第3話 それは福鬼じゃない!

 今日、聞こえてきたのは、昔話のようだった。もちろん、反体制の地下放送が、そんな悠長な話を流すわけがない。きっと何かの暗号なのだろう。物騒な事が起こらなければ良いのだが……。



 最初に突如あらわれた鬼は得体が知れず、皆を恐怖に陥れましたが、暴れたのは最小のうちだけで、いつのまにかいなくなり、代わってD鬼が暴れ回りました。ただ、どういうわけかこの国では被害が少なくて済みました。


 世界を大混乱させ、多大な被害を与えたD鬼でしたが、秋の終わに、葉が落ちるように静かに消えてしまいました。人間が退治したからではありません。新しく登場したO鬼との競争に負けてしまったからです。

 O鬼はスピードがとても速く、D鬼の先回りをして人間に取り憑きました。そのためD鬼は人間に取り憑くことが出来ずに死んでしまったのです。

 当初、O鬼はフレンドリーでした。人間に取り憑いてもほとんど害を及ぼしませんでした。それでいて、おそろしいD鬼を駆逐してくれたのですから、今度の鬼は福鬼だと歓迎されました。

 多くの国で、鬼に対する警戒が解除され、世界は鬼の侵略から解放されたかに見えました。


 ところが、フレンドリーに思えたO鬼が静かに変化しはじめました。仮に、性格の変わったO鬼のことをO鬼(毒)と呼ぶことにします。

 O鬼(毒)は、人に取り憑く力がさらにアップした上に、かつてのD鬼のような凶暴性を発揮しはじめました。これは大変な事態です。


 しかし、いったん警戒を解いた人々は、あのフレンドリーなO鬼が凶暴化したと聞かされても、取り合おうとはしません。

 それにはマスコミの問題もありました。これまでさんざん脅かされてきた人々は、もうダマされないぞ! という心理になっていたからです。このままでは大変なことになりそうです。


 この放送を聴いた人は、絶対に油断しないでください。O鬼は別人、いや別鬼に変わりつつあります。鬼が優しくなったというのは、つかの間の夢でした……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る