
「……お前、俺達とバスケする事が大好きだったんだな」
白詰は、驚いた顔で固まった。――天河は、続ける。
「俺は、ずっとどうしてお前が辞めたのか分からなかったよ。けど……なんとなくだけど……分かってきた気がする。白詰……。お前は、皆がいなくなった事が原因でモチベーションが保てなくなったんだろ? 毎日、あんなに”お前ら”を全国へ行かせてやるとか言ってたけど、その”お前ら”がいなくなっちまったから……お前は、落ちぶれちまったんだろ?」
――白詰は、下を向いた。しばらく、彼はじーっと黙ったままだった。
「黙れよ……」
そして、精一杯口を開いて言うのだった。
「今更、そんな事に気づいた所で何になるってんだよ!」
天河が、真っ直ぐ白詰の目を見つめながら言った。
「俺は、ただお前に戻って来て欲しいんだ。これから最後のインターハイが始まる。今年こそ、皆でバスケをしようぜ!」
「……バカか。テメェは……。俺1人戻ってきた所でアイツらが、一緒に帰って来る訳がねぇよ! それにな、1回戦はあの扇野原だろ? 尚更不可能だ! 1回戦から恥をさらすためだけに復帰なんて……俺は御免だ! 悪いが、俺はもう出ない! 勝手にやっててくれ!」
――その瞬間、天河の手が勢いよく白詰の方へと伸びて、強烈な”打撃”を与える。
「……! てめ、何を!?」
白詰は、何か文句を言いかけたが、それを言う前に天河の表情を見て言うのをやめてしまう。
「……泣きべそかいてんじゃねぇ! お前は、俺達を全国に連れて行くんだろう? だったら、相手が扇野原だろうと何だろうと、戦えよ!」
白詰は、それを聞いて天河から目を逸らす。――そして、ボソッと本音を漏らした。
「んだよ……。ちょっと前まで、テメェだってそんなにやる気なかっただろうが……。知ってんだよこちとら」
「あぁ、なかったよ。1人で戦う気でもいた。……けど、仲間が。それでもこんな俺を心配してくれて一緒に戦ってくれる仲間が1人だけいた。……だから俺は変われたんだ! お前だって、1人じゃねぇ! 俺も……花車も……協力する。だから、もう一度一緒に試合をやろう! 勝ち負けはその後だ。……仲間だって、皆で協力して集めるんだ! そうすれば……」
しかし、言いかけた所で白詰の感情が爆発した。
「もういいんだよ! うるせぇな! しつこく話しかけてきやがって! ……俺は、俺はなぁ……俺は、バスケを捨てちまったんだよ!」
そうして、彼は下を向いて天河の持っているボールをサラッと取っていくとそのまま歩いて何処かへ行ってしまった。
残った天河は、白詰の後姿を見る事なくただ、少し前の自分の姿を思い出して、バスケットゴールを見上げた。
――やっぱり、アイツも俺と同じだったんだ……。
*
「クソッ! んだよ。もうやるかよ! クソッ!」
それから、外が完全に暗く染まりきった時間の中、白詰は地元の駅に繋がる一本道を1人歩いていた。――道端に落ちている空き缶を蹴りながら……。
「……何が試合だ! バスケだ! インターハイだ! 今更、そんなのやった所で俺にはもう何もかもが遅いってんだよ! 無駄なんだ全てが! あれは、夢のまた夢だったんだ。……そう思ったから、俺は諦めた。諦めたはずなんだ」
白詰は、自分の足に段々力が入らなくなっていき、近くの遊具のない小さくて暗い公園の中のベンチに腰掛ける。
「はぁ……」
彼は、大きな溜息をついて目の前の地面を見つめていた。
――すると……。
「あれ? 白詰? お前、白詰だよな?」
聞き覚えのある誰かの声がした。――振り向くと、そこには自分と同じ位の身長で、髪の毛を少しだけ金に染めた男が立っていた。
「……?」
白詰は、一瞬だけその男が誰か分からなかったが、その顔をジッと見ていくうちに思い出していった。
「……
そこには、すっかり見た目の変わった中学時代の親友の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます