第11話 闇夜へ消えた光
「想太……」
天河は、突如現れたその男をジーっと見つめていた。――すると、向こうにいた花車が駆け足で白詰の元へ寄っていく。
「……想太! 久しぶりだな。どうしたんだ急に? もしかして、本当はバスケがしたくて……」
「……いや~、今日はバイトないんで、久しぶりに運動しないとなぁって思って来ただけよ。まっ、皆で楽しく気軽にやろや~」
彼は、そう言うと体育館の舞台の上に自分の荷物を置いた後に、いきなり準備運動もしないで勝手にボールを取って、それを適当にシュートし始めた。
「……!?」
その突然の行動に天河と花車、そしてそれまで天河と共に真剣にやりつつあった他の部員達も驚いた様子で彼の姿をジーっと見ていた。
少しして、自分の後ろからの視線に気づいた白詰が後ろを振り返って言った。
「……どしたん? 練習してなよ。俺は勝手にやってるからさ」
そう言って、彼はシュート練習を続けるのだった。
他の部員達は、そんな彼の姿を見てか、そこからさっきのように気合の入った声出しもなく練習の時間は過ぎていったのだった。
*
「今日の練習は、ここまで!」
「「おつかれっしたあああ!!」」
一日の練習が終わった。……部員達は、ぞろぞろと体育館の外へと歩き出す。
そんな中、体育館の真ん中でボールを持った天河はドアへ向かって歩く白詰の姿を見て思っていた。
――よしっ! 今日は、せっかく来てくれたし……。
天河は、すぐに体育館から出て行こうとする白詰の元へ走って向かって行った。
――何はともあれ……今日来てくれたのは説得のチャンスだ! 部活後の自主練、ここでゆっくり3年だけで話し合いながら、一緒に練習を……。
そして、白詰のすぐ傍までやってくると、天河は声を発した。
「おい! 白つ……」
しかし、その瞬間……。
「……うい~、元気してたか~? お前ら!」
前を歩いていた白詰が、急に隣を歩いていた後輩達へ軽いノリで話しかける。
「パイセ~ン!」
「来る時は言ってくださいよ~」
後輩達は、そんな彼のノリに乗っかる感じで返事をする。――白詰が、言った。
「……わりわりぃ~。なぁなぁ! 今日は、せっかくだしこのままご飯でも行かねぇか? ちょうど昨日バイト代も出たしさ~」
「お! 良いっすね~。なんか美味しいもんでも食いに行きやしょうか~」
「良いね良いね~!」
2人の後輩達も、ノリノリだった。
白詰は、ニッコリ笑ってから両手を強く叩いて言った。
「うしっ! 決まりな。じゃあよっ! 鈴原と白波さ、ついでだから一年も誘っといてくれや」
「「ういーす!」」
「じゃあ、行くか!」
白詰は、左右の手で2人の後輩達の肩を持つようにしてのっけてそのまま歩き出した。
「おっ、おい……白詰…………」
「……」
天河の呼び声の後に、白詰は一瞬だけ後ろを振り返って冷たい目で彼を見た。そして、2人の2年生――
「……白詰」
天河は、1人ドアの前で立ったまましばらく夜の闇をジーっと見つめるのだった。
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