第15話 俺の思い出

 ――タアァァァァンン!! タアァァァァァァンン!!




 ボールが地面に打ち付けられる音が、公園中に響き渡る。……そのボールを白詰は上から見下ろしながら、ボールを自分の前でドリブルさせていた。



 バスケットボールが、彼の目の辺りまで弾んで来た瞬間、彼は目を瞑った。







 ――もう、3年になっちまったんだな。





 彼の頭の中で昨日の後輩達との食事のシーンが映し出される。





 ――つい先月まで、自分はまだ2年生。と思っていた。けど……もう、違う。自分にもとうとう2個下の後輩ができちまった。本当にもう、時間がなくなってきているんだ……。




 彼は、宙に浮くボールを手で触れず、そのまま地面に落としてしまった。――彼の手から離れたバスケットボールがそのまま細かいバウンドをしながらバスケットゴールとは反対の方へ転がっていった。




 そんな何処に行くか分からないボールの行方をぼーっと眺めながら彼は、制服の内ポケットからスマートフォンを取り出し、写真のアプリを起動させて、後ろに何度もスクロールする。――少しして1つのビデオをタップし、白詰はそれを、はかなげな表情で見つめた。



 ――そこには「東村」と書かれたユニフォームを着た白詰が試合をしているシーンが流れていた。







        *


 都大会――1回戦。第3Qクォーター。東村56点VS所ヶ丘60点。東村のボールでゲームは再開されていた。





「……クソッ! このままじゃ相手のペースに飲まれるぞ」



 この時は、珍しくPGポイントガードの天河が試合中に冷静さを欠いていた。彼は、ボールを受け取ると早歩きに自分達の攻めに行く方のエリア――フロントコートへと向かって行った。



 他の仲間達は、当然そんな天河の姿を見て不安が募っていた。




「落ち着け天河。とにかく一本だ。……少しずつでも返して行けば良いんだ」


 彼の隣で一緒に走るメガネの男――霞草が冷静な声でそう言う。――しかし、それでも天河の機嫌は治らない。



「けどよ! こいつら、さっきからズルだぜ! を潰しにかかってるようにしか思えねぇ! DF3人で俺の事を囲んできやがって……あれじゃあ、なんもできねぇよ!」



「仕方あるまい。それが奴らの戦術なんだ。……実際、俺達はPG司令塔であるお前を潰せば機能しなくなってしまうのは事実でもあるんだ。そこで冷静に考えられるかが重要さ」



 霞草のその言葉を聞いて、天河はムスッとした顔になって黙ってしまう。




 ――そんな時だった。






「……葵、俺に任せろよ」



 天河の後ろから白詰が、声をかけてくる。――天河が、チラッと後ろを向くと、白詰は少しさっきよりも少し速く走って、天河の隣にやって来る。



「任せろって……けど、ボール運びやチームの指揮は俺の仕事だし……」


 天河が困った顔でそう言うと白詰はチッチッチッ……と舌打ちをして言った。



「こういう状況なんだ。に任せろ」



 白詰は、そう言うとキョトンとした顔の天河からボールを貰って一気に走り出した。




「さぁ! 一本だ! ついて来いよ。お前ら!」



 彼はそう言うと、物凄いスピードで敵のDFディフェンスが集中するゴールの近辺に向かって電光石火の如く走り出した。



「なっ! なんだ!?」



 突然のそのスピードに敵のDFディフェンスのうち何人かの反応が遅れる。



 白詰は、その隙に一気にゴールの近くまで走り込んで、シュートを放つ構えをとる。




「しまった! 止めるぞ!」


 しかし、それでもやはりDFディフェンスの密集する場所だけあって、彼らは白詰1人に対して3人で檻のように囲んで、彼のシュートを止めにかかった。

 ・

 ・

 ・




 しかし……。



「今は、が天河の代わりなんだぜ?」



 白詰はそう言うと、咄嗟にゴール下で構えているもう1人の背の高い仲間に向かって空中で鋭いパスを出した。




「しまった!!」


 白詰の周りで飛んでしまった3人の敵のDFディフェンスが驚きの表情を浮かべる。



 もう1人の仲間は、そのままDFディフェンスに囲まれる事なく、強烈なダンクシュートを決めた!





「うしっ! ナイシュッ!」


 白詰は、グッと拳を握りしめて喜びながら、着地した。






 これで得点は、東村58点VS所ヶ丘60点。2点差となり、白詰のこの動きによって試合は、再び東村の優勢となったのだった……。













        *




 ――そんなたった1分のビデオの再生が終わって、白詰はスマホをギュっと握りしめて悲しみながら転がるボールを眺めた。




「……馬鹿共が。あんなに支えてやったのに……。こんなままじゃ、やってたって意味ねぇんだよ。続けるだけ……」




 彼が、その続きを言おうとしたその瞬間、後ろから――バスケットゴールのある方から、1人の男の声が聞こえてくる。



「無駄じゃねぇよ……」




「!?」


 白詰が、ゆっくりと首と体をひねってそちらを向くと、そこには、ぜーはーぜーは―と息を切らしながら立つ天河の姿があった。




「……あ、おい……」



 白詰は、そう言ったまま表情を固まらせた。

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