第3話 過去の栄光
誰も人のいない暗い校舎の中、部活を終えて帰る2人の男子生徒――天河と花車は、静かに校門を抜けて自分達の家がある方向へと歩き出した。
――彼らの家はここから近いため、2人はよく歩いて登下校するのだ。
そんな足音と近くを走る車の音だけが聞こえる薄暗い帰り道の中で、花車は喋り出した。
「……なぁ、やっぱり今年もダメ……だよな?」
「……」
花車の言葉に対して隣を歩く天河は無言のままだった。――花車は続けた。
「だって、やっぱりアイツらがいないと……5人が揃わないんじゃ……」
「……」
天河は、それでも無言でいた。
――目の前の信号が赤に変わり、2人は立ち止まる。……しばらく車の走り去る音だけのする沈黙の時間が続いた。
――車道側の信号が黄色……そして赤になる。それと同時に、天河は喋り出した。
「……いない奴らの事なんか考えるんじゃない」
信号が、緑になる直前から天河は歩き出した。その後ろ姿を悲しげな表情で花車は見つめた。
――それから2人が話す事はなく、お互いにただ黙ってそれぞれの家へと向かうのだった。
*
「ただいま~」
天河が家に着くと、家の奥から母の声が聞こえてくる。
「……おかえりなさい。お腹減った? すぐに食べるかい?」
「いや、ごめん。ちょっと横になりたい。今日は、疲れちゃったよ」
天河は、そう言うと階段を上って二階にある自分の部屋へと入っていった。
*
――部屋の中に入ると、すぐ目の前に黄金に輝くピッカピカのトロフィーとその隣にトロフィーの輝きに負けない位の笑顔で写る「東村」と書かれたユニフォームを着た男達の写真が木製の写真たての中に入っているのが見えた。
「……」
天河は黙って荷物を置き、黙々と制服を脱いだ。――パンツだけの姿になった彼は、その写真たてを持って、いつも自分が寝るベッドで横になった。
「はぁ……」
――ぼーっと、その写真を見つめながら彼は溜め息をついて、昔を思い出すのだった。
~今から3年前~
天河は、この時まだ中学3年生。「東村中学」と呼ばれる市内の中学校に通っていた彼は、そこのバスケ部でやはり今と同じように部長を務めていた。
彼のいた中学は元々、そんなにバスケが強い学校ではなかった。しかし、彼らの代になって東村中学男子バスケ部は、大きく変わった。それまで市内大会どまりだったその学校は、一気に都大会へ進出。
特にこの時のスタメン5人は、他の東村の選手達に比べて格が違った。スピードと正確なパスを得意とするチームの司令塔――
そして、彼らにとって最後の都大会では、ついに都内最強の座を手にする事となった。
夏の最後の大会。ラスト23秒の奇跡とも言われているその試合は、都大会決勝――1点差で負けていた東村が、最後の最後でアリウープを決めて勝利するという……まるで漫画のような強烈な最後で、それ以外にもこの試合では中学バスケット史に残る名プレイが数多く存在すると言われている程に凄い試合であったのだ。
……その後、彼らは中学バスケ界から姿を消し、5人は地元の公園の中で誓い合ったのだった。
「次は、全国を目指そう。また次も同じチームになろう」
こうして5人はその後、自分達の家から最も近い私立
――しかし……。
「……残ったのは、俺だけか」
天河は、そう言って写真たてを床に置き、ベッドの上で横向きになってしばらく目を瞑るのだった。
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