白詰編

第10話 エースを掴め!

「……次! レイアップシュート! さぁ、お前ら! 早く列を作れ! テキパキ動くんだァ!」


「おう!」


 それから、部長の天河は練習に復帰。光星バスケ部は、普段通りの1、2、3年全て2人ずつの状態に戻った。



 ――そして、メンバーが元に戻ったと同時に彼らの練習の雰囲気も少しずつ変化していった。


 部長の天河と副部長、花車を中心に少しずつ部活の練習に活気が生まれだした。下級生達は、そんな彼らの姿を見て最初は「実は、偽物なんじゃないか?」とか「とんでもないもんでも食ったんじゃないか?」とか疑っていたが、今ではそんな2人に従って彼らも真剣に練習に取り組みつつあったのだった……。




 ――戻って来て最初の頃、トーナメント表を見せた時はあれ程モチベーションをなくしていた後輩達も今では少しずつだが、バスケットへの情熱を思い出してきている……そんな風に見える。少しずつだ。……少しずつ、変えていくんだ。



 天河は、そんな部活の練習風景を見ながら1人希望に満ちた表情で思うのだった。



 そして、それと同時に暗い表情で思った。



 ――後は、……そうだ。アイツらを取り戻す方……だな。




 あの夜の後、天河と花車は毎日夜になると2人でトレーニングをしながら通話をするようになった。通話の内容は当然、4人の仲間達を取り戻す事についてなのだが……これが、なかなかうまく進まない。


 そもそも、2人にとって彼らがバスケットから距離を置くようになった理由というのがいまいち見えて来なかった。


 だから、呼び戻すと言ってもまず誰から声をかけるか……これが第一の問題だった。


 天河は、昨日の夜の通話の内容を思い出していた。




「……4人のうち2人は、部活をやめてしまっている。しかもアイツらは、ほとんど学校にさえ来ていない」


「……だったら、残りの幽霊部員2人を説得しよう。あの2人なら、両方とも学校に来ているだろう? 天河」


「あぁ、多分な」


「……よし、じゃあそれでひとまず決まりだな」




「いや、問題はもう1つ。どちらを先に説得しにかかるかだ。……正直、2人

同時にとなるとかなり大変だぞ?」



 すると、花車は電話越しに鼻で笑って言った。

「それなら平気さ。俺とお前で二手に分かれて説得すれば良い。お前は、確か数学の少人数クラスが白詰しろつめと同じだったろ? だったら、お前はまずそっちを……んで、俺はもう1人のの方を当たってみるよ」




 ――昨日で、第一の問題は解決した。だが……。



 天河は、今朝の数学の教室移動中、そしてその後に何度も白詰しろつめに話しかけた。



 しかし、結果は全て適当に返事をされて終了だった。


 後で、花車にも聞いてみたがやはり同じように適当に返事を返してくるだけで何もなかったようだ。



 ――問題は、かなり山積みだな……。




 天河は、1人体育館の上の窓から刺す赤い夕陽を見つめた。









 ――と、その時だった。



「……ういーす」



 体育館のドアが、ガラッという音を立てて開きだす。





 ――この声は……!




 天河、そして花車はほぼ同時に同じ方向を向いた。








 ――そこには、ヘアバンドで長い黒髪をおしゃれに立たせたちゃらそうな見た目の男がバスケットシューズの紐を持って振り子のようにプランプランさせてやってくる姿があった。








 ――白詰!?





 これが、東村中学元エース。白詰想太とのバスケット選手として約1年ぶりの再会だった。


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