第2話 一人ぼっちの体育館
私立
毎年、卒業生の97%ほどが大学進学をするため、3年になると授業のカリキュラムが少し変わり、下級生達が家に帰る下校時間にはたまに7時間目を行ったりする。少し進学校っぽい場所だ。
――しかし、そんな素晴らしい学校にある男子バスケ部にはこのような輝かしさなど微塵も存在しない。
――光星学園高校男子バスケ部。全国大会出場経験はおろか、夏のインターハイでは毎年予選1回戦で負けてしまうような超弱小校だ。部員数も3年4人、2年2人、1年2人と少なく、今年も人数ギリギリでようやくインターハイ出場が可能となったそんな所。
マネージャーはおらず、顧問も全然練習に顔を出さない。そもそもいつもちゃんと練習に来ている人間なんて、これよりもっと少ない。練習に来ていても、彼らにモチベーションなんてものはない。そんな、誰しもがクズだと思えるような壊滅的状況のバスケ部なのだ。
*
「今日は、ここまで!」
「「おつかれっしたァァァァァ!!」」
部員達は皆、体育館に残ってモップ掛けをしたり、自主的に練習などしない。彼らは、練習が終わると同時にゲームや次のテストの話などを始めてそそくさと帰っていくのだった。
……ただひとりを除いて。
*
――タアァァン! タアァァン! ……っと、ボールが何度も
その音は、徐々に激しさを増して行き、そしてそれと同時に
「……ふぅ」
汗でびっしょびしょになった運動着で、首元を拭く天河の姿があった。
彼は、呼吸を整えるために大きく深呼吸を繰り返し、そして近くに置いてあったペットボトルの水を飲み干す。
「……ハアァァァ」
体に疲れが溜まりだしたのを感じ出す。――彼は、しばらく下を向いてぼーっとした後、体育館の上につけられている時計を見た。
――8時30分。
外は、完全に暗く染まりきっていて、少しだけ寒さを感じる風が吹くそんな時間だ。
「……もう、帰るか」
そんな独り言を言ってから、天河は1人モップ掛けをして、体育館の鍵を閉めて部室に向かうのだった。
*
「ふぅ~……」
部室は、もうとっくに真っ暗になっており、とても静かになっていた。当然、中には人など誰もおらず天河は1人、頭からタオルを被って大きく深呼吸をして疲れをとっていた。
すると、そこに聞き覚えのある声が彼の耳に入り込む。
「……お疲れ天河。悪いな。練習付き合えなくて……。急に数学の先生から呼び出しくらっちゃって……」
声の主は、そう言った後に何かを天河に向けてパスする。
「……ありがとう。花車」
天河は、そう言うと投げられたスポーツドリンクの缶を開け、少し飲んでから黙ってボーっと下を眺めていた。
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すると、そんな暗い雰囲気の中で花車が、ボソッとこんな言葉を漏らした。
「……次の試合、何処と当たるのかなぁ」
「……」
天河は何も言わず、入口の近くに立つ花車の事をしばらく見つめていたが、少しして頭の上に乗ったタオルを取って、立ち上がり自分のロッカーを開ける。
「さぁな……」
天河は、それだけ言って制服に着替え始めた。
――それから帰りの支度が終わると彼は、ドアの前でずっと待っていた花車に「帰るか」と言って、部室から出ていくのだった。
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