『鋼鉄』――銃と準備と命の意味

 鋼鉄の扉をくぐった先はまたしても真っ白な部屋だった。またしても白いテーブルの上には、今度は六連発のリボルバー銃と親指ほどの大きさの小瓶が置かれている。その向こうにはまた白いドアが鎮座している。大和は一通り部屋を眺めると、テーブルに歩み寄りつつ手の中のチップに目を向けた。

「チップ。……次の二択はこの銃と瓶のどちらを選ぶか、か?」

「は、はい……話が早くて助かります……。えっと、そっちの銃は銃口をあなたの頭か心臓に向けて射程距離内で引鉄引いて、生き残れば先に進めます……」

 チップの説明を聞きながらリボルバー銃を手に取る。重さも感触も、大和が召喚できるものとさほど差はないようだ。しばしそれを検分したのち、チップに問いを投げかける。

「弾丸の種類はわかるか?」

「さ、さぁ……ランダムとしか答えようがないというか……」

「……そうか。わかった。なら、かなり運に左右されるな」

 高い貫通力を持つタングステン弾や殺傷力が高いダムダム弾が来たら流石に死を覚悟せざるを得ない。逆に殺傷力のないゴム弾がくる可能性も否定できない分、賭けの要素が大きくなってくるようだ。一旦リボルバーとチップを置き、小瓶を手に取る。スクリュー式の蓋がされた瓶の中には粘度の高い液体が入っている。

「……こっちの瓶は?」

「えっと、それは……飲むと残りの寿命が半分になります……。その、飲み干すと先に進めます……」

「残りの寿命が半分、か……。それは薬や治療で何とかなるものか?」

「な、ならない……です。概念的なもんなんで……」

「……そうか」

 小瓶を机に戻し、銃と見比べる。数秒考えたのち、迷わずリボルバー銃を掴み取った。改めて銃を注意深く検分する大和を注視しつつ、チップは問いかけた。

「……なんでそっち……?」

「こっちの方がまだ安全に生き残る確率が高いんだ。……それに寿命が削られて、贖罪を果たす前に死んだりしたら困る。あいつが力の代償で命を落とす前に俺が死ぬのも困る」

 言いつつも虚空に手を伸ばし、出現したセラミックス入りの防弾ベストを掴み取る。元々着ていた軍服の上にそれを着込むと、リボルバーの銃口を自身の心臓に向けた。軽い金属音を立ててシリンダーが回転し、弾丸が装填される音がする。もう片方の手で眼鏡を軽く押し上げてから、ゆっくりと深呼吸をして……躊躇いなく引鉄を引いた。

 ダンッ、と音を立てて弾丸が放たれる。大和の心臓を狙って射出されたそれは音を立てて彼へと迫り……その心臓を貫く寸前、派手な金属音を立てて弾かれた。金色の小さな弾丸が白い床に落ち、転がっていく。

「……22LR弾か。まぁ、準備するに越したことはなかったな」

 呟き、弾切れになった銃をテーブルに戻す。平然とした様子を見つめ、チップの表面に描かれた瞳がぎょろりと動いた。

「……ずいぶん平然としてますね。死ぬのは困るって言ってた割に」

「生き残る算段はあったからな。これでもだめなら防弾盾を召喚するつもりだった」

 防弾ベストを脱いで消滅させると、テーブルに置いていたチップを拾い上げる。表に描かれている瞳は不思議そうに、それでいて嘲笑うように歪んでいた。そんなチップを一瞥だけして、大和はテーブルの向こうの扉へ歩み寄っていく。

「困るとは言ったが、怖いとは言っていないだろう。……どうせ罪に穢れた身体だ。すべきことを果たすまでは生きるつもりだが、命そのものに執着はない」

「さいですか……」

 チップが面倒そうに目を逸らす。大和はそんなチップを一瞥し、注意深く扉を押し開けた。

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