エピローグ
……気付いたら見慣れた街にいた。東狂都
「あー! 大和くん、そんなところで何してるにゃん?」
小柄な少女が大きく手を振っている。頭の上でカチューシャの猫耳がぴこぴこ揺れて、初春の風に薄桃色のロングカーディガンがなびく。……MDC常務、
「……何故いる」
「
「それはいい。……というか、さっさとお前たちの拠点に帰れ。万一他の社員に見られたらどうする。俺とお前は敵同士だぞ」
「そ、それはそうにゃんけど……情報引き出してたって言えば何とかなるにゃん!」
「ならないだろ……用がないならもう行くぞ」
「あぁっ、ちょっと待つにゃん!」
歩き出そうとする大和をカノンが引き留める。何となく拒絶しきれずに振り返ると、カノンは大きな瞳をきらんっと輝かせた。
「大和くん、なんか前より雰囲気変わったにゃん?」
「……は?」
「ちょっと目に光が増えた気がするにゃん!」
大きな両目を指さされ、満面の笑みを浮かべられる。……はっとした。今までの自分はそんなに目に光がなかったのか。確かに、あの迷宮に挑む前より世界がはっきり見えるような気もする。
「なんか知らないけどよかったにゃん。大和くんにも色々あったのにゃんねー」
「……ああ、色々あった」
二択迷宮で繰り広げられたことを思い返す。次々と降りかかる試練と残酷な選択肢に散々苦しめられた。だが、そこから得たものも確かにある。
「八坂。……俺はパートシュクレを抜けるつもりはない。今のところはな」
「にゃ……?」
「俺はこれ以上後悔したくない。だから、これからは後悔しない選択をする。その結果お前たちMDCと刃を交えることになっても恨むなよ」
「恨まないにゃんっ! 君がそれを望んだのなら常務にゃんはそれを否定しないにゃん。そのうえで正面から受け止めるにゃん! 手加減はしないにゃんっ!」
「ああ。望むところだ」
頷き、小さく微笑む。……そんなことができるとは思っていない。あの大神タルトがそんなことを許すとは思っていない。だが、できる限りのことはするつもりだ。そんな目をした大和を満足げに眺め、カノンは春の日差しのように眩しい笑顔を見せた。
「にゃはっ、常務にゃんは君を応援するにゃん。場合によっては塩でも砂糖でもクエン酸でも送るにゃんっ!」
「……クエン酸?」
「それじゃあまた会おうにゃん! 次会う時は敵対しないことを祈るにゃー!」
大きく手を振りながらカノンが後ろ歩きで遠ざかってゆく。しれっと後ろを見ずに電柱を避けている辺りが彼女らしい。パン屋の角を曲がるカノンを見送り、大和はパートシュクレの拠点へと歩き出した。
神官の懐刀、悪魔の迷宮にて 東美桜 @Aspel-Girl
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