天河編
第1話 そして今……。
校門の辺りを通り過ぎて行く高校生達の姿が見える16時。校舎内にいた生徒達が次々と敷地内から出ていく。
高校は、さっきまでの生徒と活気で溢れた姿から一変して静かな空間になろうとしていた。
そんな静かになっていく場所に合わせてか、体育館の中で練習を始めたとある部活の部員達も、体を重そうに動かしながらノロノロ走っていた。
シューズとコートの擦れる音とボールが掌にぶつかる音だけが、体育館に響く。
声を出している人はほとんどおらず、いてもその全員が小さな低い声で、まるで工場の流れ作業をこなしている時のように決まったタイミングでのみ小さく言うのだった。
「……ドンマイ。……ドンマイ。……ナイシュウ。……ドンマイ」
その光景は、部活の練習風景などと到底言えるようなものではなかった。
――そんな体育館の光景が続く中、突如として入口の扉が大きな音を立てて開かれる。
「おなしゃす!」
大きな声をあげて、扉の外から一人の男が現れる。――寝ぐせでぼさぼさになった黒髪が特徴的で、身長は160cm。
男は、挨拶を終えると小走りに体育館の中へと入って行く。……途端に、それまでロボットのように稼働していた他の部員達が、男の方を見て一斉にマシンガンを浴びせる様に大きな声で、挨拶をしだした。
「「こんちゃぁぁぁ! キャプテン!」」
部員達の大きな声が止むと、キャプテンと呼ばれたその男は手に持ったバスケットシューズを履いて、コートの端っこで準備運動を始めた。
――彼が屈伸や震脚などを終えて、ストレッチに取り掛かった時、コートの真ん中から1人の男が駆け寄ってきた。
「……
その男は、犬のような雰囲気で、真っ直ぐで奇麗な茶髪が特徴的な背の小さい人だった。
「……どうしたんだ?
キャプテンの天河が顔を上げると、花車は話し出した。
「……その、えっと……」
彼は、もじもじと言いにくそうな態度で、突然その声を小さくする。
「……アイツらの事か?」
天河が、少し低めの声でそう言うと、花車は隠し事がバレた少年のようにその体をビクッと揺らしだした。
――当然、その様子を見逃さなかった天河は、更に続けて質問する。
「……今日も、休みなのか?」
「あぁ、すまない。……天河」
花車は、本当に申し訳なさそうに深く頭を下げて、謝罪した。その様子を何処か悲しそうな顔で下から見ていた天河は、一度大きなため息をついた後、花車の顔を覗き込むようにして見つめて言った。
「……お前は、悪くねぇよ。勝手に休んでるアイツらがいけねぇんだ。――それより、すまねぇな。そろそろインターハイも近いってのに、授業が長引いちまってな。練習は、何処までやったんだ?」
天河は、サバサバした感じでそう言うと、パパッと残りのストレッチを終えて、部員達が集まっているエリアへと歩き出す。
「えっと……とりあえず、今はシュートの練習をしてるよ」
花車が、そう言うと天河は小さくコクッと頷いて、それから大きな声で「集合!」と叫び、部員達を自分の元に集め、その真ん中に立って大きく口を開く。
「……インターハイ開催までそろそろ2か月となった。トーナメント表は、まだ来ていないが今年こそ、全国大会目指して頑張るぞ!」
キャプテンの天河が、気合の籠った声で部員達にそう言った。……しかし、それを聞いた部員達はそれぞれヒソヒソ声で囁き合うのだった。
「……無理に決まってんだろ。こんなクズ部で」「……どうせ、今年も1回戦負けさ」「……そもそも全国行くには、あの
――彼らは、皆気づかれないと思ってそんな事をヒソヒソ話していた。……現に、前で話をしている天河は、彼らに全く気付いていない素振りをして、堂々と立ち続けた。
だが、本当は違う。
――今年も難しいだろうな。なんせ、結局アイツらは来ないまま。このままじゃ俺達は……。
天河は、心の中でそう思った後、部員達に次なる練習メニューを伝え、そして大きな声で
「
たった一人だけの声が、体育館に響く。――天河はその後、彼らと同じく機械のように、その後の練習に取り組んだ……。しかし、部員達の着る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます