第6話 突然の失踪

 






 ――それから1週間の時が流れた。光星学園男子バスケ部の練習は、あの時から


 理由は、顧問の小田牧が女子バスケ部に譲り続けていたから……ではなく、部長――天河が原因だった。



 どうも、あの日から天河は放課後になると急に、具合が悪くなったなどと言って練習をしようとせず、挙句の果てには部全体の練習もなしにしてしまうというそんな事が、この1週間の間に起こっていたのだった。




 ――どうしたんだろうな。天河の奴……最近、元気がないな……。



 そんな時、光星学園男子バスケ部副部長の花車蓮はなぐるまれんは1人、彼の事をこの1週間ずっと心配していた。




 彼は、その日の放課後いつも通り携帯を確認した。……すると、そこには一言だけ「今日の部活もなしだ」と短く書かれたメールが送信されていた。




「……」


 花車は、そのたった一言の短文を見た後に、天河とのここ1週間のメールのやりとりを見返した。


 ――といっても、それは別に大したやりとりなどなく、ただ毎日「今日はなしだ」「分かった」というロボット同士のやりとりのような会話が続いているだけで、何一つ面白みなんてない。ドレッシングのかかっていないサラダのように透明なメール履歴だった。





「よしっ……」



 花車はトーク画面に戻ると、手慣れた手つきでメールを打った。





 ――最近、練習全然ないけど何かあったか?




 すぐに既読マークがつき、返信が届く。



 ――体は平気。ただ、急ぎの用があるから今日はなし。



「……」




 ――了解。



 打ち終えた花車は、教室から見える夕日の綺麗な空を見上げた。




「……用事なんて、本当はないんだろう。なぁ……天河」



 それから、彼は持ってきてしまったバスケットシューズとボールをリュックの中にしまい込んで、教室を出た。













          *



 ──それからもこんな事が続いた。花車は途中で、天河抜きの練習を始めたりもしたが、それでもやはり部長抜きとなると、チーム内でのまとまりはどんどんなくなっていくものだ。

 今や部活は、真剣に練習をしている者など花車だけだった。他の部員達は、喋ってばかりで形にもなっていない。




 ――戻って来てくれよ。天河。……お前が必要なんだ。




 花車の気持ちは膨らんで行くばかりだった。自分じゃ天河のようにはいかない。そんな事が、時の進んで行くたびに明確な事実として自分の心や頭の中に強く刻まれていくのを感じる。








 



――そうやって、また1週間程の時が経ったある日。とうとう、自分の気持ちを抑えられなくなった花車は、なんだか無性に夜の冷たい空気を体いっぱいに吸い込みたくなって、自宅から10分ほどで着くコンビニまで散歩に出る事にした。


 彼は、家のドアを開けたと同時に深い溜息をつく。まるでそれは、これまで自分の抱え込んできた重たい責任感という名の鉄の塊を吐き出すかのように彼の体の力がグッと抜けていくのを感じた。




 「毎度ありがとうございました~」


 店員の軽い声を背に、彼は店から出ていく。その右手には甘いプリンとミルクティーの紙パック、それから明日の学校で飲むようのカルピスが入っていて、彼はそれをブランコのようにぶらんぶらんと揺らしながら、帰路に着くのだった。


 しかし、どういう訳か。その時の彼は、自分の暗い気持ちを晴らすための本能的な働きか……なんとなく、寄り道をしたい気分になった。



 ――彼は、コンビニを出ると家とは反対方向へと進んで行き、遠回りを始めるのだった。





















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